「遠くない時期に解散するとは聞いていた。だけど、予算審議もせず、こんなに早くやるとは思わなかった。苦しい国民生活は高市政権になってもまったく改善されていないのが現状。国民の支持が得られるのかどうか……」と首をかしげるのは、自民党の大臣経験者。1月9日午後11時に読売新聞オンラインが《高市首相が衆院解散を検討、23日通常国会の冒頭に 2月上中旬に投開票の公算》と速報したことで、永田町は一気に解散モードとなった。「働いて働いて働いて働いて働いて」物価高対策を含む来年度予算の成立を優先させるとしてきた高市早苗氏の言葉は噓だった。
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読売新聞の独走は続いた。1月10日の朝刊では、1面トップから4面まで解散関連の記事で埋め尽くし、解説や今後の見通しまで掲載した。この日は土曜日で、高市早苗首相も「休日」。マスコミは首相との接触すらおぼつかない日程に苦慮した。
昨年7月、読売新聞は当時の石破茂首相が「退任」と号外まで発行し速報。しかし、石破氏は退任せず「誤報」と非難された。この時のことを振り返りながら、読売新聞の関係者が嬉しそうに語る。
「石破退任で叩かれたので、今回は高市首相や周辺に十分な裏付けをとった」
高市氏はある意味、読売新聞を使って解散総選挙の「号砲」を鳴らしたことになる。当然、次なるカードも用意していた。読売新聞の新聞記事が出た10日のうちに、総務省自治行政局選挙部管理課から各都道府県選挙管理委員会宛に解散を知らせる事務連絡を発出させたのだ(*下の画像)。

《至急の連絡》という書き出しの連絡文書には、《至急の連絡です。本日の朝刊等において、1月23日召集予定の通常国会冒頭に衆議院解散、2月上旬に投開票、「日程は1月27日公示―2月8日投開票」「2月3日公示―2月15日投開票」の案が浮上している旨の報道がありました。報道の情報の中で最速の日程となることを念頭に置き、各種スケジュールの確認や業者との調整を含めて準備を進めておく必要があります。また、貴都道府県内の市区町村の選挙管理委員会に対しても、これらの内容を周知いただきますようお願いします》とあった。
総務省の通達に続いて全国市区選挙管理委員会連合会も下の文書を発出しており、解散総選挙は既定のものとなっている。

文書が送信された10日は、総務省など役所も「休日」。異例の動きだった。
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立憲民主党の幹部は苦い表情でこう語る。
「高市さんは長く総務大臣を務めていた。読売新聞の記事をもとに、総務省から二の矢を放つ仕込みを事前にやっていたとしか思えない。高市さんだからこそ休日総務省を動かすことができたんでしょう。完全に高市ペースの解散総選挙だ」
用意周到ともとれる解散風。ダメ押しとなったのが、11日に放送されたNHK討論に出演した日本維新の会の代表、吉村洋文大阪府知事の発言だ。司会から解散総選挙の報道について聞かれ、次のように答えている。
「おととい、政府与党連絡会議があり、終わった後で(高市首相と2人で)話をした。冒頭解散という具体的なものではないが『あれ、これは一段ステージが変わった』という発言があった。(解散総選挙の)報道は、驚いたものではない」――政局は完全に解散総選挙に向けて動き始めた。
高市首相が早期の解散総選挙に打って出る時期を見計らっていたのは確かだ。12月の報道各社による世論調査では、高市内閣の支持率が70%前後と高い数字をたたき出していた。自民党の支持率は30%前後をウロウロしているが「高市総理の人気でカバーすれば、他の野党はそう伸びないので勝てると踏んだんだろう」(前出の大臣経験者)との見立ては否定できない。
同氏は、自民党が実施していた過去の世論調査を見ながらこうも言う。
「2024年、石破さんの時の解散総選挙では191議席。直近のある調査では、それが少なくとも230は超えるという数字が出ている。高市人気が沸騰すれば、単独過半数をはるかに超える250、あるいは260台の議席も予測されている。反対に立憲民主党は前回の148から40議席ほど落とす見込みで、国民民主党、維新も横ばい、れいわが微減、参政党は微増という感じだ。高市さんもこの数字をみればやりたくなる。単独過半数をとれば好き放題やれる。それに、維新や国民民主党も頼る必要がなくなる」
仮に自民党が単独過半数をとったとして、国民のための政治ができるとは思えない。不況が続き、給料が上がらない時代が30年間続いてきたが、この間、政権の座にあったのは自民党。これまで消費税を10%にまでアップさせたり、減反によって主食のコメを不足させ値上がりを招くなど失政ばかりだ。円安が加速し、物価高が続き、首都圏では不動産の高騰で住まいの確保もままならない。高市氏が総理の椅子をつかみ取って数カ月、「働いて働いて働いて働いて働いて」やると言ってきた物価高対策は出てきていない。ガソリン税は下がったが、これは高市政権前からほぼ決まっていたこと。「女性初の首相」「極め付きの右派」という部分のみが、脚光を浴びている。極右は喜んでいるが、台湾有事発言の影響は拡大する一方となっている。
公明党の幹部は「高市自民が解散総選挙をやって、世論調査通りの数字で単独過半数をとると危険が増す。今、自民党が多少ながら支持を回復しているのは、参政党、日本保守党などの支持にまわっていた右寄りの有権者が、高市総理になって揺り戻されているだけ。高市さんが、いわゆる岩盤支持層だけに依拠して政権運営すれば、日本はいつ戦争に巻き込まれてもおかしくない」と危惧する。
自民党では旧安倍派などの裏金事件や、旧統一教会の韓国での新たな事件など看過できないスキャンダルが多々ある。連立を組む維新も「国保逃れ」や「公金還流」をはじめとする不祥事の宝庫だ。本来、通常国会で追及されなければならないスキャンダルは、解散総選挙によって一時的にせよ“塩漬け”にされる。大義名分もない解散総選挙は単なるめくらまし、疑惑隠しに他ならない。
噓つきであることが分かった高市早苗という右翼政治家が目指しているのは、単独過半数を得て「戦争ができる国」を実現することだ。必要なのは現状をはるかに超える防衛予算。暮らしを守りたければ、自民党と維新以外の政党を選ぶしかない。















