自民・新山口3区支部長は林外相|比例中国ブロックで注目される安倍後継の順位

改正公職選挙法の「10増10減」に伴う候補者調整で最も注目されていた、安倍晋三元首相の地元山口4区と林芳正外相の山口3区が合区になる格好の「新山口3区」。両陣営による熾烈な支部長争奪戦が繰り広げられたが、ついに決着。自民党は6月16日、新山口3区を林氏に、安倍元首相の後継で山口4区の吉田真次衆議院議員を比例中国ブロックに転出させると発表した。

■安倍後継・吉田氏の厳しい道のり

4月の衆院補選で、安倍元首相の「後継」として当選し、新山口3区からの出馬を訴えていた吉田氏。安倍昭恵夫人が後援会長に就任してまで後押ししたが、岸田派のナンバー2で外相という要職に就く林氏からは「格の違い」を見せつけられた。

「林さんは外相をはじめ数々の要職を経験し、参議院議員としてはじめて自民党総裁選に出た経験もある。吉田が安倍元首相の御威光をいくらひけらかしても、岸田首相がうんというわけはない」――岸田派の国会議員は、当然といわんばかりの表情だ。

一方、吉田氏を後押しする安倍派の衆院議員は胸の内をこう明かす。
「安倍元首相が亡くなって間もなく1年。岸田首相は安倍派の応援があって総理の座についた。コスタリカ方式だとか、もう少し考えてくれてもよかったんじゃないか。正直、吉田ではなく昭恵夫人が後継者として出馬してくれたらこんなことにはならなかった。ただし、党の判断で比例に回るとはいえ、吉田もまだまだ安心はできない」

確かに、吉田氏にはこれからも厳しい争いが待っている。同じ比例中国ブロックである広島県と岡山県も、「10増10減」によって、それぞれ一つずつ選挙区が減る。広島では新谷正義衆議院議員、岡山県では平沼正二郎衆議院議員が選挙区調整の結果、比例中国ブロックに転出することが決まっている。吉田氏を含めて、党の方針で選挙区を奪われた形の3人が比例順位の「上位処遇」を求めることになるのだ。

比例中国ブロックは全体で11議席。2021年に自民党が獲得したのは6議席で、2017年は5議席に過ぎなかった。限定される枠に対し、比例にすがらざるを得ない議員の数が多すぎる。

■多すぎる比例候補

前回の総選挙では、元法相・河井克行受刑者による公職選挙法事件のあおりもあって、公明党が議席を有する広島3区で自民党の石橋林太郎衆議院議員を比例単独にまわし名簿1位で処遇した。ぎくしゃくしている公明との連携を保つためには、今回も同様の対応が求められる。

また、小選挙区で敗戦して比例復活した議員が、広島と岡山で1人ずつ。さらには、比例単独で議席を得ている議員が、差別主義者として騒ぎばかり起こす杉田水脈氏など3人もいる。吉田氏を入れて7人。比例の得票数次第では、1~2名が議席をなくすことになる。

ある自民党幹部は、「実は、吉田に比例九州ブロックへの転出を打診した。中国ブロックの比例枠では、順位次第で当選できない可能性があるからだ。しかし、吉田が頑として承知しなかったので、ますます比例順位が混迷することになった」と頭を抱える。

公明との関係から比例に転出した新谷議員の後援会幹部は、比例の上位処遇は当たり前だと強気に語る。
「うちは党本部の裁定で比例中国ブロックに転出したので、1位か2位という順位は確約してもらったと思っている。同じような立場の平沼さんの方も同様の考えだろう。うちの新谷は、当選3回で副大臣も経験しており、実績としては平沼さんや石橋さんなどよりより上。正直、1位で当たり前だというのが後援会の意見です。吉田さんですか? 補選で当選したばかりでしょう。それも(山口県が)1減になることをわかったうえでの出馬。うちより上位で処遇されることは絶対ないはずだ」

広島の自民党県議も、「石橋さんは今も広島3区から出馬したいという意向は崩していない。本来なら、河井克行の事件を受けた広島県連の候補者選考で、3区の支部長に内定していた石橋さんが出馬するはずだったものを、公明党に配慮した党の都合で比例にまわれとなったもの。安倍元総理の後継として出てきたばかりの吉田氏と同列に並べてほしくない」と激しい口調で比例の順位にこだわる。

比例中国ブロックでの処遇を求める新谷氏、平沼氏、石橋氏、吉田氏をそのまま上位に並べると、予想される比例復活枠は最大でも2。比例単独の杉田氏らが黙ってみているとは思えず、比例中国を巡る自民内の争いは激しさを増しそうだ。

野党の勢いも侮れない。前回総選挙の比例中国ブロックで1議席を獲得した日本維新の会は、躍進した統一地方選の勢いに乗って2議席獲得を視野に入れる。野党第一党の座を死守したい立憲民主党の幹部は、「山口2区と山口4区の補選は、善戦だったといえるでしょう。次の解散総選挙では中国ブロックは少なくとも現状の2、あわよくば3か4という思いがある。特に林外相の新山口3区は有田芳生さんが再度出馬すれば注目区になり、うちへの比例票は確実に増えるはずです」と話す。

野党が議席を伸ばすと、自民党の議席が減るのは必然。林外相を支援するある地方議員が、その点について危機感をにじませる。
「岸田首相の地元でもある中国ブロックで、議席減は絶対に許されない。比例順位でもめるのは必至。当選回数や実績からいって、一番あおりを食うのは吉田さんだろう。当選圏外の順位もありうる情勢だ。吉田氏は一時、無所属で新山口3区から出るとの情報が流れた。安倍元総理の看板をバックにそんなことになれば大混乱。そうなると、元総理のお気に入りだった杉田水脈らも呼応しかねない」

比例中国ブロックの順位が、自民党の新たな火種になりつつある。

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