北海道警が否定した“政権批判プラカード阻止”|残されていた証拠の映像

またしても警察が、驚きの主張だ。昨年7月に札幌市で起きた首相演説ヤジ排除問題で北海道警察はこのほど、演説の現場で年金問題などに疑問を呈するプラカードの掲出を警察官が阻止した事実について、同事実を確認できなかったとする調査結果をまとめた。当事者の女性は「私たちが嘘をついたというのか」と、改めて道警の言い分に呆れている。

■私服警官の姿

これまで筆者がハンターに寄せてきた記事の通り、道警は参議院議員選挙期間中の昨年7月15日、与党系候補の応援演説で札幌を訪れていた安倍晋三総理大臣に「安倍やめろ」などとヤジを飛ばした人ら複数の市民を、演説の場から実力で排除した。排除の事実は多くの写真や動画などで裏づけられているが、本年2月の地元議会で幹部職員らは「適正・適法な職務執行だった」と強弁、市民の体や衣服を掴んで10メートル以上も引きずった行為や、1時間半近くもつきまとって行動の自由を侵害した行為などに、一切違法性がないと主張した。

当時排除された人たちの中には、ヤジなどの声を上げず、プラカードを掲げようとしただけの人もいる。このうち札幌中心部の大通地区で『年金100安心プランどうなった?』などのメッセージを安倍首相に示そうとした女性3人は、複数の警察官に取り囲まれてプラカード掲出を阻止され、政権批判の意志を示す自由を奪われた。

道警は先の議会終了後、地元の記者クラブを対象に会見を開いて質疑に応じたが、この時ひとつの「宿題」を抱えることになったようだ。警察本部の広報担当者によると、会見ではプラカード問題についてクラブ加盟社から「新たな質問」があり、それを受けて改めて事実確認を始めることになったというのだ。

その事実調査が3カ月を経た5月26日までに終了し、地元報道に結果が伝えられた。それによると道警は、プラカード阻止の事実そのものを確認できなかったという。筆者が地元誌『北方ジャーナル』の取材で改めて確認を求めたところ、やはり道警の回答にはプラカード問題への言及が一切なかった。当時の対応に違法性が問われなかったどころか、事実そのものが存在しないことになってしまったわけだ。

調査の方法は、警備・公安の幹部職員による現場警察官への聴き取りと、インターネットなどに残る映像の精査。これにより道警は「総合的に事実確認を行なった」というのだが、肝心の当事者の言い分はまったく顧みられていない。先述の通り、大通地区でプラカード掲出を阻止された人は、少なくとも3人いることがわかっている。それこそ「インターネットの映像」にはその事実が記録されており(下の画像)、複数の地元民放局もたびたびそれを放映してきた。にもかかわらず警察は、当事者への聴き取りを一度も行なわず、打診さえしなかったという。

先の「3人」のうちの1人である札幌市の女性(70)は「私たちが嘘をついていると言いたいのでしょうか」と、呆れ声で異議を唱える。
「年金問題を批判するプラカードが安倍さんの目に入らないよう、警察官が両手を広げて立ち塞がっていました。少なくとも20分間は監視や妨害が続いたと思います。警察官は何度も『車道に出ると危ないから』とか言ってましたが、目の前で旗を配っていた与党支持者らしい人は自由に車道を歩いてました。現場では安倍さんを支持する内容のプラカードが何百枚も掲げられていて、そちらはまったくお咎めなしなのに、私たちのプラカードは狙い撃ちのように実力で阻止される。メッセージの内容で対応を変えるなんて、あきらかに思想・信条への介入です」

女性が思わず「あなたたちは誰を守っているのか」と警察官に問うと(「国民」と答えるべき質問だが)、問われた私服の男は「大臣級以上」と即答。そこで女性が選挙カーの上に立つ鈴木直道・北海道知事を指し「あの方、大臣じゃないですよ」と指摘すると、相手は「上司ですから」と言い放ったという。

今回、筆者が改めて当日の対応の適正性・適法性を尋ねたところ、道警からは次のような回答が届いた。

現場の警察官が、それぞれの状況を踏まえ、適切に判断したものです

自らを正当化した上で、責任は飽くまで「現場の判断」にあるとの含みを持たせた名回答。巧みに組織の責任を回避しているところに、公安警察らしさが滲み出ている。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
北方ジャーナル→こちらから

 

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