交通取り締まり「処罰基準あいまい」|ストーカー事件の元警官が実態証言

北海道の元警察官によるストーカー事件の裁判(⇒「北海道警・わいせつ警官、起訴事実認める」)で10月末、交通事件を担当していた被告人が不適切な取り締まりについて証言する一幕があった。検察などによる尋問はストーカー行為の動機追及に終始し、不適切捜査の実態を掘り下げるには到らなかったが、一個人の不祥事の背後に組織的な不正の一端が垣間見えた形だ。

■ストーカー行為、動機は取締りへの疑問

30歳代の一般女性に対する暴行・脅迫で逮捕され、強制わいせつ未遂とストーカー規制法違反で起訴されたのは、函館西警察署で交通取り締まりにあたっていた元巡査部長(41)。地元の函館地方裁判所(日野進司裁判長)では9月25日に事件の審理が始まり、10月29日の第2回公判では元巡査部長自身が被告人質問に臨んだ。

およそ1時間にわたった同日の審理では、検察官、被害者参加代理人、及び裁判官の3者が繰り返し犯行の動機を問い続け、そのたびに元巡査部長が「自分でもよくわからない」と口ごもることになった。一方で再犯の可能性についてはきっぱり「ありません」と明言、加害者自ら「現場に近づくのも苦痛」などと明かしている。

当事者が「わからない」と言い募る犯行動機は、何に由来するのか――。それが示されかけたのは、裁判官による補充尋問が終幕に差しかかったころだった。交通警官としての使命を質された元巡査部長は、現職時代を振り返った語りで取り締まりの実態を明かし、職務への失望を口にすることになる。

裁判官:(警察官を志したのは)社会正義の実現に魅力を感じたからでは?
元巡査部長:それはあると思います。

裁判官:そんな人がどうして社会正義を乱すことをやったの?
元巡査部長:私も、ずっと考えているところです。徐々に仕事への情熱を失ったというか、(交通取り締まりは)矛盾が多いというか……。処罰される・されないの基準があいまいで、筋が通らないというか、グレーゾーンが大きい……。仕事への疑問が、どんどん増えていって――。

この時、裁判官はやや慌てた趣きで「それだけではないでしょう」と話題を変え、「きちんと説明できるよう考えていくことが反省では」と締め括っている。以後は検察や被害者からも追加の問いが出ることはなく、最後まで動機不明のまま被告人質問が終了した。蛇足ながら、先の証言は地元各社の報道でも一切触れられていない。

警察官でありながらストーカー行為に及んだ犯行そのものには、もとより同情の余地もない。だが本人の言う「仕事への疑問」が動機の一部を占めていたのだとしたら、ことは一職員の不祥事では片づけられない問題。「処罰される・されないの基準があいまい」で「筋が通らない」という不適切な取り締まり実態が事実ならば、その責任は組織にある。

そうした仕事に由来するストレスがストーカー行為の動機になったと仮定すれば、元巡査部長が再犯可能性を全否定したことにも頷ける。警察を辞めることでストレスは消え、再犯の理由がなくなるからだ。

道警ではおりしも、本部交通機動隊に所属する50歳代の男性警部補が速度違反捏造の疑いで逮捕されたばかり(10月12日付)。先の函館の公判の翌日にはこれに加え、同警部補の部下3人が同じ容疑で書類送検されたことが伝えられている。

函館地裁の公判後、筆者は裁判所庁舎を出る元巡査部長に問いを向けた。だがやはり、「仕事のストレスこそが主要な原因だったのでは」との質問に返ってきたのは「わかりません」の一言のみ。事件は飽くまで、1人の個人的な不祥事という形で幕を閉じることになりそうだストーカー事件の次回公判は11月下旬に函館地裁で開かれる。

(小笠原淳)

【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】
ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。
北方ジャーナル→こちらから
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