自民党の5つの派閥が開催した政治資金パーティーで、収入の一部を計上せず過少記載していることが政治資金規正法違反にあたるとして神戸市の大学教授が刑事告発した事件で、東京地検特捜部が派閥の事務担当者などから事情聴取を進めていることがわかった。支持率低迷に苦しむ岸田文雄政権を、大きく揺るがす事態となりそうだ。
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告発対象となった派閥と記載漏れ金額は以下のとおりだ。
・清和政策研究会(安倍派・約1900万円)
・平成研究会(茂木派・約600万円)
・志公会(麻生派・約400万円)
・宏池会(岸田派・約200万円)
・志帥会(二階派・約950万円)
合計すると約4,000万円分が未記載だったことになる。このうち、麻生派の未記載分406万円分などについては、すでに政治資金収支報告書の訂正がなされている。
告発状によると、例えば安倍派の場合、2020年9月に開催した政治資金パーティーで1億262万円の収入があったことが政治資金収支報告書でわかる。しかし、政治団体「世界システム研究所」から66万円のパーティー券代を受領していながら、その記載はない。
岸田派は2020年10月の政治資金パーティーで、「TKC全国政経研究会」からの22万円、「全国旅館政治連盟」からの26万円、「日本酪農政治連盟」からの32万円の支払いを受けているはずだが、派閥の政治資金収支報告書にはまったく書かれていない。
刑事告発した神戸学院大学の上脇博之教授は、「個人や団体の政治資金収支報告書には、パーティー券を購入と記載があるのに、派閥側の報告書には何も記載がないという例がかなりあり、確認できる範囲で刑事告発をしました。派閥を仕切る政治家というのは日本の中枢を担う立場にあり、政治資金の収支を正確に行うことは当然だと考えます」としている。
「派閥の政治資金収支報告書については、これまで一度も事件になったことがない。いわば“聖域”だと思っていた。そこに特捜部が目を付けられと知り、ヤバイと思った」と話すのは安倍派に所属する有力者の秘書、Z氏だ。
コロナ前、どの派閥も年に1度はパーティーを盛大に開催し、勢力を誇示してきた。派閥のパーティーの特徴は、所属議員にパーティー券の枚数が割り当てられること。Z氏によれば、どの派閥も1枚2万円のパーティー券を幹部は200枚から300枚、新人議員だと50枚といった具合に、ノルマを課して売りさばくのが普通だという。
「党で上にあがっていくには、まず派閥で力を認められないといけない。その中では、しっかりパーティー券のノルマをクリアして、『頑張っているな』『あいつはいい支援者を掴んでいる』と評価してもらう必要があるので必死になる。ただ、自分のパーティーもあるので、支援者には年に2度も3度も買ってもらうことになる。なかなかつらい」(安倍派の国会議員)
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一方で、自民党のある大臣経験者は声を潜めてこう話す。
「ある程度キャリアを積むと、自分のものだろうと派閥のものだろうとパーティー券が買ってもらえるようになる。大臣を一度でもやれば、業界側が“政治家個人と派閥で年2回”と予算を計上しているので、枚数の増減が多少あろうが計算できる。そこから自分の力を伸ばそうとすれば派閥のパーティー券をノルマ以上に売るしかない。そして、困っている若い議員に自分の分を割り当ててノルマをクリアさせるようなことまでやって仲間を増やしていく。ただ、今回は上脇教授が把握できる限りで、5派閥計4,000万円が未記載だという。実際は、その何倍もの不記載のカネがあると思う」
派閥で事務を手掛けたこともあるZ氏は、「官邸には官房機密費、政党には政策活動費という政治家の領収書1枚で使途報告がいらない裏金があるのは公知のこと。派閥も同様なのです。派閥の政治資金パーティーが裏金作りではとても重要なのです」とした上で、驚きの手口を明かした。
「今は派閥でも議員でも、政治資金パーティーでは銀行振込が大半です。しかし、話がわかる人、会社もけっこうあります。ある上場企業のA社はいつも私がいた派閥のパーティー券を100枚以上買ってくれますが、政治資金収支報告書にはまったく名前が出ません。もう20年以上になりますが、振り分け先の関連会社や子会社10社以上を事前に伝えてくれて、政治資金収支報告書に記載が必要な20万円以上にならないように協力してくれます。担当者は『現金はどれくらい』ともパーティーのたびに聞いてきてくれます。現金分を記載せずに抜いて裏金にする手口が一般的なんです。ある派閥ではパーティー券の売り上げ全体の2~3割が裏金になっていると聞きます」
前出の大臣経験者の解説はも生々しい。
「派閥のトップになれば、年末には餠代、夏には氷代とまとまったカネが必要になるが、それは政治資金収支報告書の記載分でやりくりしている。しかし、国会が開会されていない時は、外遊に出る議員がたくさんいる。誰もが『海外に行きます』とまず党本部に行くと、必ず“小遣い”が幹事長やその周辺から出る。行く場所や事情によるが、少なくても10万円、多いケースなら何百万円ということもある。次に派閥の会長に挨拶に行く。党本部でもらっていて派閥ではゼロというのは永田町ではありえない。裏金はそういうところに消えていく。加えて、総裁選もあれば衆参の選挙もある。そうした費用も派閥が支援する。裏金は、いくらあっても足りないというのが正直なところ。だから派閥の会計担当者は、領袖が全幅の信頼を置ける人物でなければ任せない」
闇ガネにメスを入れようとしている特捜部だが、現在のままだと政治資金収支報告書に記載がなかったという不記載や虚偽記載の「形式犯」。「裏金」に突っ込むことができるのか否かが最大の焦点となる。
「特捜部が裏金まで捜査すると、岸田首相は解散総選挙どころか進退にも及ぶ。だが、岸田首相は鈍感でそのヤバさを理解していない」(岸田派の国会議員)