腐った教育者たちの犠牲者は、14歳の女子生徒だった。
令和元年(2019年)に鹿児島市立伊敷中学校で複数のクラスメートによる“いじめ”が発生。ターゲットになった女子生徒が転校を余儀なくされるという事態に発展したにもかかわらず、同校や鹿児島市教育委員会が共謀し、真相を闇に葬っていたことが明らかとなった。ハンターは、市教委への情報公開請求で、学校側が作成した極めて悪質な「隠蔽の証拠」を入手している。
■担任は“いじめ”を放置
令和の時代となってすぐの5月、鹿児島市立伊敷中学の2年生のクラスで、“いじめ”が始まった。ターゲットになったのは、大人しい性格の女子生徒Aさん。周囲の生徒に威圧感を与えるほど強い態度をとる一人の女子生徒が、Aさんの文房具などを「貸して」と言っては、そのまま自分のものにするようになったという。そうしたことが続くうちに、女子生徒のいじめはエスカレート。断りなくAさんの所有物を奪い取って、他の生徒に勝手に与えるようになっていく。
いじめは、1対1の関係で終わるものではない。ほとんどのケースがそうであるように、強い者が仲間を巻き込んで集団を形成し、クラスを支配するようになる。ご多分に漏れず、伊敷中でも他の複数の女子生徒が加わってAさんへのいじめに参加。性格の強い女子生徒らの集団に、「誰も注意を与えることができない状況だった」と、当時のAさんのクラスメートは話す。
こうしたなか、Aさんはいじめグループから身体に直接暴力を振るわれたり、「うざい」「死ねば」などと罵倒されるなど、連日のように痛めつけられていた。
Aさんは、医療機関で治療を受けなければならないほどの精神的なダメージを受け、「オアシス教室」と呼ばれる特別教室で自習を強いられるようになるが、担任の女性教師はAさんやその家族による被害の訴えを無視。いじめグループの生徒らに注意するどころが、逆に肩を持つような発言を繰り返し、同グループの生徒たちとは友達同士のような会話を交わしていたという。精神的にも限界となったAさん。見かねた友人が付き添って担任に被害を訴えた際、その女性教師は笑って聞き流したという。
別の関係者はこう振り返る。
「担任の先生は、強いいじめグループの友達みたいな存在でした。先生と生徒の関係ではなくて、お友達。だから、いじめグループには男子も知らんふりで、誰も止めようとしなかった。男子も怖かったんじゃないかと思う。クラスからはじかれたのはAさんだけではなくて、他に何人も授業に出れなくなっていたほどでしたから。オアシス教室にはAさんも含めて2~3人が行っていたけど、担任の先生は、何もしなかった」
■いじめを受けた生徒が「転校」の理不尽
業を煮やしたAさんの家族が強く対応を迫ったことで校長や他の教員が動き出したものの、学校側はいじめの中心となっていた女子生徒がAさんから一方的に取り上げた文房具を買って返させたり、手紙を書かせるなど形だけの謝罪をさせて幕引きを図る。
しかし、その程度のことでAさんのいじめグループへの恐怖心が消えるはずがない。いじめグループが、Aさんたち弱い立場の生徒の唯一の居場所であるオアシス教室にも顔を出すようになったため、令和2年になってすぐ、Aさんは転校せざるを得ない状況に追い込まれる。学校や市教委が問題解決に動こうとしなかったばかりか、いじめグループによるクラス支配を許すような格好になっていれば、他に選択肢かなかったということだ。本来ならいじめグループが罰を受けるのが当然だが、伊敷中学の校長やいじめの実態を知っていた鹿児島市教育員会は、Aさんの転校を止めようともしなかった。
ちなみに、いじめが問題化した後、担任の女性教師はAさんと向き合おうとせず、面会を求めるAさんの家族とも会おうとしなかったことが分かっている。電話にさえ出ることもなかったというから、教育者としては失格という他ない。この教師が寄り添っていたのは、いじめという卑劣な行為を繰り返していたグループの子供たちだったということになる。
結局、Aさんは令和2年の1月に市内の別の中学に転校。今年3月、新しい級友たちと笑顔で卒業式を迎え、高校に進学した。しかし、伊敷中でいじめにあい、担任からも見放された当時のことを思い出すと、「いまでも具合が悪くなります」と話している。
理不尽な話である。そもそも、退学などの処分を受けるべきはいじめを行った側の生徒。いじめの被害にあった子供が、なぜ学校を去らねばならないのか。弱った人を助けるのではなく、切り捨てる格好で事を終わりにした伊敷中や教育委員会の方針は、明らかに間違いだったと断言しておきたい。
■県教委「報告受けていない」
問題は、いじめが原因で転校を余儀なくされたこのケースを、学校と鹿児島市教育員会が隠蔽したことだ。県内の教育行政を統括する鹿児島県教育委員会は、「いじめが原因で被害生徒が転校に至った場合は、重大事案として県教委に報告する義務がある」というのだが、「伊敷中で起きたいじめや被害にあった生徒が転校したことについては、一切聞いたことがない。報告を受けていません」と明言している。県教委への情報公開会請求でも、該当するいじめ事案の報告が提出されていなかったことが確認されている。
隠蔽は明らかだ。では、なぜ伊敷中のいじめ問題は県教委に報告されなかったのか――?疑問への答えは、市教委が保有するいじめの報告文書の中にあった。
(つづく)