「辺野古基地建設は止めるべき」|元外国特派員協会会長インタビュー(下)

トランプVSバイデン――。日本時間の30日午前、11月の大統領選を前に行われた第一回候補者討論会で初の直接対決となった両者は、新型コロナ対策などの政策について激しい舌戦を展開。バイデン氏の発言を遮って誹謗中傷を繰り返すトランプ氏と間で、非難合戦の様相となった。

討論会を見て「勝つのはバイデン」と予測する元外国特派員協会会長のジェームズ・シムズ氏。インタビュアー・調所一郎氏とのやり取りの中で、沖縄の米軍基地の在り方や辺野古の問題について、新たな視点で持論を語った。

【ジェームズ・シムズ(James Simms)】

1967年生まれ。元日本外国特派員協会会長。長年、米国有力経済紙ウォールストリート・ジャーナルでコラムニストを務め、森喜朗、小泉純一郎の両元総理やタイのタクシン首相など世界の指導者にインタビューを行ってきた経験を持つ。日本及び韓国の政治や経済については、深い取材に基づく洞察力に富んだ記事で知られる。現在は東京電力・福島第一原子力発電所の事故に関する本を執筆中。

■荒れた候補者討論会

調所:討論会は、かなり荒れてましたね。
―― 40年間近く大統領選の討論会を視聴してきましたが、今回は、荒れたどころか前代未聞でした。CNNはトランプ嫌いですが司会者は討論会終了直後の別な番組で「Shit show」と評価した。直訳は「クソ劇」ですが、ニュアンスとしては「クソの嵐」ですね。原因はトランプ。トランプの小学生レベルの攻撃をバイデンは耐えたが、喋りが重なり議論がかみ合わなった。討論会の司会者は統制できませんでした。

結局、トランプは数少ない浮動票に、彼に投票する理由を与えることができませんでした。しかし、そのことが、トランプの岩盤支持者に餌を与えたことにはなる。彼らは、トランプの暴走を喜ぶんですね。

点数付けによる判定は難しいでしょうが、態度や性格ではバイデンには有利な結果になったとみるべきでしょう。挙句にトランプは、白人至上主義者を非難できるかと聞かれ、答えを避けた。それがすべてでしょう。

■外交、安全保障について

調所:ところで、少し話を戻しますが、外交についてです。ジェームズさんが言うように、トランプ政権は同盟国に頼らず、自国のみで突っ走ってきました。アメリカに追随する動きも出始めてはいますが、きちんと同盟国に根回しして、最初から複数で同時にやらなければならなかった。そういうことですね。
――そうです。複数の同盟国で始めから断固たる姿勢で臨めば、中国はやりようがなくなります。特に金融面では先進国におけるドル・ユーロの決済は死活問題。それに規制をかければかなりの制裁になるはずなんです。

私は、中国共産党幹部や家族の海外資産に対してその“規制”という武器を使わないのは、欧米の金融機関がそれでかなり儲かってて、その利益の一部が政治家に合法的な献金や違法な資金提供で流れているからだと見ています。ロンドンとニューヨークの不動産の近年の高騰は、中国やロシアからの資金洗浄と深く関わっていると思われる節があります。

調所:私もそう思います。数年前に都心の某有名ホテルのロビーで習近平の弟(習遠平・あえて民間の立場で中国の資金戦略担当をしていると言われている人物)とヨーロッパの某有名巨大金融機関のトップが一緒にいるのを見かけたことがありました。ただし、中国を過大評価しても過小評価してもいけないと思うのですが?
――そうですね。現在のアメリカの世論――共和党・民主党支持を問わず――は中国に対する風当たりが冷戦時代のソ連並みになりつつあります。冷戦時代育ちの私としては、自信を持ってそう言えます。しかし、ソ連は蓋を開けてみたら巨人でなく貧弱な小人だった。それを自分の既得権益を守ることや増強するためにわざと過剰評価した人達がいた。

その教訓を忘れないよう、いまだに自分の本棚に1986年版のアメリカ国防総省の「ソ連軍事年鑑」を置いています。いま読むと、なんでこんな空想をみんな信じたのかと思いますが……。中国を評価する時、色んな問題が横たわっているので冷静かつ現実的に見ないといけません。

調所:おっしゃる通りですね。ところでトランプ大統領にノーベル平和賞の話があります。イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の国交正常化に尽くしたということなのでしょうが、どう思いますか?ちなみに、オバマ前大統領は核兵器削減・廃絶に対する何ら実効性の無い演説しただけで受賞しましたが?
――オバマ前大統領はノーベル平和賞に値しなかったので没収するべきです。オバマは、核兵器廃絶とは真逆の、核兵器とそれを届ける大陸間弾道ミサイル、原子力潜水艦、戦略爆撃機の近代化に日本円にして約30兆円の長期計画を開始したんです。軍事産業コングロマリットが潤っただけです。

調所:で、トランプ大統領は?
――トランプはノーベル平和賞を受賞する行動や政策をとってない。核兵器の分野ではロシアとの中距離核戦力全廃条約を昨年、破棄しました。これは1987年にあのタカ派のレーガン大統領が結んだ条約です。中東にしても、アラブ首長国連邦やバーレーンはイスラエルと戦時状態でもなかったし、UAEは「公の水面」(公然の秘密)で軍事的、諜報的な協力をしていた。お互いの利害関係が一致しただけ。敵はイランですからね。

調所:日本では河野前防衛相がイージスアショア計画を突然止めましたが、トランプ大統領はどう見ているのでしょうか。またジェームスさんは?
――トランプは取引主義なのであまりよくは見ないでしょう。が、今は選挙と新型コロナで精一杯。私は弾道ミサイル防衛の研究開発をどんどん進めるべきと思います。まだ、未完成な技術ですから。

じつは米軍の試験のほとんどが、楽な条件下で実験して失敗に終わっています。一方、敵にしてみれば、ミサイル防衛なんて破るのはわけないと思っている。多少精度が低いスカッドミサイルレベルの安いミサイルでも、数で圧倒すれば勝てる。何発か、または1発でも届けばミサイル防衛の負けですからね。

調所:私も昔からそう思っていて、だからこそ、ここに来て敵基地攻撃云々の話が出てきたんでしょうね。
――それを考えると米国ではcounterstrikeという、いわゆる逆襲。それと先制的な攻撃能力を、日本は米国と共に慎重に検討するべきでしょう。中国、ロシアと北朝鮮はすでにその能力を保持しているので、日本に文句を言える立場ではない。韓国も以前は核兵器や弾道ミサイルの検討をしてましたよね。

■「辺野古基地は造る必要ない」

調所:安全保障の話になると、どうしても避けて通れない問題があります。沖縄の米軍基地、特に普天間飛行場の名護市辺野古への移設や、鹿児島の馬毛島における米軍の訓練基地計画などについて、トランプ大統領はどう考えているのでしょうか?
――率直に言うとトランプはそこまで考えてないし、多分分かっていない。彼は上がってくるレポートも読まないし、毎日最低5~6時間テレビ、特にFOXニュースを見ているようですから。辺野古で何が起きているかなんて、知ろうともしないでしょう。

調所:シムズさんはどう考えていますか?辺野古の問題。
――私は沖縄の負担を軽減するには米軍内の海兵隊、海軍、空軍の縄張り意識を変えないといけないと考えています。沖縄県内の基地や駐屯地等をもっと共同で運用するべきだと。

辺野古移転は、1996年に橋本(龍太郎)内閣の時に決まったのにまだやっているわけです。更に今後10年以上の時間と9千億円だか何兆円だかを越えるカネをかけて、辺野古基地を造る必要はまったくない。反対です。止めるべき。

一方、馬毛島に空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP:タッチアンドゴー)場を整備する計画は、住民が密集している地域からはかなり離れた島だし、地元の理解さえあれば、進めてもいいのではないでしょうか。米軍の年間の訓練日数も長期ではないはずです。

調所:アメリカのジャーナリストであるジェームズ・シムズさんから、辺野古や馬毛島についての意見も聞けたのは収穫でした。今日は、貴重な時間をありがとうございました。

【インタビュアー】調所一郎
昭和35(1960)年生まれ。母方は内務官僚一家、父方はマスコミ(電通、読売テレビ)一家という環境で育つ。慶應義塾大学経済学部卒。民間シンクタンク大樹総研(たいじゅそうけん)執行役員等を経て現在はコンサル会社スプラウトグループ取締役。著書に薩摩拵(さつまこしらえ)(里文出版)、永久国債の研究(光文社・財務官僚らと共著)、刀と日本語(里文出版)がある。
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