動画のタイムスタンプには『2023年3月13日、15:30』とある。撮影されたのは、広島で有名な飲み屋街、流川にほど近い「裏風俗」と呼ばれるデリヘル、マッサージ店が軒を並べる怪しげな地域の路上。
玄関と路地を行き来しながら、スーツ姿で年配の男性がウロウロしている。しばらくすると、マスクをずらして、タバコを吸い始め、ソワソワした様子がうかがえる。
そこで、冒頭の映像を地元の県議などの地方議員や政界関係者に「これ誰でしょうか」と名前を出示さずに見てもらったところ、全員が「これ、中本議長じゃ」、「歩き方、タバコの吸い方、中本議長で間違いない」と口をそろえた。この画像の人物、広島県議会の第68代議長、中本隆志氏なのである。
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岸田文雄首相の地元、自民党広島県連ナンバー2の会長代行という要職も兼務する中本議長。彼について、地元県議がこう話す。
「中本先生は、岸田総理のお父さん、文武さんの秘書もされていました。せっかく地元から岸田文雄という総理が誕生したというのに、河井克行・案里夫妻の公職選挙法違反事件に続いて、総務大臣に就任した寺田稔氏が政治とカネの問題で更迭されました。県会議員ながら、中本先生は岸田首相に代わって広島の自民党を牛耳り、まさにドンとして君臨しておられます」
2023年4月の広島県議選で広島市南区から立候補した中本氏は1万4千票あまりを獲得し、8期目をトップ当選で飾った。同年4月11日の中国新聞は、県会議長の座を巡る動きについて次のように報じていた。
・《議長は自民議連の中本隆志氏(広島市南区)の続投が有力視される》
・《かつて3期12年にわたり同じ自民党県議が議長を続けた結果、会派内の不満が強まり分裂につながった経緯を踏まえ、期数の多い県議を中心に別の議長候補を擁立する動きもある。15年の前々回選後は、任期4年の間に自民議連の3人が交代で議長を務めた。ベテラン県議の一人は「議長になりたい県議たちと、中本氏の駆け引きが当面続く」とみる》
前出の県議も、「他に議長をやりたいという人もいて、けっこう調整が大変だった」と振り返る。当然、中本氏も議長続投に向けて奔走していたはずだ。さらに、統一地方選が終わったばかりとあって、議長としての中本も多忙を極めていた。中国新聞の記事にあった地元首長の予定からも当時の様子がうかがえる。
・《4月12日11時30分、中区で県議会の中本隆志議長》
・《4月13日11時30分、県庁で県議会の中本隆志議長ほか》
さらに、広島県議会議長のホームページには《【議長ブログ】4月13日(木曜日)第118回広島県清酒品評会祝宴会に出席しました》という記載もあり、自身が壇上で鏡割りをしている写真が貼付されていた。
5月19日からはG7サミットが広島で開催されるとあって、繁華街の警備も強化されていた。事実、中本氏がG7の首脳国の出迎えにはせ参じている様子が『議長ブログ』にもアップされている。
来客対応、議会調整、G7サミットと超多忙だったはずなのに、冒頭に示した通り、中本氏は広島市内にある「裏風俗」メッカのラブホテル周辺に出没していたのである。不可解な動きというしかない。
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問題の動画をさらに確認していくと、中本氏はスマートフォンを見ながらラブホテル前の駐車場や路地をせわしなく歩く。
ラブホテルに黒いシューズの20歳代と思われる女性が現れたのは15:31のことだった。中本氏は女性をつけるようにラブホテルに入っていき、声をかけた様子が映っている。即座に後ろを振り返る女性に、気になるのか、中本氏はさらに反対側の入り口にまわってその姿を追う。まるでストーカーのような行動だ。
その後も中本氏は、ラブホテルの入り口と駐車場、路地を歩き回る。駐車場のフェンスにもたれかかり、さかんにスマートフォンの画面を凝視。周囲を何度も見まわすようなシーンが15分ほど、動画に捉えられていた。しばらくして、その動画がネット上で拡散された。
「実はこの時、不審者がいると複数の地元の市民が110番通報しようかと思っていたそうです。ただ、よく見ると中本氏だったので、市民の一人が『中本先生、何されとるんですか』と聞いてみたそうです。すると、中本氏はびっくりした表情で、口ごもり『いや、なにも、なにもありません』など本人であることを認めて、そそくさとラブホテル前から立ち去って行ったというのです。『中本先生、おかしなことしとるね』と地元で評判になり、動画もSNSやネット上に出回るようになりました」(地元政界関係者)
ちなみに、4月13日は広島県清酒品評会祝宴会が開催された日。祝宴会は夕刻だったので、動画の撮影時刻「15:30」より前に、中本氏はラブホテル前に到着していたとみられる。おそらく、酒は飲んでいなかったと考えるのが普通だろう。
またラブホテルの玄関や他人の駐車場に、用件がないのに出入りするのは刑法130条の「住居侵入罪」に問われかねない。中本氏は「広島のドン」という異名に象徴されるように、歯に衣着せぬ発言で知られる人物。河井克行・案里夫妻の公職選挙法違反事件では「(事件は2019年の参議院選挙に)すべてがあり、ここで地元が(定数)2議席に対して2人擁立は辞めてくれと言ったのに、自民党本部が強引に2人目の河井案里さんを出された。ここの無理からはじまっております。こういった無理が(河井夫妻の公職選挙法違反)を生んでおります」(2022年1月31日放送:HOME広島ニュース)などと、自民党本部の方針に食って掛かるほどだった。
昨年5月の議長就任時の演説では「議員一人一人が高い倫理観を持ち、県民に開かれた信頼される議会の実現」と訴えていた。
だが、問題の動画から、中本議長の「倫理観」「信頼性」が揺らいでいるのは明らか。悪いことは重なるもので、広島県庁では、さらに別の「疑惑」までささやかれはじめている。
(つづく)