鹿児島県医師会(池田琢哉会長)の男性職員(10月末で退職。以下、「男性職員」)が、新型コロナウイルス感染者の療養施設で強制性交の疑いが持たれる行為を行っていた問題を巡り、「合意に基づく性行為」だったと公表した医師会の調査委員会が、早い段階でその主張を覆す決定的な“証拠”を取得していたことが分かった。
事件の裏にあった男性職員の常習的なハラスメントを握りつぶした医師会が、都合の悪い材料の証拠能力を意図的に過小評価し、「合意に基づく性行為」だけを強調したのは確か。「合意論」を吹聴した池田会長の体面を守るため、組織ぐるみで被害を訴える女性の人権を踏みにじった可能性が高い。
■男性職員が自ら認めた「罪状」
今月18日の配信記事(隠蔽されたハラスメント|調査委議事録が問う報告結果ねつ造の可能性)で報じたとおり、県医師会が設置した調査委員会は、第一回の会議で性行為をはたらいた男性職員が常習的にセクハラ・パワハラを行っていたことを示す証言や証拠を確認しておきながら、調査報告に反映させず、懲戒理由にも加えていなかった。
組織ぐるみで真相を歪めた可能性が高いが、ハンターは、独自に入手した調査委の議事録に記されていた医師会顧問・新倉哲朗弁護士(和田久法律事務所)の発言の一節に注目した。下に再掲した新倉弁護士の発言のうち、赤い文字で示した文言だ。
一連の性行為を「合意に基づくもの」だったと主張している男性職員が「不利」になる「謝罪文」があるということ。さらに、謝罪文が「レイプを認める内容」であることが読み取れる。
一体どのような内容なのか――?取材を続ける中、ハンターは、男性職員が性被害を訴えている女性の雇用主に送信したとされる2種類の文書の「画像」を入手した。
問題の文書は、強制性交が疑われるわいせつ行為が発覚した直後、男性職員が、性被害を訴えている女性の雇用主に送付したとされる「文書の画像」。計5枚の便せんに、2種類の内容が手書きされている。
まず1枚は「罪状」と題するもの。4枚が、被害を訴えている女性スタッフに宛てた「詫び状」にあたる手紙である。以下、個人名や女性の雇用者が分かる部分を省いた記載内容である。まず、「罪状」と題される文書には、こう記されている。
(*以下、個人名や法人名などはすべて隠して●、△、□で表記。●=男性職員、△=被害を訴えている女性、□=女性の雇用主及び事業所名)
罪状
私、●●●●が、令和三年九月三十日、□□□□□□□□□□□内で、△△△△様に対し、自らの理性を抑えることが出来ず、衝動的な行動に至ってしまった事実に対し、刑法第一七七条に規定されております。強制性交等罪であることを認めます。令和三年十二月五日
●●●●
男性職員が手書きしたとされる「罪状」と題する文書には、「強制性交等罪であることを認めます」と明記してある。その上で男性職員は、被害を訴えている女性に「詫び状」と思われる文面の文書を作成していた。詫び状には、次のように記されている。
△△△△様
謹啓
このたび、私 ●●●●は、自らの理性を抑えることが出来ず、△△様に対し、多大なる身体的・精神的苦痛の被害をおかけし、誠に申し訳ございませんでした。△△様におかれましては、このような手紙を見るだけでもご気分を害されると思いますが、自身が犯してしまった罪について、改めてどうしても謝罪させていただきたく、お手紙を書かせていただきました。
どうか、最後までご拝読いただければ幸いに存じます。
本件当日、九月当初から、約1ヵ月に渡り取り組んできました新型コロナウィルス宿泊療養施設看護師業務マニュアルが出来上がった日でありました。
△△様には、日々の業務で大変ご多忙の中、(略)をして頂いておりました。
そのような姿勢を間近で感じながら、お仕事をさせて頂く中で、△△様に対する気持ちが日を追うごとに強くなっていることを感じており、当日、自らの理性を抑えることが出来ず、衝動的な行動に至ってしまいました。
私が、今回犯してしまった罪は、どのような理由があっても決して許されるものではありません。私の犯してしまった罪により、約二カ月の間、食事もまともに取れず、仕事もままならない状態であり、多大なる身体的・精神的苦痛を△△様におかけしたことに対し、ご家族に対しましても、多大なるご心配をおかけしましたことに、謝罪の言葉も見つかりません。
さらに□□□□先生に対しましても、今回のマニュアル改訂新型コロナウィルス宿泊療養所への医師、看護師派遣等、ご厚意に対し、踏みにじる行為をしてしまったことに対しましても、お詫びの言葉もございません。
自らが、今回、理性を抑えることが出来ず、衝動的な行動に至った事実につきまして、妻ならびに両親に説明を行い、自分が犯してしまった罪に対し、誠心誠意、△△様に対し犯してしまった罪の重さ、取り返しのつかない過ちを犯してしまったことに対する反省の思いしかありません。
自身が犯してしまった罪に対し、△△様ならびに雇用主であります□□□□様に対し、私が出来る最大限の弁償をさせて頂きたいと考えております。
謹白
令和三年十二月五日
●●●●
「自身が犯してしまった罪」「自らの理性を抑えることが出来ず、衝動的な行動に至ってしまいました」――男性職員が強制性交の事実を認め、その経緯を告白する内容だ。男性職員は、この手書き文書を作成し、女性の雇用主に画像だけを送信していた。その経過をみると、“見せかけ”の謝罪だった可能性が高い。
調査委員会の議事録で明らかになっているとおり、県医師会の顧問を務める新倉哲朗弁護士は、調査委の会議の中で「資料4の謝罪文に関しては不利」と話していた。その「資料4」こそが本稿で紹介している文書の画像。確かに男性職員にとっては「不利」な材料だ。しかし新倉弁護士は、「謝罪文は男性職員がレイプを認める内容だが、9月30日だけのこと」として、他の性行為についての告白ではないという見方を示していた。男性職員側に立って、罪を軽くしようとする姿勢がミエミエだ。
医師会上層部も、早くから提出されていたこの画像の文面について、男性職員の言い分だけを採用して組織内に広げていた。今年2月22日に開かれた県医師会郡市医師会長連絡協議会で、大西浩之常務理事(現・副会長)は、男性職員が女性の雇用主から「慰謝料を請求された」、「土下座をさせられた」などとした上で、「まあ、そういう状況から混乱したA職員(男性職員のこと)は事実と違うと思いながらも300万程度で収まるのなら何とかなると考え、そういうふうにA職員は考えたわけです。その後のやり取りで桁が一桁違ってきたため、断念。体調を崩し、10日程度の休みを取っています」などと発言していた。「脅迫」「恐喝」を指摘した無責任な医師会役員がいたことも分かっており、医師会上層部が、そろって男性職員の「罪状」や「詫び状」といった犯行を認めた文書の証拠価値を否定した形だ。
■セクハラの証拠と酷似する文面
医師会側がどうあがこうと、男性職員が書いた2種類の文書の証拠価値が否定されることはない。なにより、男性職員がこの文書を書いたのは、女性や女性の雇用主の目の前ではなく、被害を訴えている女性側の関係者が一人もいない場所。男性職員や医師会側は、あたかも女性の雇用主に脅されて“書かされた文書”と主張しているようだが、離れた場所にいる男性職員が、怖がって詫び状や罪状を認める文書を書くとは思えない。むしろ、画像だけを送ったことからも、その場しのぎの弥縫策で時間稼ぎをしたとみる方が自然だろう。男性職員には、セクハラを咎められ、ひたすら「お詫び」して逃げを打ったという前歴があることも明らかになっているからだ。ここで、今月8日の配信記事で報じた男性職員とセクハラ被害にあった女性との、SNS上のやり取りを再掲してみたい。
罪を認めてひたすら謝るところは、強制性交の被害を訴えている女性の雇用主に送った2種類の文書の文面とそっくりだ。つまり男性職員は、性的な行為が問題になるたびに、見え透いたお詫びや謝罪を繰り返して保身を図っていた可能性が高い。
男性職員のこうした「性癖」を知っていた県医師会が、ハラスメントの事実や2種類の文書を握りつぶしたのは、「合意に基づく性行為」という池田会長が吹聴した主張が崩れるのを恐れたからに他なるまい。県医師会の上層部や顧問弁護士に、性被害を訴えて刑事告訴までした女性の人権を守ろうという意識は、ない。
真相を隠し、鹿児島県民に“ねつ造”の疑いさえある「合意に基づく性行為だった」という結果だけを公表した県医師会――。池田会長は、どう責任をとるのか?