北海道警察による首相演説ヤジ排除事件がまもなく発生2周年となるのを機に、道警を相手どる国家賠償請求訴訟を争っている排除被害者らが10日夕、札幌市内で抗議集会とデモ行進を行ない、参加したのべ約50人の市民が改めて道警に排除行為への謝罪と反省を求めた。
デモを企画したのは、国賠原告らでつくる「ヤジポイの会」( https://yajipoi.wordpress.com/ )。2019年7月に排除事件が起きた現場・JR札幌駅南口に参加者が集合し、言論・表現の自由の重要さなどを訴えた。
安倍晋三総理大臣(当時)の選挙応援演説に「安倍やめろ」などとヤジを飛ばして大勢の警察官に拘束された札幌市の大杉雅栄さん(33)は「表現の自由で最も重要なのは、権力への批判を認めること。それができない国はもはや民主主義国家を名乗る資格がない」と改めて当時の排除行為を批判、「増税反対」の一声で排除されて警察官に長時間つきまとわれた同市の桃井希生さん(25)は「2年前のことを警察は未だに謝ろうとしない。曖昧な理由で人を排除することが許される国で、私たちはどうしたら安全に暮らせるのか」と呼びかけた。
午後4時半に始まったデモ行進では、新型コロナウイルス感染拡大防止のため大勢でのシュプレヒコールは控え、拡声器を通じた「警察謝れ」などの声に合わせて参加者が思い思いの鳴り物で抗議の意志を表現、横断幕やプラカードを手に市街中心部を歩いた。ゴール地点に設定した道警本部では、国賠訴訟の原告代理人を務める齋藤耕弁護士(札幌弁護士会)らが道警と道公安委員会へ申入書(下の画像。クリックして拡大)を提出、前者には真摯な謝罪を、後者へは警察を監督する責任を全うするよう求めた。
大杉さんらが起こした国賠訴訟は書面のやり取りをほぼ終え、現在は証人尋問に向けた準備が進んでいる。6月中旬の第8回口頭弁論では被告の道警が警察官4人を証人申請する意向を示し、これに対して原告側は大杉さん・桃井さんの原告2人と排除の目撃者2人、及び「現場にいた警察官全員」を申請する考えをあきらかにした。代理人らによると警察官は最大22人となるが、札幌地方裁判所(廣瀬孝裁判長)は現時点で尋問の日程を3日間に絞っており、「全員」の採用は難しそうな雲行き。それぞれの証人採用の可否は、早ければ今月16日の弁論で決まる可能性がある。
先のデモ行進終了後、原告の大杉さんは裁判について次のように話した。
「訴訟では現場の警察官を証人申請したが、とくに彼らを恨んでいるわけではない。道警の言う『現場の判断』なんてあり得ず、組織的な指示があったことはあきらか。とは言っても各警察官には排除を実行した責任があるので、法廷でしっかり追及したい」
札幌地裁は9月9日から尋問期日を設ける予定。国賠訴訟は年度内にも一審判決に到ることになるが、大杉さんら「ヤジポイの会」は「どういう結果になっても引き続き声を上げ続ける」としている。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |