北海道警察の方面本部で監察官室長を務める警察官が泥酔して110番通報される騒ぎがあった。監察官室は職員の不祥事に対応する部署で、そのトップが犯した失態は複数の地元メディアが報じるところとなったが、道警は今もこの一件を公式に発表していない。
■泥酔してのお粗末行為
騒ぎを起こしたのは、本年3月下旬に北海道警・稚内警察署長から北見方面本部の監察官室長に異動したばかりの50歳代の男性警視。同警視は今月中旬、泥酔した状態で北見市内の市民温水プールを訪ね、裏口の扉を叩いて「開けろ」などと大声を上げ、110番通報されたという。
施設関係者によれば、警視がプールに現われたのは13日午後8時半ごろ。裏口にあたる「緊急搬入口」を叩く音に気づいた女性職員が駈けつけると、あきらかに泥酔した男がドアの把手を掴むなどしながら「開けろ」と叫んでいた。職員から連絡を受けた施設長が現場に赴き、男を正面玄関まで案内して施設のロビー内で話を聴こうとしたが、男は終始おぼつかない足どりで、玄関先で脱いだコートをハンガーに架けることができないほど酩酊しており、何を話しかけても要領を得ない様子だったという。
「言っていることが支離滅裂で、とても会話になりませんでした。出張で北見にいらした方が飲み過ぎて道がわからなくなったのかと思ったんですが、住所を訊くと『北見市内に住んでる』と。念のため免許証を見せてもらったら、住所が稚内になっている。その時は警察の偉い人だとは思わなかったので、なんともおかしな感じでした」(施設長の男性)
プールの営業時間は、午後9時まで。やりとりに埒が明かなかったため、施設長は閉館が迫る8時45分ごろに110番通報した。併せて、男性職員に施設外周を見回ってくるよう指示を与えたという。眼の前の男が、ズボンを穿いていなかったためだ。
「ズボン下というのか、スパッツのようなものを着けて、足元は靴下だけ。『ズボンどうしたんですか』と訊いても『わからない』と」
施設の周囲を見回った男性職員がほどなく発見したのは、ズボンと靴下、及びネクタイ。屋外で次々に脱ぎ棄てた行為の真意は、本人にしか知り得ない。9時を少し回るころ、地元の警察官がプールを訪れて男の身柄を確保した。のちの報道では、これは警察官職務執行法に基づく「保護」だったとされている。その日は土曜日で、翌々日の月曜日に北見方面本部の関係者が謝罪に訪れたことで、施設長らは泥酔男が現職の幹部警察官だった事実を知ることになった。
■相次ぐ不祥事
管轄区域が広大な北海道警は、札幌の警察本部のほかに4カ所の「方面本部」を設けており、各本部は一般的な府県警察本部に匹敵する位置づけとなっている。北見方面本部は道東のオホーツク管内の市町村を管轄し、域内に北見署や網走署など7署を抱える。かの警視が同本部の参事官兼監察官室長に着任したのは、本年3月25日のこと。その直後に伝わった今回の泥酔騒ぎは報道発表されておらず、道警は筆者の取材に対しても事実関係の確認などを拒否、公表を控えた理由もあきらかにしていない。この件に伴う人事異動があるかどうかについては「現時点ではありません」としている。
幹部の失態の驚き冷めやらぬ24日には、同じ北見方面本部の現職警察官2人が同期の元警察官から大麻を譲り受けて吸引したとして書類送検されていたことがあきらかになった。道警は同日付で2人を懲戒免職処分とし、本部監察官室長名で「警察官としてあるまじき行為で、道民の皆様に深くお詫び申し上げる」「指導・教養を徹底し、再発防止と信頼回復に努めていく」とのコメントを出した。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |
*泥酔事件を起こした監察官室長の去就については、本稿出稿後の24日午後4時40分に道警警務部の報道発表があり、25日付で監察官室長を解き北見方面本部付とする人事が伝えられた。(4月25日 09:45追記)