山口4区補選の結果が示す安倍派の落日|安倍後継、遠かった目標の8万票

4月23日に行われた衆議院の補欠選挙で、最も注視された山口4区。安倍晋三元首相の「跡継」となり昭恵夫人の手厚い支援を受けた自民党の吉田真次氏が、立憲民主党の有田芳生氏らを破って当選した。地元関係者の間では「ホッとした」という声が上がる一方、「安倍元首相の跡継ぎとしては、どうなの」と懸念を示す人がいるなど、複雑な情勢となっている。

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投開票日の夜8時、テレビ画面に早々と吉田氏の当確を伝えるテロップが流れた。この時点での得票は、吉田氏の51,961票に対して有田氏が25,595票。ダブルスコアに近い圧勝で喜びに沸くもの思いきや「安倍元首相はコンスタントに10万票とっていた。その半分じゃね……」と安倍元首相の後援者。厳しい表情で、こう続ける。「補欠選挙は安倍元首相の弔い合戦ではあるが、本当の勝負は解散総選挙。この票じゃあダメだ」

岸田文雄首相の自民党総裁としての任期があと1年半ほどになった。解散総選挙が、どのタイミングで行われても不思議ではない状況だ。1票の格差是正で「10増10減」の対象となる山口県は、小選挙区が4から3に減ることが決まっており、山口4区は山口3区と合併するような「新3区」に生まれ変わる。

現在の山口3区は、林芳正外相のおひざ元。吉田氏は当選と同時に林氏という重鎮を相手に新3区の公認争いという新しい戦いに挑まねばならない。

吉田氏を先導するように走り回った補欠選挙で昭恵夫人は、「圧倒的勝利で送りだして」、「8万票とれば、林さんは(新3区に)入ってくることができない」と声を枯らせて訴えた。同氏の演説会は、どこも安倍元首相の後援者で満杯。「解散総選挙を見据え、吉田氏を圧勝させ新山口3区をとるため」(安倍派の国会議員)――応援団も安倍派一色で、旧統一教会の韓鶴子総裁に花束を贈呈するなど「壺議員」と揶揄され、山口4区では「最悪のイメージ」とも陰口をたたかれている江島潔参院議員も、なりふり構わず吉田氏と行動をともにしていた。

次を睨んでの動きは、林氏の陣営も同様だった。山口4区の中心都市である下関市の市議会では長年、自民党会派が安倍派と林派に割れたまま。林氏の支援者が言う。「吉田氏が安倍元首相のように8万票以上とってしまうと、新3区に名乗りをあげてくるのは間違いない。そうならないように消極的な支援でしたね。つまり寝ていたということです」

また、吉田氏の5万1千票に1万票ほどの公明党票が含まれていることにも注目しなければならない。つまり、吉田氏が実質的にとれたのは4万票ほどの計算になるのだ。林氏についている地方議員が、次のように力説する。
「4万票なら、有田さんとの差は1万5千票しかありません。もし吉田さんが新3区に出ると言い張っても、今回以上に厳しい選挙になるのは必定。それに、林先生の家業のバス会社などは下関市が本拠地。総裁選にも出馬した先生の父(林義郎元蔵相)もその地盤で選挙を戦っていた過去がある。吉田さんは下関市議で、下関市以外とは関係が薄い。おまけに、安倍元総理の後援会は解散を宣言している。一方、林先生は現在の山口3区でも野党候補を秒殺するほどの選挙の強さ。そこに下関市などが加わればより得票が伸びる。そう考えると吉田氏が割って入ることなどできない」

同時に補欠選挙が行われた山口2区には顔を見せた林氏だが、山口4区には最後まで姿を見せなかった。新3区の「国盗り合戦」を視野に入れていたからに他ならない。

吉田氏に敗れた有田氏はツイッターに、《自民党候補は「圧勝」「8万票」が目標でしたが、結果は5万票。次期選挙には林芳正外相が新3区に入ってきます》と投稿した。岸田派のある国会議員も、先をこう読む。
「自民党の公認争いは林さんで決まりでしょう。林さんは岸田派でもあり、吉田氏や安倍派がいくら騒いでも最後は岸田首相の鶴の一声で決まります。事実、和歌山1区は安倍派の世耕(弘成)参院幹事長が自分の意中の候補を押し込んで負けたじゃないですか。林さんは岸田派の総裁候補でもあります。怖いのは、吉田よりも有田さん。今回で実績を積んだ有田さんが新3区に出馬するでしょうから、その選挙で(有田氏が)比例復活できないほど大量得票で完勝できるのかどうかです」

自民党は「10増10減」によって数が減る大半の県の選挙区支部で支部長を決定しているが、保留となっているのは大御所が顔を並べる山口県と和歌山県など。これまで安倍元首相の威光で政界を席巻してきた安倍派だが、山口の選挙結果から、大きな陰りが見えているのは確かだ。

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