年間補助金1.5億|久留米商工会議所「選挙運動」の問題点

先月行われた久留米市長選挙で、久留米商工会議所とその政治組織が一体となって「事前運動」を行っていた問題が、波紋を広げている。

市長選を巡る商工会議所の動きが、公職選挙法や会議所の組織・運営について定めた「商工会議所法」の規定に違反する可能性があることを報じてきたが、関係者の中からも、政治組織「日本商工連盟久留米地区」や会議所の活動に対する疑問の声が上がり始めている。一般市民の知らない会議所の収支という視点から、改めて問題点を探った。

■税金投入で成り立っている商工会議所の実態

公選法違反が疑われる行為を行っていたのは、久留米商工会議所の政治組織「日本商工連盟 久留米地区」。同組織は市長選が告示された1月16日より前に、商工会議所の会員企業に対し、元県議会副議長の「出陣式」及び同月19日開催予定の「総決起大会」の案内を行い、それぞれの選挙イベントに参加する人間の名簿を提出するよう要請していた。出陣式や告示後の集会は「選挙運動」の一環で、それを文書を使って事前に告知することは、公選法が禁じる選挙の事前運動となる。

久留米商工会議所が抱える問題はこれだけにとどまらない。公選法違反を疑われる行為を行った「日本商工連盟 久留米地区」の活動実態は、様々な証拠や証言から久留米商工会議所と一体のものであったことが明らか。これは、「商工会議所法」の規定にも反する。

同法は、会議所の事業について「特定の個人又は法人その他の団体の利益を目的として行ってはならない」「特定の政党のために利用してはならない」として政治活動に制限を加えているからだ。しかも、商工会議所はただの公的団体ではなく、運営のために「税金」が投入されている補助金受給団体であるからなおさらである。

福岡県に情報公開請求して入手した平成29年度から令和2年度までの久留米商工会議所の決算書類や補助金関連資料によれば、久留米商工会議所の年間収入は平均約4憶円(繰越金除く)。国、県、久留米市から、毎年約1億4,000万円~約1億5,000万円の補助金が出ている。

毎年同程度の全体支出があり、人件費はおよそ1億7,000万円~1億9,000万円で推移。このうち補助対象事業の運営にかかる人件費と支給された県からの補助金(県費)の額を表にまとめた。

 県費の主な補助対象となっているのは、小規模事業者経営支援事業に携わる職員16人(経営指導員11人、補助員3人、記帳仙人職員2人)の人件費。上掲の表で分かるように、1億円前後の人件費の8割を県費で賄っている形だ。

税金で支えられている組織が、特定政治家や政党の支援を行うことはご法度。そのため「市」の区域に設立されている商工会議所は「日本商工連盟」(本部:東京都)、町村部に設立されている商工会は「全国商工政治連盟」(本部:東京都)という名称の政治団体をそれぞれ立ち上げ、別の団体として政治活動や選挙支援を行っている。補助金の支給実態を見れば、会議所の活動と政治団体の活動を一体化させることの違法性が、より明確になる。そうした意味で、久留米商工会議所が政治組織を偽装した格好で行った市長選の選挙運動は、責任の所在が問われるべき悪質な違法行為だったと言うべきだろう。

■問われる「会頭の責任」

久留米商工会議所のある議員は、吐き捨てるようにこう語る。
「市長選で十中(大雅・元県議会副議長)さんの推薦を決めたのは、会頭の本村(康人)氏ですよ。建前上は、日本商工連盟久留米地区の推薦ということになっていましたが、あくまでも形だけ。久留米の人間なら、十中氏を支援していたのが商工会議所だということは百も承知。市長選の時は、多くの人から『商工会議所は十中推薦じゃろ』と言われましたが、それが現実なんです。政治組織の責任者は専務理事の穴見(英三)さんということになっていますが、専務理事の独断で市長選の支援者を決めるなんてことができるわけがない。(十中氏支援が)会頭の方針だったことは、百人近くいる議員のほとんどが知っていますよ。ところが、十中さんは県議会の説得を振り切り、半年もせずに副議長職を放り出した人物。県議会から前代未聞の非難決議まで受けたそうじゃないですか。その十中さんを支援して、どうやって県との信頼関係を持続させるつもりだったのか?しかも支援した十中さんは落選。穴見さんはもちろんですが、本村会頭が責任を取るべき話でしょう」

別の会議所関係者は、「会頭独裁」の弊害について次のように解説する。
「穴見氏は県職員OB。つまり天下りで久留米商工会議所にやってきた。県職員の再就職についてコントロールしているのは、もちろん県。穴見氏も慣例に従って退任し、後進に道を譲るべきだったが、本村会頭が県の人事を蹴った。『穴見のままでいい』ということ。使い勝手が良かったということだ。人事で県に逆らい、今度は県議会を敵に回す形で十中支援を決めた。鳩山二郎代議士を操り、市内の利権に睨みを利かせてきたが、今後はそれができなくなる。あらゆるところで、久留米商工会議所の歪みが顕在化しており、早晩、誰かが『改革』を叫んで立ち上がることになるだろう。正直、選挙のたびに会頭が決めた候補者の支援を強要されるのは御免こうむりたい」

「商工会議所とは距離を置いてきた」と話す久留米市在住の会社経営者は、問題点を鋭く突いた。
「会頭の本村さんは、自分の会社を事実上つぶした人。なぜ商工会議所の会頭に居座っているのか理解できない。それを許す久留米経済界の無自覚、無関心も許せない。衆議院選挙や市長選のたびに、商工会議所がしゃしゃり出てくること自体、私は間違いだと考えてきたし、だからこそ交わりたくない。自治体や国にたいして意見をぶつけるために政治団体が必要だという理屈はわかるが、だからといって個別の選挙に組織を利用して、一部の幹部が権力を握るような真似は容認できない。年間で億単位の補助金をもらっているという話は初めて知ったが、なおのこと選挙に絡んではだめだろう。この際、久留米商工会議所は、会頭や副会頭に責任をとらせて全員辞職させ、まったく違う人たちに運営を任せるべきだ」

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