奈良市内における安倍晋三元総理の銃撃事件から20日が経過した。事件当時、周囲には約15人もの警察官が配置され警備にあたっていたが、現場で逮捕された山上徹也容疑者は、なんなく元総理の背後に近づき発砲に及んだ。警護対象者を守れなかったことの責めを負うのは奈良県警と警視庁だが、最高責任者は警察庁の中村格長官である。
■政権の犬
国家公安委員長経験者の大物議員が、こう話す。
「安倍さんにごまをすり、気に入られ、安倍さんに尽くして最高のポストに上り詰めた。その結果、警備の大失敗で安倍さん射殺……。中村長官は事件後、ある自民党幹部からの電話に『本当に申し訳ございません』などと話していたそうだが、正直、申し訳ございませんでは済まない事件だ」
中村長官は福岡県出身で、ラ・サール高校から東京大学、警察庁というエリート。政治と大きなかかわりを持つきっかけとなったのは、菅直人政権時代の2010年、中枢にいた仙谷由人官房長官の秘書官に抜てきされたこと。民主党政権時代は、枝野幸男氏や藤村修氏という官房長官に仕え、自民党が政権を奪い返すと、菅義偉氏の右腕として重宝された。そうした中、長期政権を続ける安倍元首相の目にも止まるようになる。
中村氏の最高の「手柄」と揶揄されているのが、2016年に起きたジャーナリスト、伊藤詩織さん暴行事件への対応。警視庁が、TBSの記者だった山口敬之氏の逮捕状をとった時のことだ。元警察庁幹部が振り返る。
「安倍元総理や菅氏に山口氏が泣きついた。そこで、当時、警視庁刑事部長という捜査の最高責任者だった中村氏が登場、上から逮捕状をストップさせた。この件は、その後、伊藤さんの民事訴訟でも同様の背景が指摘されている。普通なら大きく報じられマイナス評価になるが、当時は安倍一強時代で逆に政権との近さが評価を高める結果になった」
当時、中村氏は週刊新潮の取材に「私が決裁した」と山口逮捕に待ったをかけたことを認めている。それが大きな功績と認められたのか、2019年9月、中村氏はついに警察庁長官のポストを射止める。この時点で、中村氏は「政権の犬」と呼ばれる存在になっていた。
■与党からも責任論
警察庁長官は、警視総監と並ぶ警察組織内の最高ポストだ。歴代警察庁長官のキャリアを見ると、都道府県の本部長を経ているのが一般的。しかし、中村氏は本部長の経験がない。異例と言うべきだろう。
「都道府県の本部長というのは、一つの自治体の警察についてすべてを任されるわけです。そこで問題を起こさないか、適正な捜査が尽くせるかが試される場なのです。本部長をやらずにトップにつくなんて聞いたことがない。誰もが、安倍元総理であり、菅氏が中村氏のバックに控えているからと思っていたはずです」(前出の元警察庁幹部)
だが、安倍・菅という2人の後ろ盾のうち、銃撃テロという前代未聞の事件で安倍氏が消えてしまった。いくつもの問題点が指摘されている「警備」の最高責任者は中村長官だ。ある現役のSPは、次のような見解を示す。
「報道で何度も繰り返して現場の動画を見ました。必ず警護対象者の真横か真後ろにSPがつかなければいけないのですが、安倍元総理が演壇にあがる直前、何故か一緒にいたSPが場所を少し離れた位置を変えています。この動きは意味が分からない。一方、山上容疑者ですが、せっかく元総理が来るのですから、正面側に行くのが当たり前。ですが、演説会の最初から元総理の後ろ側となるバスターミナルの歩道でうろちょろ。警備側は誰も、それを『あやしい』と察知できなかった。警察官の一人は山上容疑者から1、2mのところに何度か近づいているし、安倍さんに最も近いところにいたSPは、何度か山上容疑者に視線を送っている。山上容疑者が動き出して最初の発砲をするまで1分前後の時間があったにもかかわらず、2発目の銃撃まで許してしまった。完全に警備のミス、大失態でしょう」
「安部さんの国葬後に辞職するらしいが、中村君はただちに更迭されるべきだ。警備の問題点を検証すると言っているが、失敗の検証を、失敗した組織のトップがやるということ自体が間違い。安倍さんのおかげで長官になれたのだから、守れなかった責任は重い。そもそも、今の安全で平和な日本で、元首相が射殺とは考えられない。奈良県警に責任を押し付けて居残るような噂もあったが、そんなことは許されない。しっかりと責任を取ってもらわねばならない。中村君は、検証が終わってからと命乞いするようなことを周囲に語っていたそうだが、国葬を待たずに辞めた方が中村君の将来のためにもいいと思う」(前出・国家公安委員長経験者)