在学生自殺事案の調査が続く北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメント問題で、亡くなった男子学生(当時22)の同窓生が道の第三者委員会の聴き取りに応じ、当時のハラスメントなどについて証言したことがわかった。同窓生は「自殺の原因は間違いなくパワハラにある」と明言しており、関与した教員・元教員らへの適切な処分が必要なことを訴えている。
■パワハラの実態
11月29日夕に札幌市内のホテルで第三者委の聴き取り調査を受けたのは、同市の医療機関に勤務する男性(24)。2019年9月に江差看護学院で亡くなった男子学生と同期で、同学生が亡くなる前日まで互いに言葉を交わしていた一人だ。聴き取りでは、亡くなった学生が当時のハラスメントで精神的に追い込まれていった経緯などについて証言したという。
「彼が亡くなったのは夏休み明けですが、実習期間にあたるそれまでの4カ月間、ずーっと落ち込んでいたんです。休み明けに顔を合わせ『頑張ろうね』と声をかけた時も、顔が引きつった感じでした。亡くなった原因は確実に教員からのパワハラです。レポートを受け取ってもらえないとかの指導拒否や理不尽ないじめで、精神的にも肉体的にも追い込まれていました」(証言した男性)
亡くなった学生はもともと、自殺はよくないという考えを持っていたという。結果的にその信条に反して自ら命を絶つことになったのは、同窓生に言わせると「正常な判断力を失ったため」だった。とりわけ実習期間中は睡眠時間を充分に確保できず、ハラスメントのストレスと疲労とが重なって正気を保つことができなくなったようだ。
「当時の教員は特定の学生を“ターゲット”にして集中的にパワハラを続ける傾向があり、彼も標的の一人でした。実習のミスを謝罪するために2万字から3万字のレポートを何度も書かされたり、教員が持ってきた剣道の竹刀を持って学校の周りを何周も走らされたりしていたのを憶えています。一時期は、ストレス障害で声が出なくなったこともありました」(同)
■副学院長ら、学生脅して口封じ
その学生が亡くなった時、ハラスメントに関与した教員たちが真っ先に行なったのは、学内の箝口令だった。同窓生は、事件当時副学院長だった女性らの対応についてこう証言する。
「事件にショックを受けたぼくたちは『パワハラの証拠や証言を集めて遺族に提供すれば、学校に責任をとらせることができるかもしれない』と思い、独自にいろいろ調べ始めたんです。するとそれが当時の副学院長に漏れて、呼び出しを受けることになりました。副学院長は『学校には責任がない』みたいな言い分で、ぼくに対しては暗に『これ以上調べると学校にいられなくなるよ』みたいな対応を仄めかしてきたんです」(同)
同窓生らは独自の調査を断念せざるを得なくなり、警察の調べに応じた際のやり取りについても教員に報告するよう迫られた。
「警察の聴取があった時は、聴取を受けた全員が個別に副学院長に呼び出され、何を話したのかの報告を求められました。副学院長はその場で細かくメモを取っていましたね。この時も『学校には問題がない』という態度で、もちろんパワハラなんてあり得ない、言うべきでないという空気。ただ、実際はみんな警察には本当のことを話していたらしく、ぼくがパワハラについて証言すると、刑事の人が『皆さんそう仰言っています』と言ってました。その時の調書のようなものが警察署に残っていれば、みんなの証言を確認できるんじゃないかと思います」(同)
同窓生によると、当時の江差看護学院にはハラスメントに加わろうとしない教員もいたものの、そういう教員が副学院長らのパワハラを告発するようなことはなく「ただただ見て見ぬふりをしていた」。中にはハラスメント関与教員からいじめを受け、精神科病院への通院を余儀なくされた教員もいたという。
「自殺事件の時、教員は『原因は学生同士のいじめ』みたいなことを言い出しましたが、百歩譲ってそんなことがあったとしても、根本の原因は学校の体質にあるんです。みんな“ターゲット”にされたくないから必死で、時には人の足を引っ張ろうとする人も出てきてしまう。そういう環境を作ったのは、ほかならぬ学校なんです」(同)
道が設置した第三者委員会は現在、関係者6人の聴き取りを進めているところだが、同窓生によれば亡くなった学生へのハラスメントに関与した教員・元教員は少なくとも6人以上いるという。同窓生が第三者委聴取を受けた前日の11月28日には道議会保健福祉員会で担当課の答弁があり、「今後の状況などによっては聴き取りの対象を追加することも想定される」との考えが明かされた。
第三者委の調査結果とりまとめの時期は現時点で未定。調査は年を跨ぐことになり、関係者の処分や謝罪などの対応はさらに先のことになりそうだ。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |