11月20日、G20などの外遊から帰国したばかりの岸田文雄首相が、政治資金問題で国会追及を受けていた寺田稔総務相を更迭。後任に、松本剛明元外相の起用を決めた。
経済再生担当相の山際大志郎氏、法相の葉梨康弘氏に続き、1か月で3人もの大臣が閣内から去ったことになる。「黄金の3年」のはずが一変、ポスト岸田に向け永田町が動き出した。
■危険水域
自民党の大臣経験者が、あきらめ顔でこう話す。
「帰国早々の岸田首相の仕事が、寺田さんの更迭。山際、葉梨は後手に回っての対応だったので、今度は早めに先手を打ったつもりなのでしょう。しかし、やはり遅い。外遊前に更迭すべきだった。岸田さんは過去に自民党の国対委員長の経験もあるのに、状況が読めないというか、タイミングが悪すぎる。これでまた支持率が下がるのは間違いない」
朝日新聞やNHKの世論調査では、「危険水域」となる30%台に突入する寸前となっている岸田首相の支持率。11月20日に毎日新聞が行った調査でも31%という厳しい数字だった。自民党の中からは、「もう岸田首相ではもたない」「ボロボロになる前に自らが辞めるべき」といった声が上がる。
「更迭」となった葉梨氏、寺田氏は岸田派の所属。岸田首相の目が、まったくの「節穴」であることを証明してしまった格好だ。
前出の大臣経験者は、「10増10減の改正公職選挙法が、奇しくも寺田氏が大臣としての最後の仕事。これで岸田首相は、2か月もあれば解散総選挙が打てる」と言うが、旧統一教会、物価高、円安など重要課題が山積する中、解散総選挙を打って出ても自民党が勝てるという保証はない。岸田首相がその座にとどまったままの解散総選挙となれば、「政権交代」が起きる可能性もゼロとは言えない。
■ほくそ笑む二階派
風雲急を告げる中、ほくそ笑むのは「岸田おろし」を目論む非主流派の面々だ。とりわけ、意気軒高なのが二階派を率いる二階俊博元幹事長だという。
10月末に新型コロナウイルスに感染した二階氏だが、早くも11月10日、JR和歌山駅前に姿を現している。この日は、和歌山県知事選挙の告示日。二階氏は、自身が推した岸本周平氏の出陣式に顔を見せたのだ。
本サイトで報じたように(和歌山知事選候補者選びで存在感示した二階元幹事長)、二階氏は同じ和歌山を地盤とする世耕弘成参院幹事長と知事選の候補者擁立を巡って対立。結局、二階氏が世耕氏をねじ伏せる形で、かつては旧民主党の所属だった岸本氏に自民党支援をとりつけた。
「みんな一丸となって、岸本さんを応援しようじゃないか」病み上がりであるにもかかわらず、二階氏は街宣車の壇上から力強く訴えかけた。現場にいた和歌山県議の話。
「『二階先生はコロナで岸本さんの応援にはこれない』と、そんな話を聞いていました。私が出陣式の会場に到着したのは開始20分ほど前。すると、もう二階先生は現場に到着していました。『まだまだ、国、和歌山のためにやらねばならないことがたくさんある。コロナなんか負けておれん』と、とても元気そうでした。世耕氏に後を譲るような気配はまったく感じられなかったですね」
派閥としては党内で5番手の規模の二階派だが、安倍政権や菅政権の時代には、早々に支援を打ち出し、自身は幹事長、派閥としても十分な閣僚ポストを確保してきた。岸田政権になり完全に外され非主流派となっていたが、ここにきて二階派議員の顔も緩みがちだ。
「昨年の衆議院選挙で派閥議員の落選が相次ぎ一気に減ってしまった。それでも二階先生の顔で徐々にメンバーを回復させた。もう岸田首相の跡目についての動きが始まっている。安倍政権、菅政権の時のように流れに乗れれば、もう一度二階先生の手腕が発揮されることになる。チャンスが来た」
■茂木VS河野か?
昨年の自民党総裁選に出馬し、2位となった高市早苗経済安全保障担当大臣、河野太郎デジタル担当大臣、野田聖子衆議院議員らの名前が取り沙汰される状況だが、次期総理を目指して存在感を示そうとしているのが茂木派の茂木敏充幹事長だ。「派閥を茂木派に衣替えした茂木氏も有力候補だろう」という声もある。だが、事はそう簡単に運びそうもない。
外相、幹事長、派閥のトップと着実に階段を上がってきた茂木幹事長だが、総裁選への出馬経験はない。茂木派だけで推薦人は確実に集まるが、党内第2派閥でその数を麻生派と競う規模だ。しかも、派閥の中でも外でも、評判が悪い。ある無派閥議員は苦虫を嚙み潰したような表情で、こう打ち明ける。
「茂木さんのパワハラ体質は党内どころか、国民にも知られているところでしょう。秘書などの身内だけでなく、パワハラや横柄な態度に怒り心頭の議員はかなりいる。茂木派の中にも『総裁選挙になったら他の候補に(票を)入れる、茂木だけは嫌だ』と断言している人もいます。茂木さんを好きだという人は皆無に近い。嫌っている人なら簡単に見つけられる。それが茂木さんです。私自身も昔、『新人なんだからしゃべるな』と言われて、この人はなんだと思い、以来話したのは2、3回しかない」
高市氏は、総裁選挙出馬の原動力となった安倍晋三元首相がこの世にいないため非常に難しい情勢。野田氏も、前回は二階派など特定の候補を結束して推さなかった派閥があったため、たなぼたで推薦人が集まっただけ。今度は苦しい。茂木幹事長と並んで、中心となるのは、河野氏だとみられている。
「圧倒的に強い安倍政権が長く続いたので、自民党の中ではあまりケンカはなかった。その中で、ケンカの経験が豊富な数少ない人物が二階氏だ。和歌山知事選挙を見ても、乱世にはめっぽう強い。コロナに感染したのに、選挙初日には回復している。それも二階氏が怪物たるゆえんだ。岸田首相はいくら頑張っても、来年夏の広島のサミットでジエンド。もう跡目を狙う人たちが走り出している」(前出・大臣経験者)