大阪市を廃止して4つの特別区を設置する、いわゆる「大阪都構想」の賛否を問うの住民投票が1日、実施され、2015年に続き今回も反対多数で否決となった。
大阪都構想を推進してきた大阪維新の会代表の松井一郎大阪市長は任期満了をもっての政界引退を表明。大阪府知事で代表代行の吉村洋文氏も退任の可能性を示唆しており、大阪を席けんしてきた“維新政治”の終えんが見えてきたようだ。
橋下徹氏とともに、ローカルパーティー「大阪維新の会」を結成し、国政政党「日本維新の会」で、国政にも進出した松井氏。今回の住民投票では「賛成」が優勢とみられていただけに、敗戦が決まった記者会見で「十分にやりました、任期が終われば政治家終了」と述べたが、表情には悔しさがにじみ出ていた。
一方、1回目の住民投票に敗れ、橋下氏が政界を去った後の「維新の顔」として売り出した吉村氏は、新型コロナウイルス対応で一躍注目を集める存在となったが、橋下氏を超えることはできなかった。会見で目を潤ませた姿が印象に残った。
■「政治家終了」と言うけれど・・・
2015年の住民投票で都構想が否決された直後、松井氏は橋下氏とともに政界から身を引くと公言。大阪都構想も、再チャレンジはないとしていた。しかし、自らは府知事から市長へ、吉村氏は市長から府知事へと入れ替わる知事選・市長選のダブル選挙
に打って出るという奇策に打って出て、「大阪都構想をもう一度」と訴え勝利すると、「信任された」と胸を張って2度目の住民投票を仕掛けた。
2015年の住民投票では投票率約66%で、1万票あまりの差で敗戦。今回は、投票率が約62%で1万7千票あまりの差がついた。完敗と言えるだろう。2度の住民投票にかかった経費は約20億円。この間の都構想絡みの支出は、総額で100億円前後になるという。原資は税金だ。ある大阪維新の会の地方議員は、危機感を募らせる。
「2度も住民投票やって否決され、風当たりも強い。確かに予算も使った。そこに橋下さんと並ぶ組織の顔で、大阪維新の会と日本維新の会の創設者である松井さんが辞任すると言い出した。看板政策も消えた。このままでは、維新の存続は難しい」
そうした雰囲気を察しているのか、日本維新の会幹事長の馬場伸幸衆院議員は住民投票敗戦が決まった直後から、松井氏に対して「国政に転じて、改革を担ってほしい」とラブコールを送る。だが、松井氏に同志らの期待にこたえる気持ちはないらしく、今月中に「大阪維新の会」の代表を辞任する見込みだ。
よく分からないのは、大阪維新の代表は辞めるが、「日本維新の会」の代表は当面続けるという松井氏の奇妙な方針である。前出の大阪維新地方議員は、期待を込めてこう話す。
「松井氏の地盤は大阪府八尾市を含む衆院大阪14区。維新からは谷畑孝氏が国政に出ていた。しかし、体調不良で引退。議席があいた格好だ。松井氏が出馬する舞台はバッチリ整っている」
菅義偉首相と松井氏が「蜜月」の関係にあることは周知の事実。自民党の大阪市議団や他の政令市の同党議員が都構想反対で活発に動く中、菅首相が「反対」という言葉を発することはなかった。安倍前首相でさえ「反対」を表明していたことからも、いかに菅首相が維新に肩入れしているかよくわかる。
大阪選出の自民党国会議員は、次のように解説する。
「松井氏はじめ、維新は主張がコロコロ変わります。松井氏はおそらく『菅首相から要請を受けた』『大阪都構想を国政から問う』などと理由付けして、国政に出てくるでしょう。橋下氏も巻き込み『維新を再興』という線もあるでしょう。今まで、都合が悪くなると選挙を仕掛け、その都度勝ってきた。選挙の勝敗がすべてで、それまでに何を言っていたかは関係ないというのが維新の手法だ。まるでゾンビ。コロナ対策で人気者となった吉村氏も、簡単にやめるとは思えない。住民投票後の記者会見を信用する人は、大阪の政界では、だれもいませんよ」
松井氏が「辞めると言ったが、それを辞める」とお笑いにもならない言い訳で、国政に転身する日はそう遠くなさそうだ。
(山本吉文)