黒幕は・・・|筑後市を揺るがす全農パールライス土地買収の核心(下)

福岡ソフトバンクホークスのファーム施設があることで知られる福岡県筑後市が、土地疑惑に絡む政争で揺れている。

騒ぎの発端となった土地は、Jr羽犬塚駅の近くにある約18,000㎡の日清製粉筑後工場跡地。2016年に八女郡広川町に本社を置く不動産業者F社が同地を購入したあと、2年後の18年に全農パールライスがF社から、ほぼすべてを精米工場用地として取得していた。

この間、土地価格は約3.3億円から9.5億円に膨らんだとされ、背景を巡って「大物議員」の存在を示す「ビラ」が何種類もばらまかれる事態となっている。「9.5億」に根拠はあるのか――。ハンターの記者が、ビラを作成している団体の代表者を直撃した。

■ビラ作成者は筑後市長の後援会長-「金額の情報源は言えない」

筑後市内でばらまかれたビラに記された土地価格は、信用できるのか――。ハンターの記者が、一連のビラを発行している団体の代表者を訪ね、事実確認を求めた。

団体の代表者である下川良彰氏は地元の有力者。最近まで、前出・蔵内県議の後援会副会長だった。それだけではなく、現在は西田正治筑後市長の後援会長で、市議を落選して副市長の椅子をあてがわれている北島一雄氏の後援会関係者でもあったという。その下川氏が、なぜ蔵内氏に濡れ衣を着せるような内容のビラを作成したのか――?数字の根拠はあるのか――?

取材に応じた下川氏は、蔵内後援会の副会長は辞任したとした上で、「貝田市議から、日清製粉跡地が3倍になったということと、蔵内県議が関わっているらしいという話を聞いた。これではいけないと考えた」と明言する。ただし、市議から聞いたのは、「3倍になったげな」と「蔵内さんが関わったげな」という話だけで、「3億3千万」「9億5,000万」といった数字は別の人物から得た情報だという。(*「貝田市議」とは、貝田晴義筑後市議会議員のこと。同氏へのインタビューは後述する

「3億3千万」と「9億5,000万」はどこから得た情報なのか何度も確認したが、「言えない」の一点張りである。こうなると、数字の信憑性が揺らぐ。それでも「数字は本当」「間違いない」と断言する下川氏。ここで記者は、「3億3千万」が妥当な金額だったことを示す唯一の証拠を見せてみた。それは2017年に、筑後市が問題の日清製粉工場跡地の一部をF社から買収した際の「鑑定評価書」だ。

鑑定を行ったのは、堅実な仕事に定評のある福岡市内の鑑定会社。筑後市が必要としたのは日清製粉工場跡地の一部だったが、鑑定評価書自体は跡地全体についての評価額を算出していた。(*下の画像参照。クリックで拡大)

 日清製粉工場跡地の評価額は「334,000,000円」。ビラに記載された金額「3億3千万円」とほぼ同じで、その記載内容の裏付け資料とみることもできる。しかし、下川氏は記者が示した鑑定評価書を「初めて見た。どうやって手に入れましたか?」と首を傾げる始末。つまり、裏付け資料はないということだ。では、3億3千万の根拠さえ知らなかった下川氏が、なぜ自信を持って9億5千万円を「間違いない」と言えるのか――?

2016年から2017年にかけて、問題の土地の価値が3億ちょっとの価値しかない土地だったことは、市の鑑定結果からも明らかだ。しかし、半年余りに及んだ取材の過程で、「9億5千万円」の根拠を確認したという話はどこからも聞こえてこなかった。最終的な売買金額・9億5千万円をビラに明記した下川氏が「間違いない」と断言できるのは、情報源が確かな筋であるからこそだ。つまり、数字の出所は「役所」である可能性が高い。前述したように、県と筑後市は「土地売買等届出書」で正確な契約金額を知ることができるからだ。ここで最後に残る疑問は、“誰から聞いたのか”という一点に絞られる。

■渦中の市議が重要証言―「原口議長から聞いた」

ビラ作成の責任者である下川氏は、市長や副市長の現・元後援会長という立場。県とのパイプはなくても、市長・副市長や市職員に話を聞くことは可能だろう。しかし、それは守秘義務違反という違法行為を前提とする話になるため、関係者の口は当然重くなる。取材の壁にぶつかって突破口が見つからずにいた記者が次に話を聞いたのは、下川氏に日清製粉跡地が3倍になったということと、蔵内県議が関わっているらしいという報告をしたという貝田晴義筑後市議会議員だった。

取材に応じた貝田市議は、「『3倍になったげな』と『蔵内さんが関わったげな』は、たしかに私が下川さんに言ったことです」と悪びれる様子もない。以下、記者と貝田市議とのやり取りの概要である。

――下川氏に対し、本当に「3倍になった」と「蔵内さんが関わった」と言ったのか?
貝田:言いました。間違いありません。

――何を根拠にそういった話をしたのか?
貝田:議会の中で、みんなが言っていたことだから、噂を伝えたという感じだった。「日清製粉の土地のことはどうなっているか?」と下川さんに聞かれたので、軽い気持ちでそう答えました。まさか、このような形で使われるとは、思ってもみませんでした。

――議会の中の、誰から聞いたのか?
貝田:ちょっと、それは……。

――言えないのか?あなたが一連のビラの情報源という話もあるが。
貝田:私は、聞いた話を下川さんに伝えただけで、細かい数字、3億3千とか9億なんぼについては全く知らなかった。伝えようがない。

――では、「3倍になった」と「蔵内さんが関わった」というのは、誰が言っていたのか?
貝田:……。まあ、話すしかないでしょうね。実は、『3倍』の話は原口議長に聞きました。あ、議長はその当時のことですが。蔵内県議の関りについては、議員間での噂話として伝えたと記憶しています。

――原口議長とは、原口英喜前市議会議長のことか?
貝田:そうです。

――原口議長は、何と言っていたのか?
貝田:(日清製粉筑後工場の土地が)3倍になった、ということでした。

――他には?
貝田:“なんで分かったですか”と尋ねたら、『分かる者には分かるとたい』という返事でした。

――どういうことだと思ったか?
貝田:原口議長は長年要職にあった人ですから、情報が集まるんだろうと思っていました。

極めて重い証言と言えるだろう。貝田氏が明かした情報源は原口英喜市議会議員。議長を何度も務めているベテラン議員で、しかも、2017年に初当選した西田正治市長を担ぎ出した中心人物だ。今年に入ってからは、筑後市を選挙区に含む福岡7区・藤丸敏衆議院議員の地区後援会長に就任するほどの“大物議員”である。「分かる者には分かるとたい」という発言は、決して“はったり”ではあるまい。「3倍になった」という話だけでなく、問題の土地の価格を聞き出すことも可能だったはずだ。もちろん原口氏は否定するだろうが、その言に説得力はあるまい。

原口氏を巡っては今年1月、ハンターの調べで、政治団体の届出をせずに長年「後援会活動」を続けていたことが判明。“無届け後援会”が2019年、印刷物を作成して支出を行っていたことも分かり、団体設立の届出をせずに団体としての収入を得たり支出を行った場合は5年以下の禁固または100万円以下の罰金と定めている政治資金規正法に違反していたことを報じた。この時の取材に対し原口氏は、当初「違法なことはやっていない」と明言しながら、違法行為が明らかになったとたん「県に届出はしていないが、県と市(市内の政治活動)は別だと考えていた」と述べ、“無知によるミス”を主張していた。釈明としては最低。当選6回の政治家が言うことではあるまい。

実は、原口市議も西田市長も、蔵内県議との間に“溝”が指摘される微妙な関係。2019年の福岡県議会議員選挙の折は、原口氏やその周辺が、蔵内県議の対抗馬擁立を模索していたことが知られている。前出の貝田市議も、そうした動きがあったことを認めている。その原口氏は、たしかに下川氏と近い。

下川氏と原口元議長との密接な関係について、別の市議会関係者はこう証言する。
「原口さんが、『下川を西田(市長)の後援会長に据えたのは自分だ』と自慢しているのを聞いたことがある。今回のビラの件の裏に、下川-原口-西田という人間関係があるとみている人は少なくないだろう」

別の市関係者は、「もっと裏がある」とした上で、次のように解説する。
「原口議員は藤丸代議士の後援会長ですよ。藤丸代議士が一連の動きを知らないはずがない。藤丸代議士の後ろには、名前は出せないが大きな人物がいる。これ以上は話せないが……」

全農パールライスに高い買い物をさせた張本人は、相当に影響力を持った人物だ。少なくとも全国組織である全農に、文句を言わせないだけの力がなければ、3.3億の土地を9.5億で買い取らせるようなマネはできない。確証がない段階で疑惑の先の人物名を挙げることはできないが、それが蔵内氏でないことだけは確かだ。

ではなぜ、情報源が明かされれば違法性が問われるような「ネタ」を使って、蔵内氏を追い込もうとしたのか――。背景に、政治的な対立があることだけは間違いない。

 

 

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