米大統領選、トランプかバイデンか|元外国特派員協会会長インタビュー(上)

8年近くに及んだ安倍晋三政権が唐突に終わり、官房長官として「一強」を演出してきた菅義偉氏が第99代内閣総理大臣に就任した。

アメリカでは、安倍がもっとも頼りにしてきたトランプが、11月の大統領選挙に向けて正念場を迎える状況となっている。

日米の政治状況が変化する中、両国の中枢に取材した経験を持つ元外国特派員協会の会長、ジェームズ・シムズ氏が、財政難に喘いでいた幕末の薩摩藩を救った調所笑左衛門(広郷)の7代目で、20年来の友人という調所一郎氏のインタビューに答えた。

【ジェームズ・シムズ(James Simms)】
1967年生まれ。元日本外国特派員協会会長。長年、米国有力経済紙ウォールストリート・ジャーナルでコラムニストを務め、森喜朗、小泉純一郎の両元総理やタイのタクシン首相など世界の指導者にインタビューを行ってきた経験を持つ。日本及び韓国の政治や経済については、深い取材に基づく洞察力に富んだ記事で知られる。現在は東京電力・福島第一原子力発電所の事故に関する本を執筆中。

■菅政権に求められるバイデン陣営との関係構築

調所:早速ですが、日本では安倍政権の継承を旗印に菅内閣が発足しました。トランプ大統領のスタンスに変化はありますか?
――変化はないと思います。しかし菅総理はやはりバイデン陣営との関係を作らないといけませんね。
調所:というと?
――バイデンが勝つ可能性が高いからです。彼は、トランプのように拗ねないので大人の対応をするでしょう。
調所:バイデンが勝ちますか?確かに現在はバイデン優勢との見方が一般的ですが、どうもアメリカでもマスコミの影響でトランプ支持だと「レイシストその他のマイナスなイメージ」というわけで、実際はトランプ支持なのに公表してないか、逆を答えている層がけっこう存在している気がします。世論調査の方法に問題はないのでしょうか?
――世論調査の問題点はかなり修正されています。現在は、調査結果と実態はあまり乖離してないと思います。確かに、いわゆる隠れトランプ支持者もいるのでしょうが、以前はいても2ポイント位低く世論調査にでると言われていました。今の世論調査では、場合によって10ポイントの差でトランプが劣勢で、重要な州では4から5ポイント負けているというのが実態でしょう。
調所:なるほど。
 私は中西部育ちで、海岸沿い以外は既存の政治・経済支配層いわゆるエスタブリッシュメントに対する怒りはよく知っていたし、自分も一瞬トランプに投票しようと思ったほどです。それが、エスタブリッシュメントに対する真ん中の指になると思ったからですが……。
調所:真ん中の指?中指立てるこれ?
――そうそう(笑)。日本語では「クタバレ!」という意味になるでしょう。英語ではもっと強い意味を持つ。
調所:そのジェームズさんが、トランプに対し否定的になった理由は?
――私は高校大学時代、レーガン大統領とパパブッシュ大統領の時期に共和党の選挙運動もやりましたが、トランプのことを考えたり調べたりした結果、とんでもない人物だということが分かりました。ただの自己愛性人格障害のリアリティ番組司会者であり、下手な経営者だと思いました。

 

■幼稚なトランプ

調所:そこまで言いますか(笑い)。
――トランプが白人至上主義者であることは明白です。トランプの不動産会社は、1970年代に政府から人種差別で制裁を受けていますし、近年ではメキシコからの移民は大抵が強姦者や麻薬のディーラーであるとか、裁判官がメキシコ出身の親を持つから公正な判が受けられないとか、とんでもないことを言ってます。その判事は米国生まれだったので純粋なアメリカ人なんですがね。
調所:そんなことがあったのは知らなかった。建国以来の移民国家たるアメリカで、それを言ったらダメですよね。
――もちろん!あと、トランプは黒人のことを話す時に「the Blacks」という言い方をしていました。私はそれを聞いて文法を気にするライターとして凄く違和感を覚えました。
 普通は人種や宗教に対して定冠詞theは使わない。使うのは差別を目的としたり、よそ者扱いしたい時が多い。例えば「The Japanese are sneaky」(日本人はずるい)。真珠湾攻撃の後、そう言われましたが、全ての日本人や日系人にそうしたレッテルを貼っていいんでしょうか?もちろん、ダメでしょ。
 ちなみにトランプ支持者の中で、「なぜイスラム教徒の入国を禁止してはダメなのか」といった説を展開した人がいましたけど、2017年にトランプが出した入国禁止令を支持する人は少ないのではないでしょうか。差別主義を容認してはいけないんです。
調所:なるほど。トランプに対しては、かなり厳しい評価だということが分かります。ただ、昨今の中国の動きを見ていると「毒には毒をもって制する」的に、バイデンよりトランプの方がアメリカ大統領に相応しいと考える人がいるのも事実でしょう?
――確かにトランプが中国に対して言っていることや、行動は理解できないこともない。正しい場合もあります。しかし、その政策の実行方法は本当に幼稚ですよ。
 同盟国と一緒にその政策を実行せず、自国のみで走るのはなぜか?いくらアメリカが大国と言っても中国はずる賢い。必ず分断策を使って自国の長期的目標の達成を狙ってきます。アメリカは孤立するばかり。一方、中国は仲間を増やしている。だから、トランプ外交は幼稚ということです。

(つづく)

【インタビュアー】調所一郎
昭和35(1960)年生まれ。母方は内務官僚一家、父方はマスコミ(電通、読売テレビ)一家という環境で育つ。慶應義塾大学経済学部卒。民間シンクタンク大樹総研(たいじゅそうけん)執行役員等を経て現在はコンサル会社スプラウトグループ取締役。著書に薩摩拵(さつまこしらえ)(里文出版)、永久国債の研究(光文社・財務官僚らと共著)、刀と日本語(里文出版)がある。

 



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