福岡県田川市、川崎町、糸田町、福智町の1市3町で構成する「田川広域水道企業団」が、約150億円をかけて田川市内で整備を進める新浄水場=白鳥浄水場(仮称)の建設工事にチラつく永原譲二大任町長の影。ハンターの記者から工事関連文書の情報公開請求を受けた企業団は、永原案件であることを知られたくなかったのか、土地買収に係る一部の文書を「隠蔽」。不足を追及されるやいなや、一転して開示した。
隠そうとしていたのは、永原町長のファミリー企業が所有していた土地の取引記録。ただし、指摘を受けての後出し開示はこれだけにとどまらず、次に企業団側が渋々出してきたのは、3件もの「一者応札」を誘導したとみられる“入札参加資格”を決めるまでの過程を示す文書”だった。
■3件の工事すべてが「1者応札」
新浄水場建設工事の事業費は約150憶円。工事契約は、内容によって「土木・建築」、「機械設備」、「電気設備」の3つに分けられている。工事名と契約金額、受注業者は次の通りだ。
これだけ大きな案件であるにもかかわらず、3件はいずれも「1者応札」で決まっていた。1者応札で想起されるのは、田川市を含む8市町村で構成する「田川郡東部環境衛生施設組合」が整備を進めるごみ処理3施設=「大任町ごみ処理施設」「汚泥再生処理センター」「大任町一般廃棄物最終処分場浸出水処理施設」の業者選定。組合を構成する自治体から建設工事の委任を受けた大任町の永原譲二町長の隠蔽姿勢が原因で、3施設が疑惑まみれとなり、田川地方を揺るがしていることは周知の通りである。
■入札参加資格の基礎資料はペラペラのワード文書
ではなぜ、新浄水場の入札まで1者応札になったのか?こうしたケースでは、入札参加資格(条件)で応札業者を絞った可能性を疑ってみるべきだ。方針を決めた際の会議資料の中に、入札参加資格の「案」はある。しかし、“いかなる過程を経て条件が決められたのか”という疑問に答え得る文書は、当初の開示資料の中には含まれていなかった。
参考資料なしで、いきなり資格案が登場するわけがない。企業団側を追及したところ、案の定、こうした大型公共事業では通常あり得ない杜撰な決定過程が明らかとなった。まず、下が3件の工事の入札参加資格を決めた際の「案」。これがそのまま、正式な入札参加資格になる。
重要なのは、結果的に「一者応札」を招いたこれらの入札参加資格が、どのように決められたのかという点だ。前述したとおり、当初開示された資料の中に該当する文書はない。ハンターの記者が企業団側に存在をしつこく指摘するうち、担当課長が「ワードの文書がありますが……」と言い出した。意味が分からないが、とにかく確認するしかない。
そして開示されたのが下の文書。A4版の用紙に記された「土木・建築工事」、「機械設備工事」、「電気設備工事」、それぞれの入札参加資格の素案のようなものである。
文書の内容を確認したが、誰が作成したのかまるで分らない。ただ、書きぶりからして『外部』の誰かが作成し、赤字で説明を加えたと思われる文書であることは確かだ。作成者を確認すると「設計会社だと聞いています」と、担当課長は言う。“どのような形で提出されたのか”については「メールで」という答えが返ってきた。
150億円もの公費が投じられる建設工事の入札参加資格の素案を、設計会社がメールで送ってきたというのだ。信じられない。しかも、このペラ紙に記載された入札資格が、そのまま実際の入札資格として採用されている。あたかも、最初から請負い業者が決まっていて、入札参加資格を形だけ整えた格好だ。怪しいという他ない。
■重要資料、電話で作成依頼
問い詰める度に、追加で出てくる証拠資料――。ダメ元でメールの送受信記録を開示するように求めたところ、設計会社からのメールだけは不思議と残っていた(*下の画像、参照)。
メールを含めた一連の開示資料を精査し、設計会社から素案のメールが送られてきた日を基準にその後の経過をまとめると、次の表のようになる。
参加資格を決める際の基礎資料となった設計会社の素案が送られてきてからは、ドタバタと素案通りに入札参加資格を正式決定し、日を置かずに入札公告、資格確認へと進んでいた。時系列でみれば、出来レースを疑わざるを得ないスピードだ。決められたレールの上を走ったと言っても過言ではあるまい。
開示された資料を見るかぎり、設計会社に入札参加条件の作成まで委託した形跡はない。“では、誰が、どのような形で資格案の作成を依頼したのか”と企業団側を追及したところ、「職員が電話で(依頼した)」という呆れた答えが返ってきた。
150億円もの事業費を投じる大型公共事業の請負業者を決めるため基礎資料を、こともあろうに電話で、しかも設計業者に提出するよう頼んだというのだ。あまりの杜撰さに驚くしかないが、当然、依頼した際の電話の記録は一切残っていなかった。
開示されたメールの記述から分かったのは、「木戸局長」「貝瀬」という企業団側の依頼者の名前。この二人は、現在も企業団の職員だ。設計会社側のコメントーー《本日午前中に木戸局長から依頼された資料を送付します》《貝瀬さんに依頼された資料を送付します》――からは、入札参加条件の素案が、電話という極めて軽い依頼方法によって企業団側に提示されていたことが確認できる。
重ねて述べるが、この新浄水場の事業費は約150億円。電話で入札参加資格の素案作成を依頼し、メールで送り返されてきたペラペラの紙の通りに参加資格が決まっていた。入札参加資格決定までの議論の過程を示す文書は、何も残されていない。
そもそも、入札参加資格をまじめに議論して決める必要がなかったのではないか――?資格など関係なしに、請負業者が決まっていた可能性が否定できない。
(以下、次稿)