看護学院パワハラ問題で北海道が非常識な賠償提案|加害教員「公開謝罪」も拒否

北海道立高等看護学院のパワーハラスメント問題で、道が代理人弁護士を通じて被害者らに示談を打診し、損害賠償の支払いを提案していることがわかった。2月中旬から個別に届き始めた提案書には数十万円の賠償額が記されているが、被害額の算出の根拠があきらかにされていないため、被害者らは示談に慎重な姿勢を見せている。保護者らが求め続けている「公開の場での教員の謝罪」を拒否する通知を受け取った関係者もおり、初めての具体的な救済提案は少なからぬ関係者らの困惑を招くこととなった。

■算出根拠示さず賠償額提示

昨春から江差看護学院を休学中の学生(20)のもとに提案書が届いたのは、2月17日。教員によるハラスメント被害の賠償として20万円の金額が提示され、併せて休学中の授業料の返還が申し出られていた。これらに同意できる場合は追って「示談契約書」を送るとの記述もあったが、受け取った保護者(64)は「根拠がわからない」と途惑いを隠さない。
1人の若者の1年間を棒に振らせた代償が20万円? その額を導き出した根拠を示して納得させてもらわないことには、妥当かどうかの判断ができず、同意できません

やはり17日に提案書を受け取った紋別看護学院の元学生(26)は、賠償額70万円の提示を受けた。元学生が10年ほど前に経験したハラスメントは、現在問題となっている江差のパワハラに勝るとも劣らない悪質な嫌がらせ。寮の門限を1度だけ守れなかったため1週間ほど立たされて謝罪を強いられ、さらに1カ月間にわたって「反省文」の書き直しを命じられ続けるという執拗なパワハラの結果、卒業まで3カ月を残して中退を余儀なくされた。看護師の夢を潰されたショックで、退学後も長く心療内科を受診せざるを得なくなったという。手首にはリストカットの痕がいくつも残された。

道が提示した賠償額は、そうした被害の深刻さに較べてあまりに小さい。先の休学生と同様、この元学生もまた、現時点で示談に応じる考えはないという。

■被害者側の謝罪要求を拒絶した道庁

提案書にはこれら賠償額の提示のほか、加害教員らによる謝罪についての道の考えが記されていた。
《公開の場での謝罪の予定はございません》

本サイトでも折に触れて報告してきた通り、パワハラ被害者の中には一対一で加害教員と向き合うと体調を崩してしまうという学生が少なくない。声を聴いただけで動悸が激しくなるという人もいる。このため被害学生の保護者らでつくる「父母の会」は、道に対して「公開の場での謝罪」を繰り返し求めてきた。ところが道の担当課は地元議会の答弁などで「個別の謝罪」にこだわり、オープンな場で教員に頭を下げさせる対応を頑なに拒み続けている。今回の提案書の記述はそのとどめというべき通告で、道には当事者らの求めに応じる考えが一切ないことが改めて示された形だ。

これまで第三者調査により被害が認定された学生・元学生は、計15人(被害53件)。このうち何人が示談を受け入れることになるのかは未知数だが、「父母の会」関係者の1人は現時点で「皆さんだいたい同じ考え(示談見送り)のようだ」と話している。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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