変わる水泳授業:民間スクール活用「太宰府」モデルを検証する

全国の小中学校で老朽化した屋外プールを廃止し、水泳の授業を民間スクールや公営プールなどで行う動きが広がっている。
技術指導やプール管理を担う教員の負担が軽減されるほか、専門インストラクターの指導による児童の技術向上や屋外プールの維持管理費削減が期待される一方で、委託先の受け入れ体制や業務委託費の費用対効果など試行した自治体で検証が進む。
多くの利点が挙げられているが、そこに課題はないのか。19年度に試行した太宰府市のモデルを取材した。

 

老朽化する学校プール

水泳は小学校の学習指導要領で必修とされており、福岡県内ではおおむね6月から7月にかけて、各校のプールで実施されている。対象は全学年で、授業時間数は年間で平均10時間程度。これまで学級担任が水泳指導のほか、プールの水質管理や清掃まで担うため、負担は少なくなかった。

民間活用の授業では、児童が民間プールに出向き、教員が同行。スクールのインストラクターの専門性の高い指導により、児童の技術向上が期待できる。何よりも学校プールの維持費は年間100万円を超えるのが普通で、老朽化によるプール建て替えには数億円という費用が発生する。
年間10時間程度の授業時間の割に、コストがかかりすぎていることも民間活用の一因となっている。

 

福岡県太宰府市では19年の夏、はじめて水泳授業の民間活用モデルが試行された。太宰府市によると、実施されたのは、同市内の水城小学校(児童数772名)と水城西小学校(児童数817名)。両校のプールは築45年以上が経過し、使用できないことはないものの、塗装が剥げ落ちるなど、大規模な補修が必要だった。
また教職員の働き方改革の一環として、学級担任の負担軽減に繋がることなどから、実施に踏み切ったという。

両校合わせて約1600名の児童は民間プール2カ所(ブリヂストンスイミングスクール太宰府、太宰府スイミングクラブ)と市民プール(太宰府史跡水辺公園)1ヵ所の計3カ所で水泳授業を受けた。
学校からプールまでの移動は徒歩やバスにより、10分以内。移動や着替えなどを含め、1クラスにつき1コマ2時間の予定で3ないし4回実施された。
現在、同モデル事業の検証が進められているところだが、授業実施にトラブルはなく、教員からは「インストラクターが主導するので安心感があった」「プールの維持管理を気にしなくていい」など良好な反応が多かったという。

一方で課題も見えた。実施期間が例年よりも長くなったことだ。例年6月から7月にかけて水泳授業が行われていたが、今回のモデルでは6月に開始し、全校が終了したのは、11月末だった。理由は1度にプールに収容できる人数が限られていること。委託先には一般利用者もいることから、学校側が自由に授業を組み込めるわけではなく、委託先との調整で授業の進捗が遅れていた。また徒歩で移動するクラスもあり、猛暑日を避けるなど水泳実施時期をずらしたことが影響したという。

 

民間スクールの活用がベストか?

児童にも好評だったことから、太宰府市は「次年度も継続する予定である」というが、他校まで拡大できるかどうかは今後の調整次第だ。
太宰府市内には、前述の2校を含め全7小学校に4392名の児童が在籍している。全校が利用できるまでの受け入れ体制には至っていない。民間プールに通いやすい学校が優先されるのは間違いなく、「教育の機会均等」という観点においても議論が必要になる。

費用の面も検討材料だろう。19年度の同事業委託費用は水城小学校が467万円、水城西小学校577万円。学校プールの建設費を耐用年数で試算し、維持費を加えると、年間の必要経費は1校600万円を超える。試算ベースでは、委託した方がコスト削減になるが、どちらの公費負担に費用対効果があるのか。

全国的に屋外プールを廃止する学校が増えている。文科省の調査によると、1996年には全国で小学校20111校に設置されていた屋外プールが、2015年には4948校減少し、15163校となった。統廃合による減少を考慮しても、1000校以上で屋外プールが廃止されていることになる。

福岡市では、2020年度より一部の小学校の水泳授業で民間スクールの活用を試行するという。

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