報道失格|西日本新聞が大任町長らの脅迫行為を追認

歪んだ権力を容認する記事が掲載された新聞は「ゴミくず」――これは筆者の持論である。今月7日の西日本新朝刊筑豊版は、まさにその典型だった。

田川郡内にある8市町村で構成する「田川郡東部環境衛生施設組合」(組合長:永原譲二大任町長。田川市、大任町、川崎町、添田町、赤村、糸田町、福智町、香春町で構成)の市町村長らが、今年4月に田川市内で開かれた「情報公開」に関する勉強会の内容に言いがかりをつけ、主催者側に謝罪を要求する「脅迫文書」を送り付けた問題を取り上げた西日本新聞が、筑豊版の紙面に事実関係を捻じ曲げかねない記事を掲載していたことが分かった。狂った権力による脅迫行為を、報道機関が追認した格好だ。

■脅迫者と被害者を同列に並べる愚行

下は、西日本新聞8月7日朝刊・筑豊版の紙面だ。脅迫文書の発出を主導したとみられる永原大任町長の主張と、脅された側の主張をわざわざ並べてインタビュー記事に仕立て、脅迫者の立場を認める形になっている。勉強会を巡る問題について、脅迫者側と脅迫を受けた側を同列に扱うことは間違い。権力の暴走を止めるという、報道の重要な使命を放棄した結果が、この記事だ。

このクズ記事を書いた吉川文敬という記者は、脅迫者側に忖度したのか、物事の正否が判断できないかのどちらかだろうが、いずれであるにせよジャーナリストを名乗る資格はない。もちろん、この記事の掲載を許可した同記者の上司も同罪である。

問題の記事が取り上げたのは、今年4月に田川市内の議員が中心となって開かれた情報公開についての勉強会を巡る対立の構図。永原大任町長や二場公人田川市長ら8人の首長は7月11日、議論の対象にさえなっていない田川郡東部環境衛生施設組合の事業を批判されたとして言いがかりをつけ、「謝罪しろ」「質問に答えろ」とした上で「さもなくば、この事業が遂行できなくなる恐れがあります」と迫る文書を発出していた。明らかな脅迫だ。(*下が脅迫文書。画像クリックで拡大)

これに対し、脅迫文を送り付けられた田川市の小林義憲市議会議長ら3人の市議と、勉強会の講師を務めた市民オンブズマン福岡の児嶋研二代表幹事が、7月27日に県庁の記者クラブで記者会見。一連の経緯について説明した上で、田川郡東部環境衛生施設組合からの謝罪要求に応じない理由などを詳しく説明していた。

確認しておくが、勉強会では「田川郡東部環境衛生施設組合」という名称など一度も出ておらず、同組合の事業を批判する場面などなかったことが分かっている。そこで議論されたのは、行政の透明性を高めるための情報公開の重要性。市民オンブズマン福岡の児嶋代表幹事が田川郡以外にある自治体の事例などを挙げて講演を行ない、参加した地方議員らと討議する内容だった。この中で、町発注の公共工事に関する情報を一切開示しようとしない大任町の姿勢に触れた部分があっただけで、具体的に田川郡東部環境衛生施設組合が大任町内で進めてきた施設整備を批判する場面はなかったことが明らかになっている。

仮に、組合の施設整備が不透明さを指摘されていたとしても、それは言論の自由の観点からいって何の問題もなく、組合側が謝罪を強要する話ではない。実際に大任町は、田川郡東部環境衛生施設組合の事業として単独発注した「汚泥再生処理センター整備工事」(契約金額89億8,560万円)や「大任町ごみ処理施設整備工事」(契約金額220億円)など、巨額の公費が投じられた工事に関する文書の情報公開に応じておらず、噂されてきた工事費の水増しや裏金の動きについて検証できない状態が続いている。

当然、組合を構成する7市町村にも説明責任があるはずだが、ハンターの調べで、大任町以外の7市町村が一連の整備事業の関連文書を保有していないことが分かっている。いずれの市町村も施工業者との「契約書」さえ保有しておらず、事業の妥当性を精査した記録さえない。組合絡みの公共工事が、不透明であることは誰の目にも明らかだ。

ハンターが度々報じてきたように、大任町は「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(入札契約適正化法)で定められた入札結果の公表や、建設業法が公表義務を課す施工体系図を隠すなどやりたい放題。永原町長と関係の深い建設業者が組んだ業界支配の実態を隠蔽するため、建設工事に関するありとあらゆる情報を非開示にしてきたという経緯がある。

昨年9月には、町外からの情報公開請求を拒否できるよう町の情報公開条例を改悪するなど、永原町政は他の自治体では考えられない異常な行為を繰り返しており、地方行政の勉強会の中で議論の中心にされてもおかしくない状況となっている。勉強会の主催者が、永原氏ら組合側から脅迫されるいわれなどないということだ。

首長らの脅迫文に「根拠」がないことが理解できなかったとすれば、吉川という記者の取材能力を疑わざるを得ない。同記者は、勉強会も記者会見も取材していたというのだからなおさらだ。不正や疑惑の追及は本来なら報道機関の役目だが、それを果たすどころか、脅迫側の親玉の言い分を無批判に文字にしたのだから、悪行に免罪符を与えたに等しい。西日本新聞が「報道」を名乗るのであれば、組織ぐるみで反省すべきだろう。

■意図的に論点ぼかし

ここで、田川郡東部環境衛生施設組合側が勉強会の主催者に送り付けた「脅迫文」を再掲しておきたい。

田川地域広域行政勉強会開催の趣旨及びその内容について

令和4年4月26日の田川地域広域行政勉強会を小林義憲田川市議会議長を発起人として、市民オンブズマン福岡代表幹事児嶋研二氏を招いて実施されました。

この勉強会への参加呼びかけを小林義憲議長らが自ら行い、特定の田川地域市町村議員及び特定の住民、マスコミ(新聞記者及びTV局)に案内し、田川地域から28名の議員が参加し、田川市議会からは14名が参加されました。

市民オンブズマン福岡代表幹事の児嶋研二氏との一般的な勉強会ではなく、広域行政勉強会とは名ばかりで、実際は田川郡東部環境衛生施設組合が大任町で建設している当該事の情報公開や事業費用を批判するものに外なりません。

福岡在住の児嶋代表が大任町に建設中の当該施設について、知る由もなくこの勉強会に先立って、(*③)誤った内容が、事前に説明したのではないかと想定されます。

先に完成した田川クリーンセンターやごみ焼却施設、最終処分場については、構成市町村議会の厳格な審議を経て、地方自治法に基づく議決をいただき、大任町へ事務委託され、実施されていることは、貴職も十分承知のとおりであります。

財政基盤の脆弱な田川地域にとって、有効な財源確保を行い構成市町村が負担する費用を最小限とするため、中央省庁や上級官庁への不断の努力を重ね、出来るだけ地方負担の軽減に努めて事業を推進し、議会等で機会あるごとに財政状況や進捗状況を説明しているにもかかわらず、あたかも、大任町のみが単独でかつ不純な利益を得て、事業を進めているかのような誤った認識を住民に持たせ、RKB毎日放送の報道の中でも、同様の内容が放送され、著しい疑惑があるような印象操作が行われたことは、誠に遺憾であり、看過することはできません。

田川市議会議員という重責にあり、当該事業を円滑に進める職責を担う立場にあるにもかかわらず、勉強会の司会者として主体的に進めたことは、看過できるものではありません。

よって、田川郡東部環境衛生施設組合、組合長、副組合長、議会議長及び議会副議長連名のうえ、当組合並びに議会の総意をもって、下記のとおり抗議する。

1 当該勉強会を実施するにあたり、発起人らは、特定の同志を中心に呼びかけ不正の念を抱かせるような活動は、田川市議会議員としてあるべき態度なのか疑いを禁じ得ない。また、関係議員らが児嶋代表幹事に対して、事実に基づかないうそや思い込みの情報を提供したのではないかということ。

2 大任町内における、いわゆる迷惑施設について発起人らは、大任町民の心情を全く理解しようとしてないこと。

3 施設建設に係る情報公開について、大任町が情報公開条例の一部を改正した経緯や背景を全く理解してないこと

4 地方自治法で定められた一部事務組合と言う特別地方公共団体の法制の趣旨、当該組合の規約等を全く理解してないこと。

5 当該事業を推進するにあたって、構成市町村の厳格な討論の後、議会議決を経たにも関わらず、事業費用及び事業推進について、当議会行政報告において機会あるごとに報告しているにもかかわらず、総工事費がどれだけ増大するかわからないというような理不尽な発言に対して、田川市議会議員として、当該事業を全く理解しておらず、田川市議会で審議を尽くされたにもかかわらず、その発言を見過ごしたことは、当該勉強会の司会者として、また、職員として、怠惰と言わざるを得ない。

6 地域住民から信託された議会議員という立場を忘れ、テレビ報道やネットニュース、SNS、ユーチューブ配信と言った報道姿勢を煽り、議員としての職責を全く疑わざるを得ないこと。

以上のことについて、厳重に抗議するとともに、令和4年7月31日までに文書をもって謝罪することを求めるものであります。

さもなくば、この事業が遂行できなくなる恐れがあります。

脅迫文にある「田川郡東部環境衛生施設組合が大任町で建設している当該事業」とは、「田川クリーンセンターやごみ焼却施設、最終処分場」を指す。問題の新聞記事が見出しに使っている「ごみ処理施設」とは、これら3施設をひっくるめたものだ。

勉強会の議論対象を、「情報公開」からこの「ごみ処理施設」にすり替えるための道具になったのが、インタビュー記事の冒頭にある「ごみ処分場は元々」という永原氏の言葉であり、これを前提とした「ごみ処理施設巡り対立」という見出しである(*下の画像参照。赤い囲みはハンター編集部)。

しかし、勉強会に関する問題で報道が問うべきは、“情報公開の重要性についての議論”を田川郡東部環境衛生施設組合への批判だと言いがかりを付け、『謝らなければ事業を止める」と脅迫したことの是非。実はどこにも存在しない「ごみ処理施設を巡る対立」を捏造するなど、もってのほかだ。

永原氏はインタビュー記事の中で、勉強会の内容を「印象操作」と批判しているが、「情報公開」であった論点を、勝手に「ごみ処理施設」にしたこの新聞記事こそ印象操作だろう。吉川記者の記事は、限りなく虚偽に近いと言っても過言ではあるまい。

「ごみ処理施設」という、なかったはずの対立軸を、見出しに振ったことの罪は大きい。紙面を一読した読者は、あたかもごみ処理場の建設工事を巡って意見の相違が生じているかのように受け取るからだ。この記事は、公平・公正を装いながら、意図的に論点をずらし、地元の世論を間違った方向にリードするための仕掛けになっている。重ねて述べるが、勉強会で提起された問題点は田川郡東部環境衛生施設組合の施設整備事業ではなく、「情報公開」の重要性なのだ。

■情報公開条例の改悪理由を無批判で記事化

ところで、その「情報公開」について、永原氏はインタビューの最後でこう述べている――「文書を出すと数字が独り歩きし悪用されるおそれがある。政争の具に利用される危惧もある。文書公開には慎重にならざるを得ない」。

これは、田川郡東部環境衛生施設組合の脅迫文にある「施設建設に係る情報公開について、大任町が情報公開条例の一部を改正した経緯や背景を全く理解してない」の中の、『大任町が情報公開条例の一部を改正した経緯や背景』について説明した言葉だ。

しかし永原氏の主張は、大任町が公共工事の情報を隠蔽していることについての身勝手な「言い訳」。こんなたわごとを無批判で記事にした吉川という記者と西日本新聞筑豊版には呆れるしかないが、永原氏の強弁は、おそらく法的には認められない。

一般的には通用しない永原氏の主張を認めた形となる田川郡東部環境衛生施設組合の首長たちが、「文書を出すと数字が独り歩きし悪用されるおそれがある。政争の具に利用される危惧もある。文書公開には慎重にならざるを得ない」という与太話を信じているとしたら、政治家としては最低ランク。永原氏の恐怖政治にひれ伏さざるを得ない現状があるにせよ、簡単にルール違反を認める姿勢には怒りを覚える。

次稿で、公文書隠しを続ける永原氏側の主張について、詳細な反論を行う。

(中願寺純則)

 

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