維新失速の原因は大阪・関西万博|色褪せた「身を切る改革」

「確かにありがたいね、維新が下がってくれるのは」と苦笑するのは、自民党の幹部。2021年の衆議院選挙と2022年の参議院選挙、さらには今年の統一地方選、衆院補選と維新に完敗し続けてきた自民党だけに、敵の支持率低下は大歓迎なのだ。背景にあるのは、建設費が約2倍に膨らんだ大阪・関西万博である。

◇   ◇   ◇

今年8月には大阪刷新本部を設置して衆議院の小選挙区ごとに支部長を再選定。総選挙に向けて体制を整えていた。それ以降、毎月のように小選挙区ごとの情勢調査を実施。冒頭の幹部はその数字を見ていた。

直近の調査では、いくつかの小選挙区で、維新が優勢ながらも自民党の候補者と10ポイント差以下という数字さえ出ている。調査全体の数字でも、自民党が上向き、維新が右肩下がりという傾向だ。

「数字を分析すると、万博が理由で維新の支持が下がっているのが分かる。あまり喜ばしい理由ではありませんがね」と前出の自民党の幹部は話す。

2025年4月に開幕予の大阪・関西万博。当初、建設費は1,250億円とされたが、2020年には1,850億円に増額。今年10月に再び上振れし、ついに2,350億円にまで上昇した。計画当初約2倍だ。SNSなどを中心に「万博中止」というキーワードが急上昇。維新が窮地に追い込まれている。

かつて、維新の一丁目一番地は「大阪都構想」だった。しかし2度の住民投票で敗れ、断念に追い込まれたのは周知の通りだ。その後、「身を切る改革」にキャッチコピーを変えて議席を伸ばしてきた維新が、政策の目玉として打ち出したのは万博とその跡地につくるというカジノを含む統合型リゾート=IRだった。

今年春の大阪府知事選では、維新の共同代表を務める吉村洋文知事が「万博をできるのは、IRを実現させるのは維新であり、知事の私以外にいません」と胸を張り、圧勝している。「しかし」と、維新の大阪府議A氏が肩を落としてこう語る。
「万博が大成功して、インフラ整備もした上でIRにつなげる。それを維新の大手柄としてさらに勢力を伸ばすという目論みだった。しかし、万博の建設費増額で“身を切る改革”も色褪せた。大阪にいても、非常に周辺が冷たくなっているのが分かる。特に大阪・関西万博のシンボルとされるリングという大屋根が問題になってからはね」

万博のシンボルとなる大屋根は、高さ12m、1周2kmの世界最大級木造建築物だ。1970年の大阪万博で太陽の塔がシンボルになったが、今回はこの大屋根だという。

しかし、万博は2025年春から半年間の開催で、その後は取り壊される。当初、公表されていた大屋根の費用は170億円。それが2倍の350億円にまで膨れ上がった。

11月8日、衆議院内閣委員会で大屋根のコストや意義を問われた自見英子万博相は、「来場者の健康、日よけになる、熱中症対策だ」と発言。350億円のコストが問題視されているというのに、「来場者の健康管理のために必要だ」と強弁し、「日よけ」の建設はやめないと明言した。

それもあってか、A氏が朝、最寄りの駅頭でチラシを配布していると「身を切る改革って、身を切ってないやろう。万博はどうなってるねん。もう維新には入れない」と、数年前から親しくしている支援者から文句を言われたという。こういうことが日常になりつつあるだけに、維新関係者の表情は暗い。

それを敏感に察知しているのが吉村知事だ。あれほど万博は「維新の手柄」を明言していながら、「本来は国がもっとやらなければいけない」、「万博は国が主催している」と責任転嫁。維新の馬場伸幸代表も「万博は国の行事、大阪に責任はない」と国、自民党に責任を押し付け、“逃げ”に走った。

建設費の大幅増額は「身を切る改革」とは真逆の事態。万博会場の建設状況を確認したが、問題の大屋根はほんのわずかしか着工されていない印象だ。やめて「損切り」することも考えるべきだろう。

明石市の泉房穂前市長はX(旧ツイッター)に、《本当に怒っている。国民が生活苦で大変なときに、”つくって壊すだけ“の『リング』(大屋根)のために350億円を注ぎ込み、負担を国民に押し付ける感性が理解できない》、《”世界最大級“の『350億円リング』(大屋根)は、”世界最大級“の『無駄遣い』であり、建設ストップの決断もせず、漫然と無駄遣いを続けるのは、”世界最大級“の『愚かな政治』》と投稿した。同感である。「いいね」が多数ついているのは当然だろう。

維新の国会議員B氏は、「『身を切る改革なのに、建設費増額とはどういうことだ。身を切っていない』とよく指摘されます。確かに、その通りで返す言葉がありません」とうなだれる。

吉村知事もヤバくなった空気を感じ取ったらしく、万博の建設費増額についてX(旧ツイッター)上で、《万博の会場建設費が2回目の増額となったこと、万博責任者の一人として、府民の皆様、国民の皆様に率直にお詫び申し上げます》と珍しく謝罪した。

ある自民党の大阪市議が、現状に期待を込めて次のように話す。
「維新の勢いが停滞しているのは肌で感じます。ただ、万博は自民党がもともと発案して、そこに維新の橋下徹氏と松井一郎氏がうまく乗ったということ。万博中止論もありますが、さすがにそこには乗れない。ですが圧倒的な強さを誇る維新の背中が見えてきたし、巻き返せる兆しがあるのは事実。ここで、岸田首相がバーンと維新を凌駕する万博に関する新しい策でも打ち出してくれば、いいのですが」

前出の自民党大阪市議も、「岸田首相がリングの建設は中止とか縮小して開催とか言ってくれれば、大阪で自民党の人気もアップする。岸田政権の支持率もあがるんじゃないか」と希望を口にする。

本サイトで報じたように、大阪に隣接する奈良県橿原市の市長選では維新候補が惨敗した(既報)。背景に、万博が見え隠れするのは確か。維新の失速に、歯止めがかからない状況となってきた。

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