【強行突入の映像入手】違法逮捕の被害者が道警を提訴|虚偽公文書作成での告訴も検討

3月末に札幌市で起きた北海道警察による無令状「緊急逮捕」事件( 既報 )で、違法な身柄拘束の被害に遭った男性らが15日、道警に約1,400万円の賠償を求める国家賠償請求訴訟を提起した。提訴後に会見した原告代理人らは「裁判を起こすことで今後の違法捜査を抑止したい」と話している。

■強行突入の瞬間

訴えを起こしたのは、本年3月29日に違法逮捕の被害に遭った札幌市中央区の自営業男性(25)と、同居する会社員女性(37)。本サイト既報の通り、3月下旬に2人の痴話喧嘩を聴きつけた道警・札幌中央署の捜査員らが男性を加害者、女性を被害者とする「傷害事件」の立件を試み、被害を否定する女性を深夜から早朝にかけて事実上軟禁し続けた挙げ句、女性を騙して2人の自宅であるマンション一室に侵入しようとした。在室していた男性は突如現われた警察官らに任意同行を求められ、これを拒否。すると警察は自室にいただけの男性を「立てこもり」扱いし、約4時間後にベランダの窓ガラスを破って強行突入、男性を「緊急逮捕」したのだ。

(突入の瞬間の動画。近隣住民提供)

 

■警察が狙ったのは「別件逮捕」

令状なしに身柄を拘束された男性はその後、薬物使用の疑いをかけられて強制採尿され、これに陽性反応が出たとして再逮捕されることに。つまり当初の傷害事件での逮捕は、薬物事件の前歴がある男性をターゲットとした「別件逮捕」だった可能性が高い。とはいえ男性自身は筆者の取材に対して今回の薬物使用を否定しており、強制採尿についても「自ら2度も採尿に協力したのに結果的に強制採取された」と、手続きの不自然さを証言している。

裁判所は当初、男性の勾留を適法としたが、被害者とされる女性がそもそも被害を訴えておらず、自室に侵入しないよう警察官に求めていた経緯を知るに及び、異例の「更正」に踏み切って男性を釈放することとなる。検察もまた証拠の違法性を認めて傷害事件・薬物事件ともに不起訴処分とした。だが問題の逮捕行為が違法と指摘されてもなお、肝心の警察は男性らに謝罪せず、武装警官の強行突入により破損したベランダ窓の修理代も弁償しようとしなかった。今回の国賠訴訟は、こうした対応に精神的苦痛を覚えた男性が「傷害事件」の被害者とされた女性とともに、慰謝料などを求めて警察を訴えたものだ。

提訴に併せて15日午前に札幌市内で会見を開いた原告代理人の青木康之弁護士(札幌弁護士会)は「警察は当たり前の手続きをきちんと守って欲しい」と呼びかけている。

「充分な時間的余裕があるのに逮捕令状をとろうとせず、窓ガラスを破って侵入するなんて異常な話であり、あってはならないこと。裁判を起こすことでこの実態を知らしめ、今後の違法捜査を抑止したいと考えています」(青木弁護士)

■道警に虚偽報告の疑い

先述の通り、裁判所は一時、男性の勾留を適法としていた。これは、逮捕行為を正当化しようとした警察が裁判所に虚偽の報告をしていたためと考えられる。具体的には、逮捕場所となった部屋の主である女性が実際には警察の入室を拒んでいたにもかかわらず、さも捜査員が女性の許可を得て窓からの突入に踏み切ったかのように報告していた可能性が高い。実際、裁判所自身が先の更正決定でこう指摘しているのだ。

《捜査機関は、被害者の承諾の有無という捜査の適法性を左右する重要な事実について、あえて詳細な事実関係を糊塗して緊急逮捕状等を請求した》

原告側は今後、これを追及して警察の虚偽報告を裏づける「文書提出命令申し立て」を検討中で、場合によっては民事裁判とは別に虚偽公文書作成・同行使の疑いで札幌中央署の捜査員らを刑事告訴する可能性もあるという。

一連の違法捜査について、筆者が4月下旬に道警に質問を寄せたところ、5月上旬になって同本部から「コメントは差し控える」との“回答”が届いた。一方、国賠弁護団によると原告の男性は「違法捜査は許せない。きちんと賠償して欲しい」と話しているという。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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