「安倍王国」山口4区で異変 

4月23日に投開票される衆参5つの補欠選挙で最大の注目区となっているのは、昨年7月に銃撃を受けこの世を去った安倍晋三元首相の衆議院山口4区だ。

自民党が「安倍一族」の代理人として擁立したのが元下関市議の吉田真次氏。一方、立憲民主党は前参議院議員でジャーナリストの有田芳生氏を対抗馬として担ぎ出した。圧勝して当然の自民党だったが、どうやら尻に火がついている。

■衝撃の調査結果に凍り付く自民

岸田文雄首相の政権運営に大きな影響を与えることが必至となった山口4区の補選、報道各社や政党が、情勢調査を繰り返している状況だ。そうした中、ある調査結果を目にした自民党の山口県議が絶句した。
「まさに衝撃でした。勝つのは当たり前。午後8時に当確が出て、10万票獲得が義務付けられた選挙で、なぜこんな数字なんだ……」

山口県は言わずと知れた保守王国。2021年10月に岸田首相が就任まもなく行われた衆議院総選挙では、四つの小選挙区すべてで午後8時に「当確」と報じられたほど自民党が強い。安倍元首相の2区、林芳正外相の山口3区、岸信夫元防衛相の山口2区、高村正彦元外相の息子、高村正大氏の山口1区と豪華メンバーがそろう同県では、野党が付け入る隙はなかった。その山口の、しかも弔い合戦のはずの山口4区の調査結果は、吉田氏が46、有田氏が36というもの。自民党にとってはあり得ない数字だった。

■「旧統一教会3兄弟」が応援する安倍後継

有田氏が出馬表明したのは3月15日。吉田氏は、昨年12月に自民党の公募に応じる形で、実質的な「安倍後継」と決まっていた。

選挙戦初日の4月11日、吉田氏の出陣式にやってきたのは、萩生田光一政調会長、下村博文元文科相、元下関市長の江島潔参議院議員の3人。この顔ぶれには首をかしげざるを得ない。

安倍元首相が銃撃されたきっかけは、犯人の旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)に対する「恨み」だったはず。ところが、応援に来た萩生田氏は昨年の参議院選挙で自民党のタレント候補を旧統一教会の施設に紹介、下村氏は旧統一教会関連団体から「推薦状」を受け取っていた。

江島氏も統一教会関連団体のイベントに参加し、創立者である文鮮明氏の妻、韓鶴子総裁に花束を渡していたことがわかっている。銃撃事件の原因を作った旧統一教会のシンパが、そろい踏みした格好だ。印象が悪くなるのは当然だろう。

有田氏は、ジャーナリスト時代から旧統一教会追及の急先鋒として有名だ。さっそく、吉田氏の出陣式に噛みついてみせた。
「萩生田氏、下村氏、江島氏の3人が演説した。まさに旧統一教会3兄弟だ。統一教会問題とは関係ないなんて真っ赤な嘘だ」

有田氏は、今回の補欠選挙の争点に、旧統一教会と安倍元首相の長期政権の検証をあげている。有田氏の争点をあざ笑うように、3人が勢揃いしたのだ。自民党の感覚の鈍さに呆れるしかない。

■そっぽを向く公明

下村氏は、その2日後、同じく衆院補欠選挙が行われている山口2区でも、自民党候補の応援に入ったが、こうした動きに嫌悪感を抱いているのが政権与党として連立を組む公明党だ。

旧統一教会の救済法が可決された際に、最も抵抗したのは創価学会が母体の公明党。今回の衆参補選では、全国五つの選挙区の自民党候補に公明党はなかなか推薦を出さず、了解したのは告示が迫った4月に入ってのことだった。

憲法改正に前のめりだった安倍元首相と慎重な姿勢の公明党。その大きな溝が明らかになったのが、前述した吉田氏の出陣式だ。

吉田氏は動画サイト、Youtubeでその模様を公開しているが、よく見ると、地元の公明党関係者が出席しているのがうかがえる。しかし、来賓として紹介されているのは自民党の関係者ばかりで、公明党はまったく相手にされなかったのだ。公明党の幹部は声を荒げる。
「なんとか推薦すると決めて、自民党の県連にも伝えた。吉田候補の出陣式には万全を期して出席している。それがまったく無視された。どうなっているんだ!」

あまりの無礼さに、出陣式の途中で席を立って帰ってしまった公明党の関係者もいたという。

吉田氏の個人演説会などに前座で必ず壇上に上っているのは安倍元首相の昭恵夫人。吉田氏を横にして「圧倒的な勝利で、8万票はとりたい」と支援を訴えると万雷の拍手。そのあと紹介されるのは「安倍晋三後援会の」と前振りされた関係者ばかりで、安倍元首相の選挙と錯覚するほどだという。

4月9日投開票の山口県議会選挙では、下関市において公明党の候補が1万1,000票あまりを獲得してトップ当選。下関市とその北部に位置する長門市で構成される山口4区における公明党の基礎票は1万票を軽く超える。しかし、安倍陣営の扱いは冷淡そのものだと、地元の創価学会幹部は不満そうに話す。
「安倍元首相時代も、『公明党の票がなくても勝てる』とうちに対する扱いは冷たかった。吉田氏の個人演説会にも誘われているが、完全に切り捨てられたみたいなものでどうするかな」

有田氏の両親は山口4区内で結婚しており、ただの落下傘候補ではない。
「立たずして負けるなら、チャレンジすべきだ。まずは午後8時に吉田氏に当確を打たさないように頑張る。実は思った以上に有権者の反応がいい。喫茶店や中華料理店など、これまで安倍さんのポスターを貼っていたところが、『有田さんのポスターを』と言ってくれる。これまで安倍さんという大きな重しがあったのが、なくなったような感じがします」(有田氏)

幕末の志士、高杉晋作の辞世の句である「面白きこともなき世を面白く」をモットーに戦うという有田氏。その言葉通り、選挙戦が面白くなってきた。

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