日本政策金融公庫が実行した融資約37億円あまりを仲介した見返りに金銭を受け取り、貸金業法違反で起訴された公明党の元衆議院議員遠山清彦被告(52)の初公判が1月14日、東京地裁で開かれた。
遠山被告は起訴状の内容を認め「反省している」と謝罪したが、検察が読み上げた冒頭陳述には、驚くような記載がいくつもあった。
■議員事務所の呆れた業務実態
遠山被告が、融資の仲介をはじめたのは2016年からで、1年に数件程度だったとされる。当時から、共犯者として起訴された太陽光発電システム「テクノシステム」の顧問・牧厚被告に融資希望者の紹介を受け、手数料を得ていたという遠山被告。検察は冒頭陳述で、牧被告の立場を次のように説明した。
《事業者側の種々の依頼を政治家等に取り次ぐなどして事業者側から顧問料や手数料等を得るいわゆる政治ブローカーを生業》
不動産ブローカーや金融ブローカーという言葉は司法の場でもよく聞かれるが、「政治ブローカー」という「生業」が登場するのは極めて異例。冒頭陳述はこのあと、驚きの犯行内容を明かす。
2020年3月から、新型コロナウイルスの大流行で「特別貸付」が開始されたことを受け、遠山被告はビジネスチャンスだと思ったのか牧被告に《融資希望者を継続的に紹介するように確認》(冒頭陳述より)。
自分の秘書に《国会議員事務所の業務として(融資仲介の)依頼に応じ、実務的対応を担うように秘書に指示した》(冒頭陳述より)。
なんと、議員会館の事務所が不正融資斡旋の場となり、日本政策金融公庫への「口利き」が「業務」となっていた。
遠山被告側は『融資依頼』というタイトルで、融資希望者について詳述したファックスを日本政策金融公庫に送信し、対応させていたというから呆れるしかない。牧被告からの案件は29回、それ以外のルートでは82回、合計111回に渡って融資を仲介。その金額は合計37億円あまりという巨額なものであることも明らかとなっている。
検察側は、遠山・牧両被告の一連の動きについて《牧と交際する中、(融資を斡旋するたびに)度々数十万円から100万円程度の現金を受け取っていた》、《牧は多くの場合、自己の顧問先に(現金を)用立てさせていた。一方、自己の顧問先の種々の依頼を取り次ぐなどしていおり、依頼の謝礼等の趣旨で現金を遠山被告に提供》などと厳しく断罪。法廷で読み上げられた牧被告の供述調書からは、得意になっていた“政治ブローカー”の顔が見える。
「飛行機の搭乗口で乗り込むため多数の乗客が並ぶ中、(遠山被告の「口利き」の威力は)ファーストクラスのようだった」。
2021年1月、遠山被告は緊急事態宣言下での「銀座豪遊」や政治資金を使ってのキャバクラ遊びが発覚して、同年2月に議員辞職を余儀なくされる。しかし、「得意先」を失ってはいけないとばかりに、自分の秘書を、別の公明党議員のところに「移籍」させて《融資額の一定割合を「融資手数料」として借り手から収受することを前提として、秘書に依頼し、公庫に対する融資希望者の紹介を続けていた》(冒頭陳述より)。
国会議員をクビになっても、違法な融資仲介に手を染めていたというのだから、開いた口が塞がらない。この程度の人物が、「公明」を党名にした政党の幹部だったわけだ。
■関係者から厳しい批判
遠山被告の斡旋で、日本政策金融公庫から融資を受けた九州の会社がある。その関係者が、打ち明ける。
「公判で牧氏がファーストクラスと言っていたそうですが、まさにその通り。融資申込を出すと、数日で担当課長から電話がありました。『滞りなく進めます』というんです。以前に借りた時とはまったく違う対応でした。審査書類に不備があった時も、説明すると、記入例まで作成してくれすぐに修正。あっという間に融資が実行されました。日本政策金融公庫のコロナ関連融資ですから、低金利というか、補填があるのでゼロ。しかし、遠山さん側にはしっかりと数百万円とられました」
牧被告は、昨年5月に詐欺容疑で逮捕され起訴されていたテクノシステムの生田尚之被告と遠山被告をつないだ張本人。捜査関係者から、次のような話が伝わってきた。
「牧は、日本政策金融公庫に口利きをしてもらった謝礼として銀座のクラブで遠山に100万円が賄賂として渡ったとの趣旨を供述している。遠山は財務副大臣なので、日本政策金融公庫を指導監督できるし、もちろん職務権限を有する。一時は贈収賄での立件も視野に入れていたが、牧の主張する時期が合わなかったために断念せざるを得なかった。結局、貸金業法違反での立件となったが、政治家のやることじゃない」
(*下の写真、メガネの人物がテクノ社の生田被告。遠山被告は、生田被告が経営する肉料理の開店に花を贈っていた)
どうやら牧被告は、自らの起訴を免れようとして、前述のような話をした模様。さすがは政治ブローカーだ。しかし、こういう輩の話に乗っかった違法なカネをもらっていた遠山被告は、より責任が重いと言わざるを得ない。
遠山被告が所属していた公明党は、今年夏の参院選で大きな打撃を受けそうで、ある議員は顔を曇らせる。
「支援者に何か言うと『遠山のことはどうなっている』と絡まれるんだよ。(遠山被告は)コロナを利用してぼろ儲けしたわけだから、当然だよね。参院選への影響?そりゃ、とてつもなく影響しますよ。まったく、冗談じゃない」
遠山被告は「反省している」と言いながらも、東京都内に開設した事務所(下の画像参照)は現在も維持している。ほとぼりがさめれば、また動き出すつもりなのだろうか。