福岡市の中心部に位置する須崎公園と市民会館を一体整備する「福岡市拠点文化施設整備及び須崎公園再整備事業」の事業者選定において、「地下駐車場」以外の整備手法を認めようとしなかった市が、入札間近のタイミングで唐突に方針転換。「地上」も可とする仕様に変更したことで落札を目指していた業者が次々に撤退し、「地上案」を提示した業者が“一者応札”するという不自然な経過をたどっていた。
参照記事⇒《福岡市大型開発事業に重大疑惑|須崎・市民会館整備で特定業者有利の入札》
《書き変えられた「要求水準書」|須崎・市民会館整備事業で重大疑惑》
《特定業者の提案丸呑み|須崎・市民会館整備事業で疑惑の「一者応札」》
■「地下駐車場」にかけられた膨大な時間と予算
「地下駐車場」は、それほど簡単に変更可能な計画だったのか――?疑問を抱いた記者が追加で市に情報公開請求を行ったところ、書き変えられるまでの「要求水準書」が、12年もの歳月と何件もの業務委託によって得られたデータや検討結果によって練り上げられたものだったことが判明。市から特定業者への便宜供与が疑われる状況となった。
要求水準書とは、一般的な委託業務や請負業務における仕様書に相当するもので、入札の応募者が事業計画を提案する際に参照し、応募意志の決定、事業計画の立案、事業リスクの評価などを踏まえて入札価格を決定するために必要となる全ての事項を含む文書である。
これまでの調べで、一貫して「地下を中心に」と記されていた水準書の駐車場整備手法が、入札を目前に控えた2019年7月時点で「地下などに」に変わっていたことが分かっている。「福岡市拠点文化施設整備及び須崎公園再整備事業」は、総事業費200億円を超える福岡市の一大プロジェクト。何年もかかって積み上げられたその要求水準書が、特定業者の要請を受けてあっさり変更されていたことになる。
唐突な駐車場整備手法の変更を知った別の事業者が、提案書の提出時期を先に延ばすよう要望したのに対し、市は一顧だにせず拒否していた(下の文書参照)。
■計画スタートから12年、業務委託13件で約1億3千万円
福岡市は、2008年に文化芸術振興に取り組む基本的な方向性を示した『福岡市文化芸術振興ビジョン』を策定。老朽化が進む市民会館については、2012年3月に「福岡市拠点文化施設基本構想」をまとめ、須崎公園での再整備を進めるとする方向性を定めていた。
具体的な整備手法について検討を開始するため、2015年に民間のコンサル業者に「福岡市拠点文化施設整備事業手法等検討業務」を委託。以後、今年4月までに関連の業務委託を12件発注していた。委託料の合計は約1億3,000万円に上る(下の表参照)。
すべてが駐車場整備に関係する業務委託ではないが、計13件の業務委託や市内部での議論を積み重ねた結果が「地下駐車場」だったことは明らか。しかも、事業計画のスタートから12年もかけている。たった1回の特定業者の要望で、簡単に仕様が変わるのは、何か別の力が働いたとみるのが普通だろう。
では、時間とカネをかけて作成された要求水準書は、どのように改悪されたのか――?ハンターは、改めて市に対し「要求水準書の記述を『地下中心』から『地下など』に変えた際の決裁文書」を情報公開請求したが、開示された文書の内容に驚かされることになる。
(つづく)