「20年ぶり」「震災後初」― 石川県かほく市長選の行方

「20年も選挙やってないんだから、どう判断すべきか、どう投票するのか、どこへ投票するのか、まったくわからないですよ」というのは、石川県かほく市の有権者。今年1月1日、石川県を襲った能登半島地震では家屋の倒壊、道路の陥没、地盤の液状化など大きな被害に見舞われた。

同市は、金沢市から北西へ約20kmのところにあり、その先さらに約40kmには志賀原発(志賀町)が立地。常に、原発事故と隣り合わせだ。しかし、市長選は20年間無投票。石川県議選でも「かほく市選挙区」になった2007年から2023年までずっと無投票が続いてきた。それが一転しての選挙戦。現地を取材してみると・・・。

◆   ◆   ◆

地元の有権者がこう話す。
「全国でよくあるのは、県議が首長に転身するパターンです。しかし、かほく市選出の県議は市政に口出ししない。お互いの領域に首を突っ込まないというのが不文律。そういう土地柄なので、選挙や争いごとへのアレルギーがあるのです」

今回も、6期目を目指す現職の油野和一郎市長(74)が無投票当選とみられていたが、そこへ立候補したのが元市議の塚本佐和子氏(54)である。

かほく市では、2004年から4回、20年に渡って無投票が続き、いずれも油野氏が当選してきた。一方、塚本氏は2017年に同市初の女性市議となって注目された人物だ。

それまで全国の市で、女性の市議がいなかったのは同市と鹿児島県垂水市。「どちらが先にと言われた時に、私が出て、うちのほうが早く女性市議が誕生した。その後、2019年に垂水市でも女性の方が市議になられました。かほく市では20年間も市長選挙がありません。選択肢がないと政治に緊張感が生まれません。ひいては、モノが言えない政治になっていき、現在がまさにそうです。かほく市を動かすには、自分が立ち上がるべきと立候補を決意しました」――塚本氏はそう話す。

打ち出した政策は、「給食費無償化」「災害対策、断水のない町」という二つが柱。かほく市では能登半島地震で断水に見舞われたが、過去のニュースを見ると昨年1月にも記録的な寒波で断水となるなど、もともと水道インフラが脆弱だった。

「市長選の無投票が続いて権力が集中するあまり、断水という致命的なインフラの崩壊に不満を感じていても、声をあげられないという状況になっていたのではないでしょうか。能登半島地震を受けて、より被害が深刻な地域にかほく市から給水車が出動しました。その時、現市長は『来てやったんだ』といわんばかりの対応で、不快な思いをした方もいたとうかがっています。東京や大阪など大都市では信じがたいかもしれませんが、かほく市では、まず水道をしっかりやらなければなりません。そして、給食費完全無償化。これも大都市では当たり前になりつつありますが、それを実現させたいと立ち上がりました」(塚本氏)

受けて立つ油野氏陣営だが、街頭演説も少なく、ネット上に公式ホームページもSNSのアカウントも見当たらない。2023年12 月5日の北國新聞の報道に、本人のコメントとして《「若い世代に選んでもらえる町づくり、何よりも住んでいる皆さんが“本当にかほく良くなった”と言ってもらえる町をつくりたい。そういう思いで立候補しようと決意した」》とあるだけで、具体的な政策は見えてこない。

油野氏の主張についてネット検索などで探してみると、ようやく地元のFM局に出演した時の「よく長いと言われますが1期ごとに一生懸命、やってきた」という発言が。近年は、移住者向けの助成金や住宅新築の購入に最大で200万円を支援する制度を創設した他、子育て対策にも力を注ぎ、金沢市のベッドタウンとして人口増加が続いている実績を強調していた。

一騎打ちの構図となった20年ぶりの市長選。地元の有権者は次のように話す。
「この20年ほどで一番の大きなニュースが、今度のかほく市長選ではないのかな。無投票が当たり前という環境に慣らされていて、“市長選というのがあったんだな”という感じ」

かほく市役所には、地震の影響で段差が残り、立ち入りできない場所もある。地震で全壊した家屋は8棟、2,000戸近くの住宅が被害を受け、その影響で自主避難をしている被災者も少なくないという。油野氏は3月5日、「津波警報発令などにより、21か所の避難所に1,099人の方が避難されました」と市のホームページから被害状況を発信している。

「地震で大変な時に選挙をすればお金がかかるという声もある。しかし、こういう時だからこそ選挙で選択肢を示し、住民の意思を問うことが大事ではないか」と塚本氏。最後まで選挙権行使の大切さを訴える構えだ。

ちなみに、かほく市議会の構成は半数以上を自民党系が占め、現職・油野氏の支持基盤となっている。能登半島地震の被災地の中心は衆院石川3区で、保守が強い地域。だが、永田町では、派閥裏金、自民党和歌山県連や広瀬めぐみ参議院議員の不倫スキャンダルなど、難問山積で岸田政権と自民党の支持率は低下するばかりだ。

震災後、初めてとなる被災地での選挙戦に、かほく市の有権者はどう判断を下すのだろうか……。

 

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