4月15日、和歌山県の岸本周平知事が敗血症性ショックで亡くなった。68歳だった。岸本氏は、財務官僚から衆議院議員に転身し、旧民主党、国民民主党などで連続5期務めた後2022年の和歌山県知事選で初当選したばかり。この選挙の内幕については、本サイトで報じてきた通りだ(既報)。突然の訃報に衝撃が走った和歌山県政界の様子を取材した。
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4月17日に執り行われた岸本知事の葬儀には、二階俊博元自民党幹事長、吉村洋文大阪府知事、玉木雄一郎国民民主党代表など、政界関係者が数多く参列。あまりに早い知事の死を悼んだ。
その翌日、和歌山県選挙管理委員会は5月15日告示、6月1日投開票の日程を発表。県政関係者が選挙に向けて走り出さざるを得ない状況となった。
6月22日に東京都議選、7月には参議院選挙と大型選挙が控えており、前哨戦となる和歌山知事選が全国的に注目を浴びるのは必至だ。
岸本氏は野党・国民民主党の衆議院議員だったが、知事選では二階氏が中心となって自民党がバックアップし、当選を果たした。
「官僚として、そして国会議員としての実績、経験があった岸本氏だけに長期政権になるのだと信じていた。亡くなられる直前、スーパーマーケットで買い物されている姿もみていて、お元気そうだったのでビックリしている。こんなに早く次を考えることになろうとは……」と絶句するのは、ある地元の県議だ。
4月20日には自民党和歌山県連が緊急の会合を開催する予定で、次期知事候補についての話し合われるものとみられている。現在、候補にあがっているのは和歌山市長の尾花正啓氏、元総務相の石田真敏氏、元沖縄及び北方対策担当相の鶴保庸介氏、前知事の仁坂吉伸氏、下宏元副知事らだ。前出の県議はこう話す。
「最初に和歌山県連から打診があったのは尾花氏だったが、すぐに断ったという。石田さんや仁坂さんもその気がないらしく、ダメだった。そこで、鶴保さんに話をすると最初ははねつけたが、再度声をかけると『考えさせてほしい』と態度が変わった。鶴保さんが受けてくれるのではないか」
参議院当選5回、大臣経験者でもある鶴保氏は野田聖子元総務相の元夫であることで知られるが、自身の知名度はイマイチ。一時、衆議院への鞍替えが確実視されていたが、昨年10月の解散総選挙では取りやめた経緯がある。一方、参議院当選5回の世耕弘成氏は、和歌山2区への鞍替えに成功している。
渦中の鶴保氏にさまざまなスキャンダルがあることは、すでにハンターでも報じている(既報2)。なぜ、その鶴保氏なのか――前出の県議が次のように解説する。
「同じ当選回数である世耕さんへのライバル意識をむき出しにする鶴保さん。しかし、昨年の解散総選挙では衆議院に転出をせず、元秘書だった山本大地氏を擁立して当選させた。当時、世耕さんに続き鶴保さんまで衆議院に転出すると、和歌山選出の2人の参議院議員がいなくなるという理由で取りやめた。鶴保さんの最大の後ろ盾である二階氏は引退しており、どこにも行き場がなかった。そこへ岸本知事の急死。後継が必要となってきたことでチャンスが巡ってきたと本人は乗り気になっている」
鶴保氏が知事選に出ることになれば、夏の参院選と同じ日に補欠選挙も行われることになる。議席が二つになるということだ。トップ当選が任期6年、2位当選者が鶴保氏の残り任期でを務める3年議員という異例の事態となる。
これまで報じてきた通り、参議院議員は昨年の衆議院選挙で落選した二階氏の三男・伸康氏と、世耕氏が背後に見え隠れする元有田市長の望月良男氏が手を挙げており、第2次紀州戦争に突入することが確実だ。しかし、これが自民党にとっては好都合だという。その点について、ある自民党の県政界関係者が次のように語る。
「自民党は、参議院選挙で野党に負けたことがない。鉄板。それが昨年の衆議院選挙に続き保守分裂となると非常にまずいことになる。しかし、鶴保さんが知事に転出して参議院の枠が事実上二つになれば、伸康氏と望月氏で分け合うことも可能だ。第2次紀州戦争は回避できる。2人で1位と2位を独占すれば万々歳。穏便に収まる。急な知事選だから、うち(自民党)が勝つのは間違いない。2議席独占の参院選とあわせて独占できる」
こんなたくらみを許すほど世の中は甘くあるまい。事実、古くからの世耕支持者は「鶴保が知事なんて認めない。こちらは、昨年の総選挙に続いて参議院でも勝って二階王国を滅ぼすことが狙い。鶴保相手なら知事選で刺客を立てていい」と声を荒げる。
和歌山県民は、紀州戦争を終わらせるために知事選を利用するという一部の自民党の悪だくみをどう見るだろうか。