3.3億が2年で9.5億|筑後市を揺るがす全農パールライス土地買収の核心(上)

3億3千万円の土地が2年で9億5千万円に――。まるでバブル時代に戻ったかのような土地取引が、福岡ソフトバンクホークスのファーム施設があることで知られる福岡県筑後市で行われていた。

短期間に巨額の利益を得たのは県南地区に本社を置く不動産業者F社。最終的に高い買い物をしたのは、農協の全国組織「全国農業協同組合連合会」(JA全農)の米穀部門を統括する「全農パールライス株式会社」(本社:東京)だった。

民間の商行為である以上、契約そのものに異論を差し挟むつもりはない。しかし、誰が考えても、地方都市の土地価格が2年で3倍は異例。全農パールライスは問題の土地に精米工場を建設しているのだが、不可解な土地ころがしに「噂」ばかりが先行し、筑後市内で政治的な思惑がミエミエの“怪文書”がばらまかれる事態となっている。筑後市で起きている騒ぎの“核心”について検証を試みた。

■2年で3倍の“土地ころがし”

問題の土地は、Jr羽犬塚駅の近くにある約18,000㎡の日清製粉筑後工場跡地。2016年、八女郡広川町に本社を置く不動産業者F社が、この土地を入札で取得。翌年、その一部を筑後市が道路用地として買収し、残った全ての土地を全農パールライスが、2018年に購入していた。(*下は、筑後市への情報公開請求で入手した図。赤と青の書き込みはハンター編集部。画像クリックで拡大)

 騒ぎの発端となったのは、昨年秋に筑後市内にまかれた1枚のビラ(*下がその実物。画像クリックで拡大)。大きく「全農パールライス背任行為」と見出しをつけた文書には、日清製粉筑後工場跡地を巡る土地取引の経緯が時系列順に記され、3億3千万円の土地が2年で約3倍の9億5千万円になったことを問題視する内容だった。「3億3千万」「9億5千万」といった数字が事実なら、まさにバブル期に頻発した“土地ころがし”。それが筑後市で行われたことに、驚くしかない

このあと、今年3月頃にかけて同じ内容を記したビラが数種類、発行元を「全農パールライスの背任行為を追及する会」や「農業の自立を考える会」などと変え、市内の関係先にばらまかれている。(*下の画像参照)

 3億3千万円の土地が2年で9億5千万円になったという点は確かに大きな疑問なのだが、全農パールライスか不動産業者が内幕について話さない限り、真相を知ることはできないとみられている。

むしろ、地元筑後市で話題になっているのは、ビラに出てくる「大物議員」や実名で登場する別の市議の関与をほのめかす記述の真偽。そして最大の問題は、民間人が作成した各種のビラに、土地取引の当事者と「役所」しか知り得ない契約額が明記されていることだろう。問題の核心は、ここにある。

■濡れ衣着せられた「大物議員」

まず、ばら撒かれた一連のビラに出てくる内容と筑後市への情報公開請求で入手した資料の記述から、事の経緯を整理しておきたい。

2014年に日清製粉の工場が閉鎖された後、16年にF社が入札で跡地を購入。17年12月に筑後市がその一部を道路用地として買収し、翌年7月に残った土地の全てを全農パールライスが取得したという流れだ。自治体が用地買収を行う際には必須となる土地の鑑定評価は、17年3月までに実施されていた。ビラがまかれ始めたのは昨年秋からで、ほぼ1年おきに事態が動いてきた形だ。

「全農パールライスの背任行為を追及する会」や「農業の自立を考える会」が配布したビラには、「地元の大物議員が、JA全農ふくれんを連れて筑後市役所を訪問 市長、議長に全農パールライス新精米工場の立地を報告」との記述がある。あたかも、「地元の大物議員」が土地取引に介在したかのような書きぶりである。実際のところ、どうだったのか――。

ビラが指摘した「地元の大物議員」とは、福岡県議会の議長や自民党県連会長を歴任し、現在は日本獣医師会の会長を務めている蔵内勇夫県議会議員のことだ。たしかに“大物”ではある。しかし、上掲の表でも分かる通り、全農側が日清製粉工場跡地を保有していたF社との間で土地売買に関する正式合意を行ったのは2018年4月。売買交渉自体は、これ以前から続いていたとみるのが普通だろう。

一方、蔵内氏が全農側から頼まれ、筑後市役所に担当者を同行したのは同年6月で、どの土地を取得するかについての結論が出た後。蔵内氏が売買交渉に関与したとする見方には、無理がある。実際、全農側は地元県議の関与を完全否定している。(*下は、全農側が蔵内氏に出したお詫び文)

ある捜査関係者は、次のように話す。
「蔵内氏が土地取引に関わったのではないかという噂があったのは事実。調べた結果、まったくのでっち上げだったことが分かっている。政治的な意味合いの大きい、誹謗中傷と言える。問題は、ビラを作った団体の代表者が、どうやって民間どうしの土地取引の金額を知ったのかという点。売主、買主、そして市役所と県しか知り得ない情報だからだ。不動産業者や全農が取引内容を明かすはずがない以上、県か市役所が漏らしたということになるが……」

■土地価格を漏らしたのは?

たしかに、「9億5千万円」という土地の価格についての裏付け資料はない。儲かった不動産業者のF社にしろ、全農にしろ、契約金額をオープンにして取引相手を困らせるようなマネをするはずがないからだ。F社に、全農パールライスとの契約金額「9億5千万円」が事実なのかどうか確認を求めてみたが、「個別の取引内容については、一切答えられない」という回答だった。

全農にしても、F社に断りなく買収額を明かすことはできない。すると、残るは役所だ。だが、市役所や県庁に情報公開請求しても、一定面積の土地売買で届出が義務付けられている「土地売買等届出書」の数字は、当然ながら黒塗り非開示となる。
(*下、左が日清製粉からF社が問題の土地を購入した際の届出書。左はF社が全農に転売した際の届出書)

筑後市内でばらまかれたビラに記された土地価格を、公式記録で確認することは不可能な状態だ。本当にビラの数字は信用できるのか――。ハンターの記者が、一連のビラを発行している団体の代表者を訪ね、事実確認を求めた。

(以下、次稿)

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