新聞社の偽サイトまで作って投資を誘う詐欺グループ

世の中には、汗水たらして働くことを嫌い、他人をだまして金を儲けようとする輩がいる。そういう人間がIT(情報技術)に目を付けないわけがない。インターネットの世界でも、詐欺師どもが跳梁跋扈している。

彼らは「ITや金融の最先端の動き」に敏感である。対話型の人工知能(AI)であるChatGPTや外国為替保証金取引(FX)を持ち出し、言葉巧みに投資を呼びかけて金をだまし取る。すでに多くの詐欺被害者が発生し、警察が容疑者を逮捕した事件もあるが、ここ最近、とんでもない手口を使うグループが登場した。

◇   ◇   ◇

朝日新聞や日経新聞、読売新聞のニュースサイトとそっくりの偽サイトを作って著名人を勝手に登場させ、「最先端技術を使って確実に資産を増やす方法がある」と投資を呼び掛けているのだ。最初は「3万5,000円の投資で始めましょう」と敷居を低くし、その後、金額を膨らませて全額かすめ取る、という手口である。

12月下旬、Facebook に「著名な起業家のイ―ロン・マスク氏が革命的なAIプロジェクトに乗り出した」という記事を伝える投稿があった。クリックすると、朝日新聞デジタルとそっくりの画面が現れ、「スペシャルリポート」と銘打った記事が表示される。本物の朝日新聞デジタルと同じロゴを使い、サイトのバナーも同じだ(⇒下が朝日偽サイトの画像。2023年12月22日時点)。

 記事では「イーロン・マスク氏が共同設立した企業がAIプロジェクトに数十億円を投資し、暗号通貨の取引を通じて富を生み出す技術を開発した」と伝え、ご丁寧にもマスク氏との独占インタビューなるものまで載せている。

マスク氏は「私たちの目的は、すべての人が自分の願望を手に入れられるようにすること」「世界中の銀行がこの新しいプラットフォームを快く思っておらず、サービスの閉鎖を試みている」と語ったのだという。

もちろん、サイトそのものが偽物で記事もすべてデタラメなのだが、一見しただけでは、朝日新聞の公式サイトと区別が付きにくく、「画期的な技術が開発され、投資のチャンスが到来した。乗り遅れてはいけない」と思い込んでしまう読者もいそうだ。

記事では続けて、「このトレーディング・プラットフォームの人気が急上昇しています」「利用可能な期間が限られている可能性がありますので、すぐに申し込むことを強くお勧めします」「現時点では(日本向けに)37名の枠が残っています」とたたみかけ、口座の開設とその口座への入金を促している。

実に巧みな手口だ。よく考えれば、世界的な起業家が日本の新聞にそのような重大なことを明かすはずもなく、怪しげな話だと分かる。が、このプロジェクトで資産を増やした、という東京の大場健さんやら京都の北澤繁樹さんやら(いずれも架空の人物と思われる)の「実例」が写真と利益額付きで紹介されている。読者の警戒心を緩める仕掛けも巧妙きわまりない。

同じ時期、Facebook には、日本経済新聞のニュースサイトが「トヨタ自動車の豊田章男会長がビットコイン(デジタル通貨)で2000億円の投資をして新しいプロジェクトに乗り出した」との記事が掲載された。こちらも、クリックすると日経の公式サイトと同じロゴを使った偽サイトにつながる(下が日経偽サイトの画像。2023年12月22日時点)。

初回に3万5000円を入金すれば、その金が「AIのプログラムで見る見るうちに増えていきます」との触れ込み。朝日新聞デジタルの偽サイトとまったく同じ手口で、同じように口座開設と入金を促すページに誘い込む仕掛けになっている。

Facebookには、読売新聞オンラインの偽サイトも登場した(⇒下が読売偽サイトの画像。2023年12月22日時点)。こちらの登場人物は落語家の笑福亭鶴瓶で、ぐっと庶民的だ。鶴瓶が黒柳徹子の「徹子の部屋」に出演し、うっかり「お金持ちになるために働く必要はないんです。この(ビットコイン)プログラムは1日に何万円も稼いでくれるんです」との“秘密”をもらしてしまった、との仕立てだ。その後の投資勧誘の手口は、朝日新聞や日経新聞の偽サイトと変わらない。

この記事では「鶴瓶の発言で日銀が提訴」「放送中に日銀から番組の中断を求められた」などとなっているが、もとがデタラメなのだから、そのような事実もあるはずがない。

こうした罪深いものを掲載したFacebook はどう対応するのか。注視していたら、数日後にはどの偽サイトもFacebook からは消えていた。ただし、偽サイトそのものはネット上に残っているので、SNSで拡散される恐れは消えていない。

この手の話はSNSでアッと言う間に広まる。さっそく、Facebook には「投資詐欺にあいました」とのコメントが寄せられた。大金を失い、コメントを寄せる気力もない人もいることだろう。

そもそも、しかるべき人が見れば、一目でデマと分かる投稿や広告がなぜ、Facebook にはやすやすと載ってしまうのか。その運営方法に改善の余地があるのではないか。朝日新聞や読売新聞、日経新聞の本物のニュースサイトを見れば、デタラメな内容であると簡単に分かるのに・・・。偽サイトを作られ、利用された新聞社の方も、今回は「よくある投資詐欺の一種」と見過ごすべきではないだろう。

この投資詐欺グループは、口座を開いて入金した人にプログラムマネージャーを名乗る人物がしつこく、たどたどしい日本語で追加の投資を求めてくることで知られている。偽サイトの作成は日本人、電話での投資の勧誘は外国人と分業しているようで、かなりの人数がかかわっている、とみられる。

弁護士事務所には、この手の投資詐欺に遭った被害者からの相談が続々と寄せられているようだ。「当事務所には仮想通貨詐欺に強い弁護士がいます」などとうたった弁護士事務所のサイトがいくつもある。

詐欺師は、儲けより損失の方が大きいことを何より嫌う。関与した者たちを詐欺容疑で摘発し、厳罰に処すことが最善の解決策だろう。

 

【追記】さらに調べたところ、2023年10月27日にはネット上に「笑福亭鶴瓶の投資話はデマ」と注意を呼びかける投稿があった(参照)。Facebook は2カ月近くも詐欺グループの偽サイトを掲載し続けていたことになる。

 

長岡 昇:NPO「ブナの森」代表)

長岡 昇(ながおか のぼる)
山形県の地域おこしNPO「ブナの森」代表。市民オンブズマン山形県会議会員。朝日新聞記者として30年余り、主にアジアを取材した。論説委員を務めた後、2009年に早期退職して山形に帰郷、民間人校長として働く。2013年から3年間、山形大学プロジェクト教授。1953年生まれ、山形県朝日町在住。

 

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