北海道警が違法逮捕|捜査報告で「事実を糊塗」|勾留取り消しで国賠提訴へ

北海道警察が3月末に札幌の男性を緊急逮捕した事件で、地元裁判所が当時の逮捕を違法だったと認め、容疑者とされた男性の勾留を取り消す決定を出した。道警の捜査員らは傷害事件の被害者とされる女性(上の男性と同居)に嘘をついて女性宅の窓ガラスを割り、室内に侵入、逮捕状をとらずに男性の身柄を拘束していた。

裁判所は一時、逮捕を適法として男性の勾留を認めていたが、弁護人から特別抗告を受けた後、同居女性の証言を得て捜査の違法性を確認するに到り、異例の「再度の考案」に踏み切った。弁護人や男性らは近く、道警に賠償を求める訴えを起こす考え。

■令状なしで窓割り突入、逮捕

違法逮捕があったのは、3月29日午後。札幌市中央警察署などの警察官が同中央区のマンションを訪ね、住人の男性(20歳代)に任意同行を求めた。男性がこれを拒否してもなお警察官らは付近に待機し続け、4時間あまり後にベランダの窓を割って突入、男性を「緊急逮捕」した。容疑は傷害で、「同22日から27日ごろまでの間に同居女性(30歳代)の腕を殴った」というもの。中央署の留置施設に身柄を拘束された男性は逮捕後に強制採尿され、4月1日付で覚醒剤取締法違反(使用)の疑いで再逮捕された。

地元報道関係者によれば、同夜の現場は周辺の道路が封鎖されるなど一時騒然となり、警察は男性の任意同行拒否を「立てこもり」と表現、窓を破って突入したのは機動隊員のようだったという。

男性の弁護人によればその警察官らは突入時、銃を構えていた。絵に描いたような凶悪犯の大捕物が展開されたわけだが、先述したように逮捕容疑は「腕を殴った」という軽微な罪で、しかも逮捕令状が未発付。それどころか――「そもそも“被害者”の女性が被害を訴えておらず、被害届も出していないんです」――そう呆れるのは、男性の弁護人を務めた青木康之弁護士(札幌弁護士会)。道警の捜査の端緒は、第三者からの情報提供、具体的には「女性の知人の姉」からの通報だった。同居男性との痴話喧嘩を打ち明けられた知人が早合点し、あるいは不必要に気を回し、姉を通じて通報に及んだとみられる。

実際、3月28日の深夜に札幌中央署の訪問を受けた女性は、警察官らに「(男性とは)仲がいいし、暴力を振るわれたことを友達にちょっと話しただけで、大ごとにするつもりはない」と伝えていた。ところが警察官らは引き下がらず、根負けした女性は中央署に同行、当事者として聴取に応じることになる。

女性は日付を跨いで翌朝6時まで拘束される破目になり、ほぼ不眠のまま出勤、その日の退勤後も警察車両に乗せられて自宅まで送られた。この時、警察官は女性から部屋の鍵を受け取っている。のちに青木弁護士が聴き取った女性の証言によれば、こんなやりとりがあった。
自宅のカードキーを貸してくれと言われて断ったが、『どうしても』と言われて渡した。ただし、1階玄関のオートロックを開けるだけという条件で『自分の自宅はプライバシーだから絶対に入らないで』と言い、約束をとりつけた」

ところがオートロックを突破した警察官らはそのままマンション6階の女性の居室に直行、女性との約束をあっさり破って玄関ドアからの入室を試みた。玄関には鍵とは別の錠がかかっており(チェーンロックの類)、警察官らは室内にいた同居男性に任意同行を求めるが、先述の通り男性はこれを拒否。かくして4時間後、銃で武装した警官たちによるベランダからの突入劇となったわけだ。女性の証言を、もう一つ。
自宅に入ることを警察になんて頼んでいないし、窓ガラスを割ることも承諾なんてしていない。むしろ『絶対に割らないで』と頼んだし、警察に窓ガラスの修理代金を請求したいぐらいだ。警察官は嘘ばかりついている

被害届のない傷害事件で“被害者”を騙して鍵を借り、約束を破って入室しようとした挙げ句、窓を割って侵入――。しかも令状のない「緊急逮捕」という、異例づくめの対応と言えた。青木弁護士は、捜査の杜撰さを次のように批判する。
「飽くまで任意捜査だったわけですから、同行を拒否できるのは当然です。警察がどうしても踏み込みたかったのなら逮捕状をとるべきで、4時間もあれば充分それができた。実際、逮捕後すぐに令状がとれているんです。なぜ逮捕前にそうしなかったのかはわかりませんが、地上6階からは逃亡のおそれもないし、『立てこもり』と言ったって人質をとったわけでもないし、大勢の警官がライフル持って突入する必要なんてありませんよ」

■札幌地裁もお粗末対応

刑事訴訟法210条では「緊急逮捕」の要件を下のように定めている。
死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないとき

重大な犯罪が疑われ、かつ急を要する時。今回のケースはいずれにも当てはまらず、即ち違法逮捕だったと言ってよい。青木弁護士は男性が再逮捕された4月1日の夕刻、札幌地方検察庁に勾留請求を控えるよう申し入れた。地検がこれを聴き入れず男性の勾留を裁判所に請求したため、同弁護士は同3日、札幌地方裁判所に勾留決定をしないよう求める意見書を提出。しかし地裁(斎藤由里阿裁判官)は同日付で勾留を決定、これに対する準抗告(不服申し立て)も翌日付で同地裁(井戸俊一裁判長)に棄却される結果に。裁判所は、あきらかに違法な緊急逮捕を「相当」と認めたのだ。

これを不服として青木弁護士は同5日、最高裁に対して特別抗告を申し立て、改めて被害者とされる女性の証言を引き、捜査の違法性を訴えた。すると、
「翌6日、裁判所から驚いた様子で電話があり、女性と連絡をとりたいと言ってきたんです。そして、あくる日の7日午前、裁判官3人から女性に電話があり、代わる代わる事情を訊いてきたと。その結果、勾留決定を地裁自ら取り消すことになりました」(青木弁護士)

本来は最高裁が可否を判断すべき特別抗告だが、札幌地裁は最高裁に申立書を送らず、自ら「再度の考案」に及んで当初の抗告棄却決定を「更正」、7日付で検察の勾留請求を却下した。決定で同地裁は、当時の逮捕行為は「傷害罪の重大性や逮捕の緊急性」などに照らして「必要かつ相当な手段として許容される限度を超えていた」と指摘、さらに次のように道警に苦言を呈した。
捜査機関は、被害者の承諾の有無という捜査の適法性を左右する重要な事実について、あえて詳細な事実関係を糊塗して緊急逮捕状等を請求したとみられるから、将来の違法捜査の抑止の見地からも相当でない

札幌地検は同12日付で傷害事件を起訴猶予とし、再逮捕の覚醒剤事件については嫌疑不十分で不起訴処分とした。身柄を解かれた男性は近く、違法捜査への賠償を求めて道警を相手どる国家賠償請求訴訟を起こす考えで、原告には“被害者”女性も加わる可能性がある。

警察官に割られた窓ガラスは原状回復できておらず、現時点で道警から謝罪や修理費用負担の申し出はないという。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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