先月23日、衆議院和歌山1区選出の岸本周平議員(国民民主党)が記者会見し、今年12月に予定されている和歌山県知事選挙に立候補することを表明した。
一方で、現在4期目の仁坂吉伸知事は、何故かいまだに次期知事選挙について態度を明らかにしていない。背景にあるのは、野党議員でさえ政争の「駒」にする、二階俊博元自民党幹事長の強大な権力である。
■野党議員知事選出馬の裏に・・・
今年になって何度も噂にのぼっていた岸本氏の出馬表明に、「自民党が大きく割れてしまうのかもしれない」と心配げに話すのは、自民党のある和歌山県議。その理由は実に明確。岸本氏は旧民主党を経て国民民主党という経歴だが、地元では「隠れ二階派」と呼ばれるほど二階俊博元幹事長と親密な仲だからだ。
岸本氏は記者会見で「ふるさと和歌山のためだという思い。直接ですね、和歌山のために仕事がしたいなという思いがすごく募ってきました。ふるさと和歌山は、ほんとに今が正念場だなという思い」、「出馬表明にあたっては、若い世代の方などから、和歌山をよくしてほしいという期待する声が寄せられたことも大きな要因だ」などと語った。だが、それを信じる地元の政界関係者はほとんどいないという。聞こえてくるのは「二階先生から岸本氏にゴーサインが出たので、表明に踏み切ったのだろう」という声である。
岸本氏は国民民主党を離党して当面は無所属で活動するとしており、時期をみて議員辞職する意向を示している。そうなると、いずれは和歌山1区の補欠選挙となり、和歌山県は知事選と補選という、大きな選挙を2つも抱えることになる。その中心にいるのが、二階氏であることは間違いない。
■二階氏が描く選挙構図
仁坂知事は、二階氏の絶大なバックアップのもと、県政を長く率いてきた人物。それもあって知事は、二階氏肝いりのIR(カジノを含む統合型リゾート)誘致計画を推進してきた。だが、今年3月、驚くことにその二階氏が強い影響力を持つ和歌山県議会でIR議案が否決され、国への申請を断念せざるを得なくなった。
両者の間に、「すきま風」が吹くようになったのは言うまでもない。今年に入って、知事選挙についてある支援者が聞いたところ、二階氏はきっぱりと「知事選挙はフリーだ」と言い切った。その支援者は、次のように話す。
「仁坂県政は二階先生が作ったようなもの。次期知事選挙も仁坂氏を推すというのはが提だとばかり思っていたので、二階先生の答えには驚いた」
別の県政界関係者は「(県議会の)IR否決は、二階元幹事長が仕組んだ仁坂追い落とし策だという話もある。つまり、すべては二階一族のための深謀遠慮。IR失敗で知事への評価を落とし、ところてん方式で自分に都合のいい選挙構図を作ろうという魂胆なのではないか。それにしても、野党議員まで政争の駒にできるんだから、凄いというしかない」と呆れ顔だ。
二階氏が知事と距離を置くようになったのには、和歌山県政界の選挙事情が絡んでいる。岸本氏の地盤である和歌山1区は、県庁所在地である和歌山市そのもの。知事選挙は和歌山県全体での戦いとなるので、当選するには広大な和歌山3区を牛耳る二階氏の協力が不可欠だ。二階氏が仁坂氏に見切りをつけ岸本氏に乗りかえたとすれば、岸本氏から二階氏に対し、何らかの見返りがあるはず。実はそれが、和歌山1区の補欠選挙だと言われているのだ。
自民党の世耕弘成参院幹事長が衆議院への転出を狙っていることは、本サイトでも報じているとおり(参照記事⇒10増10減に反対する二階・世耕の暴論|「憲法改正で定数増」)。世耕氏が狙うのは現在の和歌山3区、つまり二階氏の選挙区だ。
二階氏は、世耕氏の野望をなんとしても抑え込みたい。そこで、野党だが選挙に強い岸本氏を知事に押し出して和歌山1区を明け渡させ、世耕氏を1区に転出させるのだという。それでも、世耕氏が和歌山3区にこだわるなら、腹心の鶴保庸介参議院議員を和歌山1区にくら替えさせることで対抗。空いた参議院の後釜には二階氏の三男を押し込むという算段だ。1区には、昨年の衆議院選挙で岸本氏に敗れた二階派の門博文元衆議院議員も控えており、候補者探しに苦労することはない。
野党は、和歌山1区に岸本氏以外に有力な候補者がいないため、うまくやれば和歌山県内の衆・参の議席を、すべて自民党で支配することができる。別の自民党山県議が、こう解説する。
「世耕氏が和歌山1区から出馬することはない、という見方が大半です。そうなると、いずれ二階先生とガチンコで争うことになりかねない。二階先生は、自分の息のかかった岸本氏には当面議員辞職させず、補欠選挙の時期を遅らせるという戦法をとるのではないでしょうか。また衆議院議員の定数見直し――10増10減――もあるので補欠選挙ができないことも考えられます。二階氏が岸本氏というカードを握っている限り、世耕氏はアクションを起こしづらいのです」
和歌山県知事選挙が岸本氏と仁坂氏の一騎打ちになれば、自民党が割れることが十分に予想される。だが、どちらに転んでも「二階王国」は変わらない。二階氏の高笑いが聞こえてきそうだ。