参院選巨額買収事件、検審「起訴相当」でざわめく政界

2019年7月の参院選広島選挙区の買収事件で実刑判決が確定した河井克行元法相と有罪が確定した妻の案里元議員。夫妻から現金を受け取り、公選法違反(被買収)罪に問われるも不起訴処分となっていた広島県議、市議、後援会関係者ら100人のうちの35人について、東京第6検察審査会は1月28日、「起訴相当」を議決した(議決は昨年12月23日付)。

一方、現金の受け取りを認め、市議などを辞職した人や後援会関係者ら46人は、検察に再捜査を求める「不起訴不当」。夫妻への捜査着手前に現金を返していた県議や後援会関係者19人は「不起訴相当」としている。大勢の地方政治家が罪に問われる可能性が出てきた広島では……。

■検審「議決書」の厳しい指摘

議決書は、判断した理由について《(現金を受け取った)被疑者の供述内容、克行及び案里の公判廷における供述内容、捜査報告書等により、いずれの被疑者の各行為についても、公職選挙法違反の罪は成立すると判断した》と冒頭に記載。「起訴相当」とした35人について、こう説明する。
《(公職選挙法では)1万円に満たない金額でも起訴されている事案もあり、それを遥かに上回る10万円以上の金員を受領している場合には、受領額は高額であると評価できる。(公職選挙法は)公職にある者が率先して遵守しなければならない法律であるにもかかわらず、県議会議員、市議会議員、町議会議員や首長という立場で、違法な金員を受領した場合には、その行為は悪質であり、責任は重大。議員辞職するなど責任ある行動をとっていない場合には事故の犯罪行為の重大性を認識しているのか甚だ疑問。責任の重さ、情状の悪質性にかんがみ、不起訴処分は不当であり、起訴するのが相当》

また、三原市長だった天満祥典氏については、辞任したものの金銭受領時に公職である市長という立場にありながら150万円という高額のカネをもらったことにより「起訴相当」。亀井静香元金融担当相の秘書などを務めていた山田賢次氏については、300万円という最高額をもらったことで「起訴相当」にしたと、理由を説明している。

また「不起訴不当」とした46人については、河井夫妻から受領した金額が《最も低額な場合、5万円程度。(公職選挙法は)金員を供与した者と同様に、受け取った者についても違法と定めている》として検察に再度、捜査するように求めている。

「不起訴相当」の19人のうち、県議や市議については《金員を受領した直後に、克行らに受領金員全額を返還した。重大性を理解した上で、適切な行動》という判断を下している。

■展開次第で政局に波及

「河井夫妻のおかげで、もうめちゃくちゃにされた。検察にも裏切られた」――起訴相当とされた、ある地方都市のA市議は怒りを隠せない。A市議は河井夫妻から現金を受け取り、検察に何度も事情聴取をされた。受け取りは認めたが、「買収ではなく、統一地方選もありその陣中見舞い、当選の祝いという意味と解釈していた。政治資金収支報告書に記載しなかったのはミスと検察に伝えたつもりだった」と憤慨する。その上で、自民党への不満もぶちまけた。
「そもそも、自民党本部から1億5千万円という法外な金を河井夫妻にぶち込んだからこうなった。ばらまくカネ、原資がないとこんな事件にはならん。自民党本部、安倍・菅政権も河井夫妻と同罪ではないのか」

2,900万円もの資金をばらまいた克行氏は法廷で、「ポケットマネー、預金などから(ばらまくカネを)用意した。自民党本部からの1億5千万円は使ってない」と証言した。だが、その裏付けについては証明できていない。

判決確定で終わったとみられていた巨額買収事件の再燃。窮地に陥るのは、安倍晋三元首相と岸田文雄首相だ。1億5千万円の経緯について知るのは、事件当時の自民党総裁である安倍氏はじめ数人のはず。自民党のある幹部は険しい表情で次のように話す。
「夏の参院選が近いだけに、ばらまき資金の支出は誰が指示したのかという問題が蒸し返されると、内閣や党の支持率に影響する。遠くない日に起訴相当となった地方議員らの裁判がはじまり、大きく報じられるとますますマイナスだ。安倍氏も岸田首相も、知っていることを話すべきではないか。それでなくとも、岸田首相は新型コロナウイス・オミクロン株でふらふら。政治とカネまでとなれば、政局に波及しかねない」

岸田首相の地元は、買収事件が起きた広島県。「起訴相当」とされた地方政治家の中には、岸田首相の選挙区である衆院広島1区の人もいる。首相は2021年に参院広島選挙区の再選挙が実施された際、街頭でマイクを握りこう訴えた。
「河井夫妻がばらまいたカネについてはきちんと調べるべき。自民党本部に責任はないのか」

最も厳しい「起訴相当」の35人について、検事長を経験した弁護士が指摘する。
「市民から選ばれた検察審査会がまっとうに判断した結果です。河井夫妻を立件した時に、(カネを)もらった側もきちんと処分しておけば、こじれなかった。検察の対応には大きな問題がある。おそらく県議、市議に不起訴にすると思わせるような話をして検察に有利な供述調書をとったので、(起訴を)できなかったとみています。再度検察が捜査して受け取った金額の多い人は正式な裁判で、10万円程度の人は略式起訴という判断になるでしょう。検察は、河井夫妻の裁判でもばらまきに使られたカネの原資についてきちんと立証していません。そこも突っ込んでやるべきでしょうね」

河井夫妻の事件でばらまかれた1億5千万円の「闇」の解明につながることを期待したい。

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