岸田文雄首相のおひざ元である広島の自民党県連で会長代行を務め、「広島のドン」と呼ばれる中本隆志氏県議会議長。同氏の、15分にわたるラブホテル前での不可解な動きを捉えた動画の詳細と、県庁内で広がっている議長の“天の声”については、前稿でまでに報じた通りだ(既報1・既報2)。噂話が表面化したことで、中本氏への批判が噴き出す状況となっている。
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広島選出のある自民党国会議員が、こう苦言を呈す。
「ハンターの記事は、県議会でも県庁でも、永田町でも大きな反響を呼んでいる。あの動画の人物はどうみても中本議長。“G7のさなかに広島の裏風俗のメッカで何をしていたのか”と話題になっている。これまでさんざん国政批判を展開しておいて、裏では特定の病院に便宜を図ろうなんてとんでもない。聞くところによれば、病院選定にかかわる運営委員会にまで手を伸ばしていたともいう。驕りが過ぎて自滅すれば、また広島は笑いものになる」
2020年に公職選挙法違反で逮捕された河井克行・案里夫妻の事件では、厳しく両氏や自民党を非難し、議長としての威厳を示した中本氏。最近では、自民党安倍派の裏金事件について「政治家個人になんでも使えるお金が渡るのはまったく理解ができない。徹底的に(疑惑を)解明して、膿は出し切ってほしい」(*2023年12 月14 日・テレビ新広島「TSSライク!」での発言)と国政に「物申す」ほどの“増長”ぶりだった。
ハンターで指摘した“疑惑”は、中本氏の地元広島市東区を地盤とする岸田文雄首相の耳にもしっかり届いてるそうで、選出の国会議員が「ラブホテル前での徘徊に、口利きのような天の声。これまでの中本氏の傲慢な態度に業を煮やした岸田首相が諫める意味で動いたんじゃないか」と指摘するほど、インパクトがあったという。
中本氏は、広島県政界を揺るがした公職選挙法違反事件で徹底的に河井夫妻と自民党を叩いた。しかしハンターは、その事件に中本氏が絡んでいた可能性を示す重要なメモを入手した。河井夫妻がカネのバラマキに使った「買収リスト」の一部だ。1つはパソコンで相手と金額を記したもの。もうひとつは、県議と広島市議の名簿をホームページから印刷し、手書きで渡した相手にマークしているものだ。これが東京地検特捜部の立件の決め手になったとも言われている。
広島市議会の名簿は4ページにわたり、16人の市議にマークがついている。そして、最終の4ページ目の欄外に手書きで、次のようにある。
《三原市長50 安芸高田市長30 大竹市長30 廿日市市長30 矢立20 宮本20 先川20 中本50》――なんと中本氏の名前があるのだ。(*下がリストの該当部分)
三原市の天満祥典元市長、安芸高田市の児玉浩元市長、安芸太田町の矢立孝彦元町議、宮本新八元県議、安芸高田市議会の前議長先川和幸市議は河井裁判でカネの受領が明らかになっている。また、メモにある大竹市の入山欣郎市長は克行氏から現金を渡されそうになり、激怒して突き返したことを記者会見で語っている。
リストでは、廿日市市長のところには上から横線が、中本氏の金額の上には「✖」が記されている。
2020年4月4日の東京新聞は、廿日市市の真野勝弘前市長が特捜部から取り調べを受けたことを報じており、そこから考えて、中本氏も特捜部の事情聴取を受けたのではないかとみられている。
被買収としてすでに有罪が確定している元県議は、ハンターの取材に「このメモは自分の裁判記録にもあったので記憶している。中本議長だってもらっているのかと一瞬驚きましたよ。裁判では名前がなかったのでシロだったのでしょうが、河井夫妻から買収の申し出はなかったのかどうか。あったのなら、キチンとメディアにもそれを話すべきですよね。このメモを報じられて、中本議長が何かしゃべるのか――。注目しています」と話す。
確かに。カネを渡されそうになった入山市長は受領しなかった経緯を述べている。また、立件されなかったが、中本氏の前に「広島のドン」と呼ばれていた元議長の檜山俊宏県議はリストに《100+100》と記されており、河井夫妻起訴直前まで特捜部の調べを受けていたという。やはり中本氏が特捜部から事情聴取を受けていてもおかしくない。
河井夫妻のメモの重要性は地元紙・中国新聞の2023年9月8日の報道でもよくわかる(*以下、同紙の記事より)。
《2019年の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で、当時の安倍晋三首相をはじめ政権幹部の4人が計6700万円を提供したと疑われるメモを(河井克行)元法相が残していた》
《「総理」「すがっち」「幹事長」「甘利」―。克行氏が書き留めていた四つの単語だ。買収事件の捜査に当たった検察当局は、それぞれ安倍晋三首相▽菅義偉官房長官▽二階俊博自民党幹事長▽甘利明同党選挙対策委員長(肩書はいずれも19年参院選当時)とみていた》
メモの記述は、河井夫妻の買収資金が安倍晋三元首相をはじめとする政権中枢から支出された可能性があることを示唆している。そのメモに中本氏の名前があることは、河井夫妻が、「広島のドン」中本氏を「買収候補」と考えていたことことを意味している。
だが、中本氏は河井夫妻が逮捕、起訴された2020年、新聞各紙に以下のようなコメントを残していた。
《夫妻には憤りを感じる。県政を混乱に陥らせたことを重く受け止め、辞職されるのが賢明だ》(2020年6月19日・毎日新聞)
《河井夫妻について記者団に「起訴されて当然。(裁判では)すべて真実を自分の口から話されるのが、いま彼らにできる唯一の誠意だ」と語った》(同年7月9日・朝日新聞)
厳しくコメントしているが、自身と河井夫妻の関係、さらには東京地検特捜部の取調べについては何一つ語っていない。
河井夫妻が起訴された当時、県議会は誰がカネを受け取ったのか調査する方向だったという。しかし、その後は尻すぼみ。調査は実現しなかった。地元のメディアの関係者が振り返る。
「当初は県議会として河井夫妻からカネを受け取った県議の『調査をしたい』と積極的だった。しかし、河井夫妻が起訴されると、急にトーンダウンしてしまった」
県議会が後ろ向きになった裏には、《中本 50 》のメモの存在があったのではないだろうか。
前出の地元メディア関係者は、次のように話している。
「河井夫妻の事件の頃は、中本議長に張り付いてコメントをとろうと取材を続けていた。中本議長の辛辣なコメントでテレビの数字(視聴率)はアップし、新聞の記事も好評だった。中本議長もこちらが『大丈夫か』と思うほどのきついコメント、意見を語ってくれた。しかし、ハンターの記事を見てどからは、どうも中本氏はそんな正義漢じゃないのではないかと感じています。事実、ハンターの記事が出て以降、コメントをとろうにも隠れてばかり。県の職員も『ネットの記事みました?』『あれ(画像の人物)、中本議長ですよ』『やっぱりZ病院の件が出たか』と、そんな話ばかりです」