いじめ防止対策推進法が規定する「いじめの重大事態」を隠蔽していた鹿児島市立伊敷中学校が、突然の暴力によって男子生徒が複数個所の骨折を負うという事案の市教委への報告を、1か月半も怠っていたことが分かった。
伊敷中が市教委に「事故報告」を提出したのは、事案発生から47日後。けがを負った生徒の保護者が、地元警察に事件を届け出た翌日だった。ただし、提出された事故報告はデタラメに近いもので、初回分から2カ月以上経って大幅に書き変えられた報告書が再提出されていた。校内処理で済ませようとして事案を軽く扱ったため、正確な記録が残されていなかった可能性が高い。
伊敷中による意図的とみられる事案隠しは、これで2度目。鹿児島大学教育学部の代用附属に指定されている同校の、教員養成機関としての資格が問われる事態だ。
■書き変えられた「事故報告」
通常、学校側がいじめや事件・事故を教育委員会に報告するのは、事案発生直後か遅くとも1週間以内。まず電話などで事案発生を知らせ、そのあと所定の様式で詳しい「事故報告」を行う。しかし、伊敷中は、肝心の初動でとんでもない対応を行っていた。
下は、生徒の保護者が鹿児島市教育委員会から入手した「児童生徒事故報告」。事故発生日は「令和4年9月2日」だが、報告書の提出は同年「10月19日」となっている。事案発生から47日も後だ。
これだけでも問題だが、より悪質だと思われるのは、当該事案が「警察沙汰」になったことを受け、同校が慌てて報告書を提出したことだ。
「無言で、しかも後ろから突然押して突き落とした。加害者は、学校の記録にあるような『友人』でもないのに……」。学校側の対応に不信感を抱いた被害生徒の保護者は10月18日、鹿児島県警に被害にあったことを相談。保護者からの連絡を受けた伊敷中は、19日に報告書を作成して市教委に提出していた。よほど慌てたものとみえ、報告の内容はデタラメに近いものだった。その証拠が、報告書提出から2カ月以上経ってから“再提出”された下の報告書である。
事案発生の時刻は、当初報告より40分も後。事案の発生状況や事後処理についても、次のような違いがある。
事案発生直後にきちんとした記録を残していなかったのは確かで、事案発生時刻、発生状況、その後の対応のすべてが書き変えられていた。骨折して歩けない被害生徒が、「保健室に来室し」などという1回目の報告は、どうすれば出てくるのか――。
■対応の甘さに厳しい指摘
対応の甘さは、別の文書からもみてとれる。いつ作成されたものなのか判然としないが、事案発生当日の保健室の来室記録(*下の文書)には、『《けが》捻挫(運動場)』とある。その後に続く記述は、実態とかなり違うものだ。
「病院へ、足、昼休み友人と遊んでいたところ国旗掲揚台のあたりから落ち、左足を負傷した」――押されて落ちたことや、一人で歩けない状態にあったことなどは、どこにも記されていない。「甲の部分に腫れが見られていたので」保護者に連絡し病院受診をお願いしたとあるが、高所から落ちたことを知りながら積極的に救急車を呼ばなかったことは明らかな不作為だろう。
この点について、鹿児島県内の公立校で教壇に立つベテラン教師は、首をひねりながらこう話す。
「1メートルもあるところから転落したのであれば、頭を打った可能性もあることから、すぐ救急車を呼んで、脳波などの検査までお願いするのが普通です。私ならすぐ119番します。伊敷中の教員や保健室の先生は落下の瞬間をみていなかったわけですから、まず第一に頭を打った可能性を疑ってみるべきでした。けがをした生徒が動けないほどのダメージを受けていたのなら、本人が『大丈夫』と言っても、やはり救急車ですよ。伊敷中の対応は理解できない」
■伊敷中に問われる教員養成機関としての資格
伊敷中の一連の対応からは、事案を「軽いけがを負った小さな事故」あるいは「なかったこと」にしようとした、隠蔽姿勢が透けて見える。同校には、そうした「体質」があるからだ。
同校では、令和元年(2019年)に2年生のクラスで複数のクラスメートによる“いじめ”が発生。被害生徒が転校を余儀なくされるという、いじめ防止対策推進法が規定する「重大事態」であったにもかかわらず、同校や当時の市教委幹部が共謀して「いじめは解消」として処理。真相を闇に葬っていたことが分かっている。
伊敷中と市教委幹部による重大事態の隠蔽については、市教委への情報公開請求などから事実関係を確認したハンターが、2021年5月に概要を報道(参照⇒鹿児島市立伊敷中の「いじめ」重大事案、学校と市教委が共謀し隠蔽)。その後、他の市立校での重大事態隠蔽が次々と明らかになり、現在も市教委が対応に追われる事態となっている。
背景にあるとみられているのは、重大ないじめや事故を、校内で処理して済ませようとする校長・教頭をはじめとする教員たちの保身に走る体質。鹿児島県の教育界は教員同士が庇い合う体質が濃厚で、事件がうやむやにされるケースが少なくない。歪んだ教育者たちが寄り添う対象は、「子供たち」ではなく「教員」。教員養成機関である伊敷中が懲りずに隠蔽を繰り返す現状は、同県教育界の現状を映し出しているといえるだろう。
複数個所の骨折に至った突き落とし事案への不適切な対応について伊敷中側の説明は、「スポーツ振興センターへの保険申請書提出時に(報告を)挙げればいいと考えていた」というもの。しかし、校長や教頭は研修などを通じて事故報告の重要性を十分理解しているはずで、保険申請と市教委への事故報告を混同することなどあり得ない。
ハンターの取材に答えた市教委青少年課は、伊敷中の初動から報告書提出までの動きについて「言い訳のしようがない」として学校側の過ちを認めている。