福岡市が計画を進める市民会館建て替えを含む須崎公園一帯の再開発事業に、重大な疑惑が浮上した。
総事業費200億円を超える市の一大プロジェクトで囁かれているのは、市と特定の企業グループによる“癒着”の疑い。業者選定の過程で、事業全体に多大な影響を及ぼす整備方針の一部が特定企業グループの都合に合わせて変更され、入札参加者の絞り込みにつながる形となっていた。
結果は「一者応札」。入札から半年以上経ったいまも、業界関係者から「おかしい」「不公平」との声が上がると事態となっている。
■疑惑の舞台は整備費200億円超の大型公共事業
問題の事業は、建設工事からその後の施設運営までを一括して委託する「福岡市拠点文化施設整備及び須崎公園再整備事業」。昨年9月に入札が実施され、今年1月に落札者が公表されているが、業者選定過程に対する疑問の声が絶えない。
事業の中核施設となる福岡市民会館(下の写真、左)は、1963年(昭和38年)に開館した市の文化拠点施設。昭和の時代から国内外の有名アーティストが公演に利用するなど、文化の中心となってきた。1,770席の大ホール、354席の小ホールの他、会議にも使用できる4つの練習場を有している。一方、天神地区の一角を占める須崎公園は、市民の憩いの場として愛されてきた場所だ。
市民会館も須崎公園内の音楽堂(下の写真、右)も老朽化が進んだため、市は会館の建て替えに合わせ、須崎公園一帯を新たな文化・憩いの拠点にすることを計画。2012年に「福岡市拠点文化施設基本構想」を策定し、2016年に「福岡市拠点文化施設基本計画」を公表していた。
2018年(平成30年)12月には事業の実施方針と要求水準書(案)を公表。昨年4月に入札公告を行い、今年1月28日に落札業者を決め、発表している。(*下の文書は市のHPより)
事業は整備される施設の設計や建設だけでなく、維持管理や運営まで含む「PFI方式」を採用。入札価格だけでなく、応札者の設計提案、事業計画の妥当性などを総合的に評価する「総合評価方式」で事業者を決定している。
新たに建設される拠点文化施設には、大ホール(約2,000席)、中ホール(約800席)、文化活動・交流ホール(約150席)、リハーサル室・練習室、エントランスホールなどを配置する予定となっている。
表面上の経過を見る限り何の問題もなさそうにみえるのだが、疑惑を招いたのは建物ではなく「駐車場」の整備方針。環境との融和を考慮して「地下」に駐車場を整備する方針を頑なに守っていた市が、1業者の要請であっさり「地上」での整備へと方向転換したことが分かっている。
この過程で、入札に参加予定だった複数の業者が、唐突な方針転換について行けず入札参加を辞退。その結果、入札では不適切とされる「一者応札」となっていた。おかしいと思うのが普通だろう。
■目玉事業に辞退相次ぐ
大型公共事業では、入札情報が公表されて以降、複数回にわたって応札予定者と発注者である自治体側が、質疑応答を繰り返すことになる。
公開が前提の質疑応答の内容は、市が事業者に求める条件や品質を記載した「要求水準書」の中身についてだ。本事業においても、市の公表した質疑応答集から、多くの事業者が入札に興味を示していたことが分かる。
しかし応札状況をみると、2019年6月に入札参加を表明したのは3事業体(グループ)。その後、辞退者が出て、2019年9月の入札日に応札したのはわずか1グループのみ。そのまま事業者選定は進み、競争相手不在のなか、同グループが落札者となっていた。
落札したのは、前掲の文書の通り代表企業を「日本管財株式会社九州本部」とするグループで、落札価格は約208億7,100万円(税抜)だった。
蓋を開けてみれば、大型公共事業では珍しい「一者応札」。技術や採算面で難度の高い仕事だったのだろうと思われたが、業界から聞こえてきたのはそういう事情ではなかった。
ある業界関係者によると、「某グループは、数年も前からこの案件を取るべく動いていたが、やむなく辞退した」という。それだけ前準備をしておいて、辞退の道を選んだ理由は何だったのか。
取材で浮上したのは、業界関係者が今回の入札のポイントとして挙げた駐車場の位置取りだった。最終的に、地下から地上へと変化した駐車場の整備手法を巡る市と業者側とのやり取りに、疑惑の疑いを持った業界関係者は少なくなかったはずだ。
次稿では、業者選定過程を検証するにあたって、「要求水準書」における駐車場に関する記述がどう変わったかについて確認してみたい。
(つづく)