スクールバス運行業務の業者選定を巡り、鹿児島県薩摩川内市の教育委員会が、特定のバス会社に便宜を図る目的で、議会承認が得られるまでの一定期間「入札結果」を隠蔽している可能性が出てきた。
ハンターが新たに求めた情報公開請求により、市が実施している他の事業の入札結果が、議会承認の有無に関係なくオープンになっていることが判明。スクールバス運行業務の入札結果のうち、落札できなかったバス会社の応札額を「議会承認が終わるまで非開示」としてきた市教委の主張が、崩れた格好となった。
入札結果の非開示という行為自体が、特定業者に対する事実上の便宜供与だった疑いがある。
■これまでの経緯
事の発端は、2018年に薩摩川内市内部からハンターに寄せられた告発だった。薩摩川内市の教育委員会は、市内の児童・生徒が小中学校に通うため利用するスクールバス運行業務を6コースに分け、年度ごとの入札を経て民間のバス会社に委託してきたが、告発文には、この業務委託を巡る問題点や背景、前年に起きたスクールバスの「事故」の実態などが細かく記されていた。
同年9月、スクールバス運行事業の全体像を確認するため過去5年度分の業者選定の経緯が分かる文書を情報公開請求したところ、市教委は開示すべき文書を小出しにして何度も請求書の提出を要求するなど隠蔽姿勢を露呈。ようやく揃った関連文書のうち、他の自治体なら当然オープンになるはずの入札結果表の数字が、一部黒塗り非開示になっていた。
黒塗りになっていたのは、落札できなかった業者の入札価格と入札予定価格、入札書比較価格など。落札業者の入札金額だけを明らかにしているだけで、適切な入札だったかどうかが検証できない状態となっていた。
その後、特定のバス会社との密接な関係が指摘されていた市長が退任。昨年10月の市長選で「市役所改革」を公約に掲げた元県議が初当選したことから、改めて直近3年間の「入札結果表」を開示請求するなど取材を重ねた。
新しい市政に期待したものの、結果は既報の通り。2~3年前の入札結果の金額だけはすべて開示するようになったが、直近の入札結果については従来通りで、落札できなかった業者の入札価格が開示されていない(下は、6コースの内の二つのコースの入札結果表。画像クリックで拡大)。
■隠されたのはスクールバスの入札結果だけ
今回、一部非開示の理由を追及したハンターに市教委が示したのは、同市が策定した「内規」の存在。2004年に国が公共事業の適正化を図るために出した告示を受けての規程のことで、その中に「入札の結果の公表は、全ての建設工事等について行うもの」と定められていた。つまり、建設工事関連の入札結果は公表・開示するが、その他の事業の入札結果は、「市議会の決算で承認されるまで非開示」(市教委側の主張)だというのだ。
しかし、比較検討するための数字が隠された入札結果を基に、まともな決算承認ができるわけがない。ならばと、建設関連とスクールバスを除く他の事業の入札結果も、同じように事実上の非開示扱いになっているのかどうかについて確認してみた。開示請求したのは、「薩摩川内市が令和元年度、令和2年度に発注した業務委託契約のうち、契約額が1,000万円を超える案件の入札結果が分かる文書」である。
その結果が下。6件ある事業の入札結果は、予定価格や入札書比較価格などが黒塗りになっているだけで、応札金額はすべてオープンになっている。市教委は、「決算前」という理由で「令和2年度」のスクールバス運行業務委託の入札結果を非開示にしているが、同年度の市庁舎清掃と警備の業務委託に関する入札結果表では、応札額すべてが開示されていた(画像クリックで拡大)。
一体これはどういうことか――?決算承認前の入札結果は、落札業者の応札額だけを開示し、その他の業者の応札額は非開示にしているのではなかったのか――?ハンターの記者が、薩摩川内市の情報公開を所管している文書法制室に“情報開示の基本方針”について確認を求めたが、「所管した部署ごとに、開示するか非開示にするかを判断している」と無責任な回答。市としての方針が定まっていなければ各課が情報公開制度を恣意的に運用し、説明責任も果たせなくなるとして抗議したが、「市教委に聞いてもらいたい」「ご指摘については検討する」「行政に反映させていく」などと、その場限りの言い逃れに終始する事態となった。
“誰が、どうやって検討するのか”、“何を、どう反映させるのか”と畳み込んだが、担当者はダンマリ。前出の市庁舎清掃と警備業務の発注部署である財産活用課が、「情報公開条例の規定に従って、開示すべきものは全てお出ししています」と歯切れよく説明したのとは対照的だった。
スクールバスの運行業務を発注している薩摩川内市の教育委員会は、他の部署がオープンにしている入札情報のうち、落札できなかったバス事業者の応札額を決算議会が終わるまで意図的に隠し、比較検討ができないように仕向けてきた疑いがある。
目的として考えられるのは、特定のバス会社によってダンピング応札が繰り返される実態を隠し、議会や報道機関からその業者や市教委が責められることにないようにするため。市教委だけが不自然な数字隠しを行うという、ある意味での便宜供与が明らかになったため、一層その疑いが濃くなった。背景にあるのは、特定のバス会社と市政の癒着だとみられている。
市の関係者からは、次のような厳しい批判の声が上がっている。
「2年程前から、スクールバスの運行業務は事実上の一社独占となっている。6コースのうち、5コースが同じバス会社だ。入札で、よそのバス会社の半値とか3分の一とかで落札を繰り返しているのは、ただ仕事が欲しいというだけのことではないだろう。他のバス会社から仕事を奪い、潰しにかけているととられてもおかしくない格好になっている。そのバス会社は、スクールバスの運行業務中に起こした事故について虚偽を報告し、事が露見したあとも、さらに虚偽の報告を重ねて市民を欺いた。しかし、市議会の動きは鈍く、入札結果が隠蔽されてきたことさえ問題にしてこなかった。構造的な腐敗だ。すべては前の市長の責任だが、市の職員上がりのいまの市長も、事を荒立てることはしない。ダンピング応札で仕事の質が落ち、スクールバスが事故でも起こしたら誰が責任をとるのか。この問題をうやむやにしては絶対にいけない」
スクールバス運行業務の入札結果については、ハンターの取材で、入札当日に市教委が応札した全てのバス会社の入札額を読み上げる形で「公表」していたことが分かっており、非開示理由が失われた形になっている。