本サイトなどで随時報告を続けている、北海道立江差高等看護学院のパワーハラスメント問題。一連の被害の中でも最も深刻な事案といえる在学生の自殺問題で、亡くなった学生と交流があった元職員の1人が道の第三者調査に協力し、事件前後の学生の様子や事後の学校の対応などについて証言していたことがわかった。元職員は改めて筆者の問いに応え、そのころ学校が作成したという報告書の不適切な内容などを証言、教員らの対応を「許せない」と憤っている。
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2019年9月に自殺した男子学生(当時22)とのやり取りを記憶していたのは、教員ではない職種で江差看護学院に勤務していた男性(66)。とりわけ今もよく憶えているのは、亡くなる前に本人が打ち明けたという「ロープ」の話。その日、疲れた表情の学生に「どうした」と声をかけると、「寝られないんです」と答えた相手が突然「実は昨日、手にロープを持っていたんです」と言い出したという。
「それで『どういうことだ』って訊いたら、『記憶ないんだけど(気がつくと)、ロープ持ってた』と。そんなロープどうしたのかって尋ねると『拾ったんです』って言うから、『そんなもん、すぐ投げれ(棄てろ)』って言ったんですが…」
翌日、元職員の男性が「投げたか」と問うと、学生は「物置のずっと奥のほうにしまったから大丈夫」と答えた。男性は思わず「なんで投げなかったのよ」と返したという。学生が亡くなったのは、それから数日後のことだった。
目を疑う光景を見ることになったのは、さらに1週間が過ぎたころ。その朝、男性が出勤すると、当時の副学長ら教員たちがまとめたらしい報告書があった。たまたま男性の視野に入る所に置かれていたため、何気なく目をやると、そこには「とんでもないデタラメ」が書かれていたという。
「先生たちの作文ですよ。自殺は家庭環境が原因だって。同級生とかの学生さんたちには一切、なんにも聴き取りしないで、適当な作文をでっちあげて道庁に上げたんですよ」
本サイトなど既報の通り、在学生自殺事案では北海道の第三者調査により自殺とパワーハラスメントとの相当因果関係が認められる結果となったが、調査報告後の一昨年5月に遺族へ直接謝罪した筈の道はその後、唐突に態度を一変させて先の因果関係を否定し始めた。手のひら返しの主張は、遺族がハラスメント被害を前提とした賠償交渉に臨み始めてから顕著になり、昨年9月に遺族が道を相手どる裁判を起こしてからはハラスメントの存在自体を否定するに及んでいる。
元職員の男性は道の対応を「許せない」と憤り、「道側の弁護士はあんな作文を本気で信じているのか」と呆れる。自殺事案に先んじて道が複数のハラスメントを認めた一連の被害事案では関与教員10人の懲戒処分が決まっているが、これも男性にとっては片腹痛い話だ。
「なんだかんだ言いながら処分の後も道庁で面倒みてますよ。辞めた副学院長にしても再任用でとっくに退職金が出てたし、痛くも痒くもないでしょう。亡くなった彼をいじめていた先生はおもに2人いましたが、そのうち1人は保健所へ移り、もう1人は看護師を育成する部署に異動したっていうんだから。…考えられない話ですよ」
遺族が起こした裁判は現在、函館地方裁判所で非公開の弁論準備手続き中。次回以降、公開の口頭弁論が設けられる時期は現時点で未定だが、原告側は問題の風化を危ぶみ、できるだけ早い時期の弁論再開を望んでいる。
(小笠原淳)
【小笠原 淳 (おがさわら・じゅん)】 ライター。1968年11月生まれ。99年「札幌タイムス」記者。2005年から月刊誌「北方ジャーナル」を中心に執筆。著書に、地元・北海道警察の未発表不祥事を掘り起こした『見えない不祥事――北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート出版)がある。札幌市在住。 |