福岡市の中心部に位置する須崎公園と市民会館を一体整備する「福岡市拠点文化施設整備及び須崎公園再整備事業」において、疑惑が浮上した。
事業者選定において、市側が「地下」にこだわった駐車場の整備手法が、入札間近のタイミングで唐突に「地上」に変更されたことから、落札を目指していた業者が次々に撤退。「地上案」を提示した業者だけが応札するという不可解な経過をたどっていた。
■「要求水準書」記述の変遷
問題視されるのは、言うまでもなく“入札の公平性”だ。これまでの取材で、当初の要求水準=地下駐車場では採算が合わないとして入札参加を見送ったケースや、一業者グループの要請で突然変わった方針に対応できず、泣く泣く応札をあきらめたケースがあったことが分かっており、公平性を欠く業者選定が行われたことは明らか。「地上での駐車場整備が可能なら応札していた。入札辞退によるロスはあまりにも大きい」と憤る関係者の話には、頷くしかなかった。
事業経過を検証するにあたって、市が事業を請負う業者に求める「要求水準書」がどう変えられたかを確認しておきたい。要求水準書とは、一般的な委託業務や請負業務における仕様書に相当するもので、入札の応募者が事業計画を提案する際に参照し、応募意志の決定、事業計画の立案、事業リスクの評価などを踏まえて入札価格を決定するために必要となる全ての事項を含む文書である。まずは、2018年12時点の「要求水準書(案)」の記述から。(*赤い書き込みはハンター編集部)
次が、2019年7月時点の水準書の記述。それまでの「地下を中心に」という表現が「地下などに」に変わっている。
水準書の変更点を明らかにするため作成・公表される「変更履歴」をみれば、「事業エリアの景観や利用者の利便性、安全性に配慮したうえで」と断りを入れながら、「を中心」を「など」に書き変えたことが分かる。
わずか半年で、それまで何年もかかって積み上げられた要求水準が変えられたことになるが、「を中心」が「など」になったことで、整備事業後の須崎公園一体の景色が、予想されたイメージから大きく変わることになる。
ここで、前稿で示した落札業者提案のイメージ図を再掲してみたい。
地上に駐車場が整備されることを前提としたイメージ図だが、もともとの計画は「地下駐車場」。従来の計画案を順守していれば、景観は全く違うものになるはずだった。
それだけではない。この「を中心」から「など」への記述変更が、それまで決して容認されなかった「地上駐車場」への事実上の設計変更へとつながり、地上案での計画を進めていた事業グループだけが応札可能な状況を作り出すのである。
それでは、簡単に変更されるはずのない「要求水準書」が書き変えられることになったのは、何故か――。次稿で、異例の展開をみせた“市側と業者側のやりとり”を記した文書から、その答えを明らかにする。
(つづく)