「来てもらうとますます票が減りそうだ」と嘆いていたのは、自民党の島根県議。岸田文雄首相が21日、衆議院補欠選挙が行われている島根1区入りした。
元衆議院議長、細田博之氏の死去に伴うもので、島根は言わずと知れた保守王国。自民党は錦織功政氏を公認し、必勝態勢で臨む。立憲民主党は元職の亀井亜紀子氏を擁立しているが、自民党にとってはかなり苦しい選挙となっている。注目されるのは補選後の岸田首相の出方だ。
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負けられない自民党だが、情勢調査では錦織氏が亀井氏に15ポイント以上引き離されるという状況。期日前投票の出口調査ではさらに差がつき「ざっとカウントして100人に調査すると『亀井に入れた』が60から65人。錦織と答えたのは30人から40人ほどだった」(前出の自民党島根県議)
長崎3区と東京15区を加えた三つの補欠選挙で、自民党が唯一公認候補を擁立しているのが島根1区。他の2つはすでに「不戦敗」が確定している。勝ち目が薄い中で、岸田首相が錦織氏の応援に入るの何故か――。ある自民党の幹部が次のように解説する。
「島根1区を落とすと、自民党は補欠選挙3連敗。岸田首相の退陣に向けた号砲となりそうです。そうなると、9月に控える自民党総裁選には出馬すらできなくなります。そこで岸田首相は一縷の望みにかけて島根1区行きを決断した」
だが、その決断も実りそうにない情勢だ。ハンターでは、自民党の国会議員に「選挙用」とも思えるポスターを配布したことをいち早く報じたが(既報)、岸田首相は「補選3連敗」を受けて激しくなりそうな岸田降ろしに対抗すべく、6月23日に予定される通常国会の閉幕前後で、衆議院の解散総選挙に打って出るという見方が強いのだ。永田町では、「6月21日だ」「いや6月18日だ」などと解散日の想定が駆け巡っている。
重要なのは、6月20日告示、7月7日投開票がすでに決まっている東京都知事選だ。現在は、小池百合子知事の3選が濃厚という見通しだが、解散のタイミング次第では都知事選とのダブルになる可能性もある。そうなると、投票率がアップするのは間違いない。裏金事件などのダメージが残る自民党にとってはさらに厳しい戦いになる。組織票頼りの政権与党、公明党も同様だ。
自民党は裏金議員に処分を課した。安倍派の座長だった塩谷立衆院議員は離党勧告。西村康稔前経産相、下村博文元文科相には党員資格停止が1年、高木毅前国対委員長は党員資格停止半年。この4人は自民党の公認はなく、無所属か別の党に移籍しての選挙となる。
「岸田首相は自分の立場、首相の座を守るために解散総選挙をやろうとしているのか。今、そんなことをやれば政権交代にもなりかねない。処分が解除される1年ほどは解散総選挙をしないほうがいい。もう少しすれば裏金事件も薄れて、支持が回復するはずです。それを解散総選挙なんて、岸田首相は自民党をぶっ潰したいのか」と裏金議員の中からはこんな怒りの声があがる。
それでも、党内の大勢は「解散総選挙もやむなし」と自民党の大臣経験者はいい、こうも付け加える。
「今なら、まだ野党もまとまっておらず、選挙準備もできていない。なんとか、自公で過半数は維持できるのではないかと岸田首相は見ているようだ。それにアメリカへの国賓の訪問でわずかだが、支持率もアップした。これ以上あがるタイミングはなさそうで、9月の総裁選で敗れるなら解散をやりたいというのが岸田首相の意向のようだ。ハンターで報じたポスターがそれを物語っているんじゃないのか」
解散総選挙と都知事選のダブルとなれば、最も怖いのが小池知事。東京15区で、小池知事のファーストの会と国民民主党が推薦している乙武洋匡氏が大苦戦。そして、小池知事自身も「学歴詐称」問題に揺れる。
「小池知事が都知事選3期目に突入するとします。4年後は75歳となり、政治家としてはそれ以上の上がり目がありません。それなら、国政に鞍替えする最後のチャンスが岸田総理の6月解散だと考えても不思議ではないでしょう。当初、東京15区に乙武さんを出すことはないとみていました。それは小池知事自身が東京15区に出るかも、という想定があったからです。ただ出ないと判断した直後には、小池知事のサプライズで乙武さんに決まった。そのあたりから見ても、岸田首相が解散に舵を切れば、小池知事も衆議院へ、という雰囲気はある。ただ、学歴の問題がどうなるか……」と小池知事が実質的に率いる都民ファーストの都議は話す。
話を岸田首相に戻そう。自民党総裁選は9月に迫っている。6月に解散総選挙で勝利すれば、「国民の信を得た」となり、総裁選が無投票となる可能性が残る。また、裏金議員の落選も相次ぐはずで、安倍派の勢力をさらに削ぐことができる。過去に、同じようなケースがあった。
岸田首相と同様に支持率低迷が続く中、通常国会の会期末に解散総選挙を打ったのが、安倍派の元親分・森喜朗元首相。「神の国発言」などで叩かれ、支持率が20%を割り込みかねないほど不人気だった。選挙も大敗が予想されたが、233議席を獲得し公明党、保守党(当時)とあわせて過半数を維持した。
森元首相はその後、自民党総裁選には出馬せず小泉純一郎氏が登場。「小泉劇場」で長期政権となった。そして政界引退をしたかに見えた森元首相は、いまだに老害をまき散らしながら、安倍派のオーナー、あるいはキングメーカーとして影響力を維持している。だが、それが日本の政治を悪化させている元凶で、その象徴が裏金事件だ。解散総選挙か、総裁選からの撤退か――岸田首相はどちらを選ぶのだろう?