「1票の格差」を減らすため、次期衆院選で予定される10増10減。細田博之衆院議長が「3増3減」という私案を出す中、吠えたのが二階俊博元幹事長だった。地元和歌山県のラジオ番組の中で10増10減案について「腹立たしい」と批判していらだちをみせたが、同じ番組に出ていた和歌山県選出議員たちも、立法府の代表とは思えない暴論を展開していた。番組の内容を振り返ってみると……。
■ラジオ番組で言いたい放題
今月10日、二階氏は地元和歌山県の国会議員らと出演した「2022和歌山県選出 国会議員座談会」(和歌山放送ラジオ)の中で「10増10減」について聞かれ、次のように述べた。
「もう腹立たしいというか、不服をずっと言い続けている。こんなこと許されてなるかということですよね。こういうことなった原因はどこにあるか?政府の方針でどっか、誤り、手抜かりがあるんじゃないか?あればどこをどう直していくのか?そういうことの議論、いつも横に置いてすっとぼかせて、定数の数の話ばかり言うんですがね、地方にとっては迷惑な話。ですから、地方が栄えていけるように対応してゆく。なんの遠慮もいらない。しっかり和歌山方式やろうじゃないか」
二階氏がいう和歌山方式について、あとに続いた二階派の鶴保庸介参院議員が、「10増10減」で小選挙区が増える東京や首都圏を念頭に、国会議員の一極集中を避けるべきとの見解を示す。
「国会議員を見てください。東京の中学、高校に通って地元に戻りましたというのがたくさんいます。どうしても東京が故郷という育ち方をしている人がたくさんいらっしゃいます。東京や関東近辺(だけ)の国会になり由々しき事態。和歌山はおとなしくしとったらいけない、相当なことをやらねばいけない」
次に、「和歌山方式の具体案」ともいえるとんでもない見解を打ち出したのが、参院自民党の幹事長・世耕弘成参院議員だ。
「逆転の発想。1票の格差を2倍以下に抑える定数増。日本の国会議員、人口比では、世界と比べ多い方ではない。(衆院議員の)定数を増やしていろんな分野の議員が出られるようにすればいい」
なんと、国会議員の定数を増やせというのだ。しかし最高裁判所で「1票の格差」が2倍以上であれば違憲であるという判決はすでに確定しており、それを受けて2016年に成立した衆院選挙制度改革関連法により、2020年国勢調査の人口比の結果をもとに「アダムズ方式」で都道府県別の定数配分をすることが決まっている。「10増10減」を排除し、定数減ではなく定数増という「和歌山方式」を推進するというのは、まさに法を、さらには民主主義を否定する考え方だ。
この後も、和歌山県選出議員の暴走は止まらない。選挙制度のとりまとめ役は総務省なのだが、元総務大臣の石田真敏衆院議員が「その法律には見なおし条項がある。そこに細田衆院議長の3増3減がある」と援護射撃。最後には、ついに世耕氏が本音をのぞかせる。
「最高裁の判断、それに対抗するには憲法改正しなかい」
待ってましたとばかりに憲法改正論を引き取った二階氏は、「おっしゃる通り、憲法改正や。ね、突き詰めていったらそこへ行く。それを今日の和歌山放送の懇談会の成果、決議にしよう」と「和歌山方式」の定数増を推進したいと訴えた。
■権力亡者の暴論
安全保障のことではなく、議員定数がらみで憲法改正を持ちだした二階、世耕、石田の3氏は、いずれも「10増10減」によって大きな影響を受ける連中だ。法律の通り「10増10減」がスタートすると、和歌山の衆院選挙区は現在の3から2になる。県庁所在地で人口が多い和歌山市を中心とした1区は大きな区割り変更がないと見込まれるものの、二階氏が地盤とする3区と石田氏の2区が1つの小選挙区となる可能性が高い。そうなると、参院から衆院への転身を狙う世耕氏にとっては、より不利な状況になるのだという。
和歌山3区のある地方議員が、「和歌山方式」の裏事情を次のように語る。
「二階先生はまだまだ引退するつもりはない。石田さんにしても、小選挙区が減るからといって簡単には引けない。和歌山の選挙区が1減となれば、世耕さんは二階先生と石田さんという2人の大物のどちらかを蹴飛ばして転身を図らねばなりません。中選挙区時代の和歌山県は1区と2区があり、定数は最初が6でその後5になりました。世耕さんは、その頃の数字をもとに定数増を考えているのでしょう。二階先生と石田さんはどちらも和歌山県中部が地盤。世耕さんが最も強いのは和歌山県南部です。選挙区が減るのは困る。だから10増10減の対抗策に憲法改正まで持ち出すのです」
国家・国民のためでなく、自分たちの議席を守るために憲法を改正すべきと訴える権力亡者たち――。恥を知れと言いたい。