大阪・関西万博が開幕した。1970年に同じ大阪で開かれた日本万国博覧会の時のような高揚感はない。予定の2倍にもなった工事費やパビリオン建設の遅れなど様々要因はあろうが、日頃から先進技術に接する機会が増えたせいもあって、国民が万博というイベントに魅力を感じなくなったのは確かだろう。万博誘致を政策の柱にした日本維新の会の最終目標は、跡地にカジノを含む統合型リゾート(IR)を整備すること。そのためには、失敗に終わりそうな万博の赤字を国民に押し付ける構えだ。
時代にそぐわないイベントでも「見に行きたい」と思う人はいるはずだが、販売済みチケットの大半は銀行などの関係企業に買わせたもの。ばら撒かれた無料のチケットによって入場者数はごまかせても、カネを払って会場に足を向ける人がどれだけいるかで成否が決まる。こうした場合に主催者が利用するのは、小中学校や高校の生徒たちの「数」。自分たちの意思に関係なく連れてこられる団体来場者で、入場者数を膨らませるという手法だ。狙われるのは「修学旅行」だと考えていたところ、福岡市在住の中学生の親御さんから、「万博を旅行先にした学校の方針に疑問を覚えた」とする声が寄せられた。福岡市内の中学校の「修学旅行事情」を調べてみると……。
■旅行先「万博」に保護者から厳しい意見
入場者数の増加を狙って大阪府などが「遠足」と称して計画していた「大阪府万博子ども招待事業」だったが、辞退する市町村が続出した。事業に参加しないことを決めた大阪府のある小学校の校長は「先生が下見もできず、ガス爆発が起こり、どのパビリオンが見学できるかもわからない。バス代金はこちらの負担で、それでなくとも運転手が不足しており万博まで行ってくれるバスがない。子どもたちを安全、安心に連れていけない場所だ」と厳しい意見を述べている。
では、高島宗一郎市長が万博への協力を公言してきた福岡市の公立中学の中で、万博を旅行先に選んだ学校の数はどれくらいか――?市教育委員会への情報公開請求で入手した資料によれば、小学校で関西方面に行く旅行はなく、主に関西方面を旅行先にしているという市立中学による修学旅行の実情をまとめた。それが下の表だ。
開示請求の対象となった中学校の数は70校。うち1校が旅行先未定、1校は旅行予定そのものがなく、確認できたのは68校となった。その中で万博を旅行先に選んだのはのは5校にとどまる。ほとんどの学校は「京都」「奈良」を選んでおり、万博以外のテーマパークで目立つのは、26校が選んだユニバーサルスタジオジャパン=USJという結果だった。
ハンターに情報を寄せた親御さんが疑問を抱いているのは、旅行先を「万博」にしたことについての学校側の説明だ。学校側は旅費の高騰を第一の理由に挙げたというが、自身の子供やクラスの生徒たちが希望していたのはUSJや京都、奈良。それが旅費の関係から“万博”と説明されたことに「納得がいかなかった」と話す。
その親御さんに福岡市立中の学校ごとの旅行先をみせたところ、「説明会で、(学校側は)USJは入場料が高いとか、いくつかの理由を挙げてましたが、他の学校はちゃんとUSJと京都、奈良を回ることになっている。やっぱりおかしい」と不満げだ。「学校ごとに旅費が大きく違いのでしょうか」と聞かれたので福岡市教育委員会に確認したところ、“上限を62,300円と決めているだけで、各校ごとの対応”という回答だった。他の学校の旅行先や旅費の上限があることを知って不満は募るばかり。「うちの子は万博なんて行きたくないと言っていた」と残念がる。
別の学校の複数の保護者に話を聞いてみたが、万博を旅行先にすることについては厳しい意見ばかりとなった。
・先端技術もけっこうですが、1970年代と違って、それらに触れる機会はいくらでもあります。むしろ、(子供たちを)京都や奈良に連れて行って、日本の伝統文化や歴史を体感させてあげることの方が大事ではないでしょうか。
・万博の入場者数確保のために子供達を利用するのは間違い。就学旅行の意義を再確認すべき。
・うちの子は京都、奈良なのでよかった。
・旅行先が万博になって、こどもががっかりしている。どうやって決めたのか分からないが、(学校側の)感覚がズレている。
・メタンガスが発生するような危険な場所に子供たちを行かせようとする神経は理解できない。そもそも、無理して行って、並ばずに見学できるのか疑問。
・問題ばかりの万博を、生徒たちに見せる意味があるとは思えない。
共同通信が3月に実施した世論調査によれば、万博に「行きたいと思う」は24.6%、「行きたいとは思わない」が74.8%だった。私見ながら、記者も修学旅行で行くべきは京都、奈良だと思う。
(中願寺純則)