新型コロナウイルス感染者の療養施設に派遣された鹿児島県医師会の職員が強制性交で訴えられた事件に絡み、県医師会の池田会長が医師会長選挙の直前に発出した文書の記述内容と、県が保有するこの問題に関する記録文書との内容が食い違っていることが分かった。会長選で再選を目指した池田氏が、コロナ対策事業を汚された県の怒りを過少にみせかけ、真相を歪めようと図った疑いがある。
■県に出向いたとする「6回」に根拠なし
問題の文書は先月、池田会長名で、県医師会に90人ほどいるという代議員に送られたもの。タイトルは「宿泊療養施設不祥事案の経過」。A4の用紙4枚に、本事案に関する池田氏の“一方的な見立てに基づく経過説明”が、先月21日に開かれた臨時代議員会の議事などが記された案内文書とともに封入されていた。下は、その1枚目と2枚目だ。(参照記事⇒「踏みにじられた性被害女性の人権|問われる鹿児島県医師会長の姿勢」)
本会が鹿児島県の委託を受けて運用している新型コロナウイルスの宿泊療養施設における本会職員の今回の不祥事については、会員の皆様に多大なご心配とご迷惑をおかけして誠に申し訳ございません。
現在、会内に調査委員会、懲罰委員会、再発防止等改善委員会を立ち上げ、今回の事案に対する調査を行なっているところであります。
調査委員会はこれまで、当事者である本会男性職員Aからの聴き取り、医師会内及び宿泊療養施設の職員からの聴き取りを終え、相手側の女性職員Bさんの聴き取りを4月27日(水)に行いました。
また、一方、鹿児島県行政に対しては、これまで6回直接赴き、経過の説明と、宿泊療養施設における本会男性職員Aの不祥事について、県並びに県民に大変なご心配とご迷惑をおかけしていることについて謝罪を行いました。また、さらに電話にて2回の報告をしております。
ここで改めて今回の件の概要を申し上げます。
このあと、事件になった「不適切な行為(性行為)」を認めながらも「強制性交ではない」とする男性職員の一方的な言い分だけを記載し、「本会としては、懲戒処分を行うための絶対条件は、事実関係の確定」と事の本質を歪める主張を展開していた。
ハンターが注目したのは、上掲の文書にある「鹿児島県行政に対しては、これまで6回直接赴き、経過の説明と、宿泊療養施設における本会男性職員Aの不祥事について、県並びに県民に大変なご心配とご迷惑をおかけしていることについて謝罪を行いました」という一文。
この書きぶりだと、県に「6回直接赴き」謝罪を行ったのが、「池田氏」なのか「調査委員会」なのか判然としない。文章の流れからすると主語は「調査委員会」になるのだろうが、県や医師会関係者への取材過程では、池田氏を含む医師会側が「6回」も県を訪ねたという話は出てきていなかった。
池田氏が発出文書に記した「6回」は事実なのか――?確認のため鹿児島県に情報公開請求し、開示された公文書で県と医師会側のやり取りを確認した。下は、そのまとめである。
結論から述べれば、公文書上、本件について池田氏個人が県を訪れた証拠は2回分しか残っておらず、池田氏以外の医師会関係者が県に出向いた際の記録も2回分しかない。つまり県庁内における県と医師会の直接的な接触は計4回。「6回」を証明する記録は残されていなかった。池田氏が医師会内部に発信した「6回」という情報には、公文書上の根拠がない。
では、なぜ池田氏は「6回」と書いたのか――?
池田氏の発出文書にある「鹿児島県行政に対しては、これまで6回直接赴き、経過の説明と、宿泊療養施設における本会男性職員Aの不祥事について、県並びに県民に大変なご心配とご迷惑をおかけしていることについて謝罪を行いました」という一文を読むと、池田氏を含む医師会側が「6回」も県に出向いた主目的が、あたかも「謝罪」にあったかのような印象を受ける。
しかし、池田氏が県を訪れて「謝罪」したのは3月25日の1回きり。しかもそれは、ハンターが、新型コロナの療養施設内で医師会の職員がわいせつ行為を行っていたことについての責任を棚に上げ、「複数回の性交渉」「合意があった」という筋違いの主張を繰り返す池田氏ら医師会幹部の姿勢を厳しく批判する一連の記事を配信してからのことだ。医師会長選挙の前に問題を鎮静化させ、組織内部を落ち着かせるための、とりあえずの「謝罪」――この見立てが大きく外れているとは思えない。
その証拠に、4月21日に開かれた鹿児島市医師会臨時代議員会の席上、池田会長から預かってきたという回答書を代読した県医師会役員の立元千帆氏が、「県の理事会や郡市医師会長会議等で得た事実」として、次のように発言していたことが分かっている。
「報道があった(強制性交での)告訴については、ある理事の先生が、捜査一課が動いているとのことを発言されました。ただ、それから2カ月経過しておりますが、該当の職員というのは、警察の取り調べも逮捕も受けておらず、それらのことがすべてを物語っているのではないかと私自身は考えています」、「これは私の見解ですが、謝罪については、その事実があったかどうかということではなく、世間をお騒がせしたことに関する謝罪だというふうに私は認識しています」
■県民からも厳しい批判
被害を訴えている女性の話は聞かずに、『性交渉が複数回あったから合意があった」と断定的な発言を繰り返した池田会長――。さらに、大西浩之常任理事(当時)や立本千帆理事(当時)らが池田氏の「合意論」に同調し、被害女性をこれでもかと痛めつけた格好だ。こうした医師会上層部の姿勢には、当然ながら県民から厳しい批判の声が上がる。
「医者は人の命を救うのが使命。人権と人の命はイコールのはずだが、この医師会のお偉いさんたちには人権意識がない。あったこともない女性が、性被害を訴えているというのに、『合意があったに違いない』とは、まさに二次的な被害を与えたに等しい。こうした女性蔑視には反吐が出る。『下々の者は医師には逆らえまい』と高を括っているのだろうが、これからは行く先々で県医師会の非道を話すつもりだ」(50代男性経営者)
「女性の敵の中に、知っている女医さんがいるのに驚いた。私はその女医も、加害者(県医師会の男性職員)も知っているが、二人は親しい仲。たしか、男性職員が最初にこの問題について相談したのがその女医さんのはずだ。そりゃ庇うよね。正義とか仁術とか、そんなものとは縁のない連中ということですよ。あと、医師会に“合意があった”で通しなさいと入れ知恵したのは、県の弁護士界を牛耳る老練の弁護士。こいつも、まあ、ろくなもんじゃない」(40代医療関係者)
「池田さんたちは、被害女性が目の前で泣き叫んでも『合意があった』『芝居だ』と平気で言うでしょう。どうやら、はなから女性に寄り添う気持なんかない。愚かな行為に走った男性職員を庇ったのは、おそらく医師会長選挙を前にした池田さんが、問題を矮小化して再選を果たすためではなかったんですか。結論を出せないと分かっている調査委員会で議論を続けさせ、時間を稼ぎ、うやむやにして終わらせるつもりなんでしょう」(鹿児島市在住の60代主婦)
それぞれの意見に記者も同意だが、編集部に寄せられる意見で一番多いのは「調査委員会」の役割についての問い合わせ。確かに、鹿児島市の主婦が言うように、この委員会の設置目的や議論の内容には問題がある。
(以下、次稿)