札幌高検トップに森友学園事件の特捜部長・山本真千子氏 |官僚全員不起訴は 「適切に判断」  

国有地の売却をめぐる財務省の公文書改竄などが問題となった、いわゆる「森友学園事件」。6年前に大阪地方検察庁で一連の捜査を指揮し、渦中の学校法人理事長らを逮捕・起訴しつつ公人たる財務官僚らを軒並み不起訴処分とした当時の特別捜査部長・山本真千子氏(60)が本年3月上旬、札幌高等検察庁の検事長に就き、着任会見を開いた。参加した筆者が森友の捜査について質問すると、山本氏は「個別事件については答えられない」としながらも、一般論の形で所感を述べるなどして当時の捜査の適正性を主張した。

■公式の場で初めての「森友」言及

森友事件をめぐっては、先の処分を報じた雑誌やウェブ媒体などが検察による政権への忖度を疑い、特捜部長だった山本氏が2018年に函館地検の検事正に異動した際には「栄転」「論功行賞」などと批判する声が上がっていた。山本氏自身がこうした言説に公の場で反論した形跡は見あたらず、今回の札幌の会見でも地元記者クラブから森友がらみの質問が出ることはなかったが、クラブ非加盟者として参加した筆者がいくつか質問を試みたところ、山本検事長は一般論の体裁をとりつつ言葉を選びながら持論などを述べることとなった。文書改竄を苦に自殺したとされる財務省職員についての質疑では「ご遺族にお悔やみを」との言葉が出るなど、事実上一般論の域を逸脱する語りも聴かれている。

やり取りに同席していた報道大手がその詳細を伝えるとは考えにくいため、本稿をもって筆者と山本氏との質疑応答をすべて採録しておきたい。以下、当日の録音データをもとにその問答を再現する(当日は全参加者に会見の録音・撮影が認められたが、部外への音声公開は不可とされている)。

――抽象的な質問になるんですが、今の検察が国民の信頼を得るには、どういうことが必要か、検事長のお考えをお聞かせください。
山本:「先ほど来、申し上げていますけれども、検察の職務というのは、適正手続きの中で知力を尽くして真相を解明して、国民の良識に適う相応の処分、相応の科刑を実現するということにあります。やはりあの、われわれが国民の皆さんの信頼を得るためには、一つ一つの事件に誠意をもって向き合って、誠実にそれを処理していくということが最も大事なのではないかな、というふうに思っております」

――ありがとうございます。それをふまえてなんですけれども、先ほど幹事社のほうから「印象に残った事件」はとくに挙げないということだったんですけれども、あの国民の側からすると、やっぱり大きく報道されたものは憶えてまして、いわゆる森友事件でですね、当時の捜査で、学校関係者の方を逮捕・起訴なさった一方で、財務省の関係者、理財局長を含めて皆さん不起訴にされたと。この結果、この判断について誤りはなかったと、要するに国民に疑念を持たれない結果であるというようなお考え、と思っていいでしょうか。
山本:「個別事件についてのお尋ねですので、あの、それについて正面からお答えすることはできませんけれども、私は法と証拠に基づいて、個々の事件について適切に判断をして参ったつもりでございます」

――それは、森友に限らず、というふうに受け止めていいですか。
山本:「そうです」

――ありがとうございます。下世話な質問になります。その森友の件で当時かなり批判的な報道がありまして、「大阪の特捜は政権に忖度したのではないか」であるとか、「特捜部長が函館の検事正に異動したのは論功行賞ではないのか」みたいな批判がありました。確認なんですけれども、当時の捜査が政権に忖度したという事実はあるでしょうか。
山本:「私のお答えは、先ほどお答えした通りでございます。それ以上でもそれ以下でもございません」

――ちょっと訊き方変えます。じゃ一般的に、森友に限らず、いま政治資金やってる東京地検の特捜とかも含めて、検察の捜査が時の政権に忖度する、左右される、ということはあり得るでしょうか。
山本:「私は、常に検察は法と証拠に基づいて厳正公平、不偏不党の立場で事件を処理していっている、というように感じております」

――ありがとうございます。これでやめようかと思ったんですけれども、もう1つだけよろしいですか。しつこいようですけど森友の件に絡んで、いわゆる公文書の改竄を苦にして亡くなったとされる職員の遺族が、元理財局長を訴える裁判を起こして、今、損害賠償請求を闘っいるところです。こうした遺族の訴えを、検察官としてどう受け止めていらっしゃるでしょうか。
山本:「個別の事件のお尋ねでして、まあ思いはいろいろ、あの、やはり心の痛む事件ではありますので、ええ、亡くなられたということについては、遺族の方にお悔やみを申し上げたいと思いますし、そういう、思うところはありますが、この場でお話しすることではありませんので、差し控えさせていただきます」

山本真千子・札幌高検検事長は兵庫県出身。大阪市立大法学部卒業後の1991年検事任官。大阪地検特捜部長、函館地検検事正、大阪高検次席検事などを経て、大阪地検検事正から本年3月6日付で現職。札幌高検で女性がトップに就くのは同氏が初めてとなる。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。

 

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