2016年の鹿児島県知事選で、反原発派との政策合意を実現させ、三反園訓氏の初当選を演出した元参議院議員秘書のX氏。3年間、彼が知事に言い続けてきたのは「反原発派や世話になった人たちと、真剣に向き合え。姑息なマネをするな」という戒めだった。
だが、権力の座に就いた三反園氏は、X氏を無視して自民党に接近。県政運営でも暴走を始める。
現在も知事の支援団体「みたぞのさとし後援会」の会計責任者を務めるX氏が、三反園県政の4年間を振り返る。
■「県民党」
反原発派との政策合意を「守った」と主張してきた三反園氏。これをX氏は「彼の尺度と、私の尺度が違うということになるのでしょうが、(政策合意を)守ったとは決してならない」と切って捨てた。
現職知事の議会答弁や記者会見での発言を、知事の懐刀といわれる人物が、真っ向から否定した格好だ。この点については、知事本人の釈明を聞かねばならない。
政策合意についての話が一段落したところで、やはり三反園氏が県議会の場で完全否定した問題について聞いた。
――2016年の知事選で、三反園陣営の確認団体として活動していた「県民党」について、お尋ねします。
「県民党ですか……。やっぱり、そうきますよね(笑い)」――三反園さんは、2017年6月に開催された鹿児島県議会定例会で、自民党県議から政治団体「県民党」との関係について質問され、「存じ上げていない。関係もない」と断言し、重ねての問いにも「申し上げた通り」として、まともな回答を避けました。さらに、昨年9月の県議会でも同じ質問を受け、「候補者というものは、必死で走り回っているものであります。どういう形で県民党ができて、県民党が具体的にどのような活動をしているか、まったく存じておりません」と発言しています。この答弁について、どう思いますか?
「虚偽ですね。ウソ。選挙中、毎日一緒に動いたんだから、知らないはずないでしょう。陣営の人間なら、誰だって分かってますよ。“どのような活動をしているか知らなかった”なんて、あり得ない(笑い)。ハンターが、当時の写真を掲載したでしょう。あれがすべてですよ」――(下の実物の写真を示しながら)この写真ですね。
「そうです。それがすべて。存じ上げないとか、関係もないとか、よく言えたもんだ。議会答弁を聞いた時には、ちょっと意味が分からなかった。ウソをつく必要のないことですから。知ってますよ、そう言えばいいのに……」
――虚偽答弁ということですね。
「虚偽でしょう。笑われますよ、子供から。私は、県民党に対する質疑が行われるたび、『そういう姑息なことはダメだと、相当厳しく言ってきた。だから信頼をなくすんだ、と』――それでも暴走する。
「その結果が、いまの不人気でしょう。自業自得ですね」
ちなみに、「県民党」は知事選の告示(6月23日)直前だった2016年6月16日に設立された政治団体。三反園氏を物心両面で支援した会社社長が代表者で、知事選の際は「確認団体」として届け出されていた。「確認団体」とは、選挙期間中に当該選挙区において所定の条件を満たした上で一定の政治活動が許される政党または政治団体のこと。知事選や市長選のほか参院選(所属候補10名以上が要件)や地方自治体の議員選挙(所属候補3名以上が要件)で適用され、立候補届出時に必要な書類を提出すると、街頭宣伝用の車の使用やビラの頒布が許される。三反園陣営の場合は、「県民党」が確認団体だった。
■パワハラ
不人気といえば、鹿児島県政界の多くの人が異口同音に語るのは、三反園氏による県職員などへのパワハラ。いまや職員の9割が、反三反園なのだという。ハンターでもその一端を報じたことがあるのだが(参照記事⇒「暴君の肉声 ― 三反園鹿児島県知事の恫喝に怯える県職員」)、X氏にもその点について聞いた。
――三反園さんは、県の職員に、相当つらく当たると聞いています。パワハラということになりますが、本当にそうなんですか……?
「私は、県職員は大切にしなさい、きつく当たっちゃダメだと、これも口を酸っぱくして言ったんですが…‥。ブラジルで旅行代理店の女性に暴言を吐いたという時も、相当厳しく言った。しかしねぇ……」――彼は、なぜ県職員を痛めつけるようなマネをするんですか?
「聞いたんですよ、私も。何でだって。そしたら『なめられたら、いかんから』。職員になめられるわけにはいかない、そう言うんですね。もう話にならない」――反原発派への酷い仕打ち、県職員をはじめ弱い立場の人への暴力的な対応、人としてどうかという問題になりますが?
「信無くば立たず、ですよ。それに尽きます。とにかく、姑息なことばかりやってると、人は離れていく。前回の選挙で三反園を支えた人が、どれだけ離れていったことか。その当たりのことは、ハンターさんもご存じでしょう」
■断絶
厳しく三反園氏の姿勢を批判するX氏だが、現在もなお、三反園氏の政治団体「みたぞのさとし後援会」の会計責任者である。なぜ、ハンターのインタビューに答える気になったのか、どうしても聞いておかなければならない。
――今更ですが、ハンターのインタビューを受けるということは、相当な覚悟を持たれたということだと思っています。ズバリ聞きますが、三反園さんとの、いまのご関係は?
「特に申し上げるつもりはありません。ただ、何度も言ったと思いますが、人間は、特に政治家は、姑息なことをやってはいけない。毅然として人にも、事にも対することが大事なんです。私は一貫してそう話してきたが、三反園はそこが分からなかった。それだけのことです」――三反園さんは姑息だ、と?
「ご覧になってて、どうですか?(笑い)」――質問を変えます。いま現在、三反園さんの後援会事務所などには出入りされていないと聞いています。本当ですか?
「私は、昨年の参議院選挙で、霧島市長だった前田(終止)さんの選挙をやった。自民党と敵対した形でしたから、自分の方から今回は身を引いておこうということです」――それは、建前ではないんですか?
「いや、本当に。まあ、そういうことにしときましょう」――三反園後援会の事務所が鹿児島市内の真砂にありますが、そこの鍵が変えられたという話を聞きましたが?
「そうなんですか。私は、行かないので、分かりませんが」――本当に関係を断たれているんですね。
「ただ、私はいまも後援会の会計責任者ですから、引継ぎはしなきゃならんのです」――三反園さんの政治資金の一切合切は、あなたが面倒をみてきたのではないですか?
「まあ、そういうこともあったな、と。その点についていえば、皆さん、かなり誤解されている部分があると思いますよ」――例えば?
「例えば、うん、一昨年7月に三反園が政治資金パーティーをやったでしょう。じつは、その時は私はまったくタッチしていなかった」――え?本当ですか?
「はい。まったく。私は、鹿児島に来ると真砂町の後援会事務所にいることが多かったんですが、ある時、三反園が政治資金パーティーを行うということを、三反園本人からではなく、別の方から聞いたんです。それで、どうなってんだ、と聞くと、『真砂に分からないようにやろう』と、三反園本人が言ってたというわけです。驚きましたが、なにより『情けない』という思いでしたね。悲しかった。信用できない人だと、思い知らされました」――にわかには信じられない話ですが……。
「本当のことです。三反園は、集めたカネを自由に使おうと思っていたんでしょうね。しかし、政治資金規正法に従って、きちんとやらなければならない。主催するのは政治団体である三訓会ですから、私たちに内緒でやれるわけがないのに、『真砂には分からないように』――。呆れてものが言えなかった」――結局、バレた?
「そりゃそうですよ。悪いことはできない(笑い)」――悪いことといえば、先ごろ、自民党の鹿児島県連が、所属県議を集めて30万円ずつ配るという“事件”がありました。その原資について、何かご存じではありませんか?5月の頭頃に、県連が三反園事務所の方にカネを入れるよう、指示をしたという話があるんですが。
「三訓会の方に、そうした話があったとは聞いています。ただ、私は三訓会の会計責任者ではないので、確実かどうかはわかりませんが」
■知事の資格
X氏へのインタビューは、東京で1回、鹿児島で2回の計3回、6時間を超えるものとなった。
ハンターは、三反園氏を巡る政治とカネの問題から総合体育館、馬毛島、川内原発など県政の重要課題に至るまで、抱いてきた疑問のすべてをX氏にぶつけ、X氏は嫌な顔一つせず真摯に答えた。保管している資料を惜しげもなく見せてくれるという対応には、記者の方が恐縮したほどだ。
本稿で紹介したのは、長時間に及んだやり取りの、ほんの一端。いずれかのタイミングで、第3回の記事を配信する予定である。
インタビューの間、ほとんど目をそらさずに語り続けたX氏――。三反園県政の陰の部分をすべて背負わされながら、最後に裏切られた彼の心に去来するものは、「虚しさ」なのかもしれない。
締めくくりで、どうしても聞かねばならない質問をぶつけた。
――三反園さんではダメだ、ということですね?
「大方(おおかた)の人が思っている通りです」
知事への惜別を意味するX氏の笑顔が、目に焼き付いた。