いじめで学区変更、申請者記入欄を市教委が事前に印字|相談は「苦情」で処理

平成30年から令和元年にかけて鹿児島市谷山地区にある小学校の6年生のクラスで起きたいじめを巡り、被害児童側が進学予定だった中学校の変更を願い出た際、鹿児島市教育員会が実態とは違う理由付けをした「指定学校変更申立書」を勝手に作成し、児童の保護者に署名・捺印だけさせていたことが分かった。当該事案は、いじめ防止対策推進法に規定された「重大事態」だったが、その事実を糊塗するための工作だったとみられる。

同様のケースは2例目。学校と教育委員会がグルになって“いじめ”を隠蔽するという絶対に許されない行為が、鹿児島市の教育現場で常態化している可能性がある。

■保護者記入欄に市教委が丸印

下は、当時の被害児童の保護者が、市教委に個人情報開示請求を行って入手した「指定学校変更申立書」。学校と市教委がいじめを改善せずに放置したことで進学予定の中学校でもいじめが続く可能性があったため、被害児童の保護者が別の中学に通えるよう市教委に申し立てを行った際に作成されたものだ。

 《申立理由》を示す欄は1から9まである。当該事案は、どれにあたるのか――。

被害児童は、集団から無視されたり、「きもい」などの暴言、さらには腕を引っ張るなどの直接的な暴行を受けて体調を崩し、長期にわたって医療機関で治療とカウンセリングを受けていた。いじめを行っていた児童たちは教師の聞き取りにも口裏を合わせて対抗するなどしたため、被害児童はやむなく卒業まで欠席を続け、中学進学時に学区変更を申し出て友人たちとは別の学校に通わざるを得なくなっていた。欠席日数は40日超。いじめ防止対策推進法が定める「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」(相当期間とはおおむね30日)にあたるケースだった。

当然「7.いじめ・不登校により指定学校へ進学することが困難なため」を選択すべきだ。しかし、被害児童の保護者が渡された申立書には、はじめから「その他の特別な理由」の『9』に○が印字されていた。

指定された学校の変更を願い出る場合の申請書はすべて自筆であるべきだが、市教委は申請者の意思も確認せず、意図的に実態とは違う理由をもって処理したということだ。

不可解なことに、文書右上の1~9でも「9 その他の特別な理由」に○を付けながら、括弧書きには「(小学校時のいじめ)」と記入。市教委は、整合性のないことを平気でやっていた。

申請書を提出した被害児童の保護者は、「たしかに署名した記憶はあるが、事務的に事が進んでいたため、記載内容を注意して見なかった。とにかく学区の変更を認めてもらうことばかり祈っていたので……」と振り返る。何とか学区変更を認めてもらいたい親心につけ込んだ、姑息な隠蔽工作だったと言えるだろう。同じようなケースは、翌年にもあったことが分かっている。

■伊敷中いじめでも市教委の隠蔽工作

下の文書は、令和元年に鹿児島市立伊敷中学で起きたいじめのせいで、転校を余儀なくされた女子生徒側が市教委に提出した「指定学校変更申立書」。《申立理由》の中には、「いじめ・不登校により指定学校に通学することが困難なため」という項目があり、当然そこに〇をつけなければならないはずだが、やはり「その他特別な理由」に○が付けてある。

当時の被害生徒の家族によれば、文書提出の当日、この用紙に所定の内容を書き込むよう指導した市教委の担当が、「ここに〇をつけて」と事務的に指示していた。申し立て理由を記入する欄に「申立書のとおり」とあるのも、市教委の指示によるもの。被害生徒の家族は、訝りながらも「指示通りやらなければ、転校を認めないということなのかと考え、市教委側の言う通りにしてしまった」と話していた。

2つのケースは、いずれもいじめ防止対策推進法が規定した「重大事態」に該当する案件だ。しかし、学校や市教委はいずれのケースでもいじめを矮小化し、「解消した」と虚偽の報告を行っていた。その結果、伊敷中の被害生徒は学期の途中で転校、市内谷山の小学校でいじめを受けた児童は、友人たちとは違う中学校に進学せざるを得なかった。

■いじめの相談、学校側は「苦情」と明記

いじめた側がそれまで通りの生活をおくっているのに対し、いじめられた被害者が転校や学区変更に追い込まれるという理不尽――。教育現場を歪めているのは、「いじめ」が解決できない力不足を記録に残すことを嫌う、学校や市教委の関係者だ。いじめられた子供に寄り添うことなく、解決策を求めて相談に来る保護者も、厄介な相手とみなしていた。その証拠が、被害児童の保護者が個人情報開示請求で入手した下の記録文書である。保護者は「相談」に行ったとしか思っていなかったらしいが、記録文書のタイトルは「●●さんからの苦情」となっていた。学校側は、子供を守りたい一心で相談しに来た保護者の言い分を「苦情」とみなしていたのだ。

この記録文書を見た被害児童の保護者は、「愕然となった」とした上で、こう憤る。
「入口段階で苦情と捉えられ、そこからスタートしている。いじめの解決より事態の沈静化、問題の矮小化に最初からベクトルが向いていたことを、改めて認識させられました。いじめへの対応には精神的にも時間的にも小さくない犠牲を伴いましたが、その全ては何の為だったのか……。当時、学校のホームページに掲げてあった“いじめ防止対応基本方針”にマーカーをして一生懸命先生たちに説明しましたが、学校は終始、加害児童とその家族を庇うばかりでした。だから『苦情』なんですね。重大事態を認定するよう訴えたことも、苦情に過ぎなかったということでしょう」

学区変更によっていじめから解放されたかつての被害児童も、「学校側が、相談を苦情と受け取っていたことを知ってゾッとした」と話している。

 

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