不祥事隠蔽の北海道警と記者クラブの蜜月(上)|毎日新聞「スクープ」の問題点

先月31日に配信した『児童ポルノ事件など隠蔽か|北海道警、仰天の不祥事連発』。北海道警察が昨年10月から12月にかけ、3件の深刻な不祥事を起こした現職警察官を懲戒処分にしながら、公表していなかったことを報じた内容だ。記事を執筆したのは北海道の月刊誌「北方ジャーナル」を中心に活動するジャーナリスト小笠原淳氏。隠蔽を疑って問題にした3件の“事件”は、いずれも同氏が道警に「情報公開請求」を行って入手した文書から見つけたものだった。

ハンターの編集部に初稿が送られてきたのは1月27日13時23分。間髪入れずに配信すればいわゆる「スクープ」だったが、数時間後、毎日新聞(ウェブ版)に「抜かれる」ことになる。

ハンターは「抜いた」「抜かれた」で勝負するサイトではないため、悔やむ気持ちはまったくない。問題は、公表されていない道警警察官の不祥事を、なぜ毎日がスクープできたのかということ。本件を巡る一連の「報道」について、2回に分けて検証するが、見えてくるのは権力側と記者クラブの癒着体質だ。

◇  ◇  ◇

小笠原氏が掘り起こした道警警察官の不祥事案は、以下の3件だった。
・屋外において、自己の陰部を露出した公然わいせつ。
・無車検・無保険車を運転した交通違反と文書の不適切管理。
・児童ポルノ禁止法違反と不倫。

警察の不祥事を追い続けてきた小笠原氏が「情報公開請求」で掘り起こした事実を、他社が報じることはないと判断したハンターの編集部は、記事配信を週明け31日と決めていた。ところが、この判断は甘かった。

小笠原氏が道警内部の懲戒や措置に関する開示請求をかけたのが1月11日で開示決定は21日。実際に文書を入手したのは26日だった。3件の未公表重大事案を確認した同氏は、27日午前に道警に対し事実確認を求めたが回答はなく、13時23分にはハンターの編集部に初稿を送っている。

【速報】として配信する選択もあったが、情報公開制度を駆使して道警不祥事を継続取材している地元メディアの動きなど聞いたことがない。お役所発表に頼ってばかりの記者クラブメディアが、小笠原氏より先行するとは到底思えない。「隠蔽」と打つであろう小笠原氏のスクープを嫌う道警が、これ見よがしに記者発表する事態も想定されたが、さすがにそこまでやることはなかろうと考えた。だが、実際にはそれ以上に、道警も、地元の大手メディアも腐っていた。

◇  ◇  ◇

27日18時02分、毎日新聞がネット上で警官不祥事についての記事を配信する。

タイトルは「北海道警、児童ポルノ製造容疑で20代巡査を書類送検 公表せず」。以下に、記事を引用する。(*引用記事の下が実際の画像)

2021年12月、北海道警が道内の警察署に勤務する20代の男性巡査を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで書類送検していたことが27日、関係者などへの取材で判明した。巡査は懲戒処分を受けた後、依願退職している。道警は「公表事案に当たらない」として発表していない。

関係者などによると、送検容疑は、警察署員だった21年、インターネットを通じて知り合った少女に「自撮り」させたわいせつ画像を送信させ、自身の携帯電話に保存したとしている。元巡査は容疑を認めているという。

道警は内部調査で事案を把握。同年12月8日付で、減給10分の1(1カ月)の懲戒処分とし、元巡査は直後に依願退職した。

道警は、①逮捕を伴わない任意捜査であること②処分が比較的軽い減給にとどまること――などを踏まえ、公表事案に当たらないと判断したという。監察官室は取材に対し「公表するかどうかは指針に照らして事案ごとに検討し、適切な判断に努めている」としている。【谷口拓未】

記事によれば、毎日の記者が『20代の男性巡査を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで書類送検していた』ことを掴んだのが『27日』。取材源を『関係者など』という極めて曖昧な表現でぼかしているが、断りがないところをみると「情報公開請求」によるネタの発掘でないことだけは確かなようだ。もちろん、『など』の中に小笠原氏は含まれていない。では、一体誰から詳細な情報を入手したのか?

小笠原氏に開示された懲戒処分に関する文書に記載されていたのは、以下の記述だけである。
《第1 令和3年6月11日、被害児童が18歳に満たない児童であることを知りながら、身体の一部が露出した姿勢を撮影させ、その画像データを自己が所有するスマートフォンに送信させた》
《第2 同年4月10日から同年9月27日までの間、既婚の部外女性2名と不適切な交際をした》

しかし毎日の記事には、処分された巡査が容疑を認めていたことや依願退職したこと、さらには「逮捕を伴わない任意捜査であること②処分が比較的軽い減給にとどまること――などを踏まえ、公表事案に当たらないと判断した」という道警のコメントまで記されている。小笠原氏の確認取材に対しては「1月中の回答はできない」と突き放した道警が、毎日新聞にはきちんとした説明をしたということになる。著しく公平・公正を欠く対応だが、ある意味分かりやすい。

◇  ◇  ◇

情報公開請求以外の手段で警察官の処分内容を掴むとすれば、警察内部の人間から聞くか、文書などの関係書類をもらうかのどちらか。毎日の記事の記述を信用するなら、同紙の記者は、20代の男性巡査が児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで書類送検されたという情報を、道警側からもらったとみるしかない。それが何を意味するか、だ。

道警が毎日の記者に処分内容を漏らしたとする見立てが正しいとすれば、守秘義務違反による情報漏洩。小笠原氏が時間と手間をかけ、開示実施手数料を支払ってようやく得た情報を、道警は“ただ”で毎日の記者に提供したことになる。すると、毎日の記者に対する「便宜供与」の疑いも生じる。

大げさに聞こえるかもしれないが、背景にあるのは日本特有の「記者クラブ制度」が生む、監視対象である権力側と監視する側の報道機関による癒着の構図だ。今回の件は、持ちつ持たれつの関係にある道警と記者クラブ加盟社の記者がつるんで、警察不祥事を厳しく追及してきたジャーナリストの「スクープ」を潰したとみることもできる。それが道警と毎日の“利害”が一致した点だろうが、道警の狙いは別にあった可能性が高い。

毎日が報じたのは、3件ある警官処分の未公表事案のうちの1件だけ。さらに、「逮捕を伴わない任意捜査であること②処分が比較的軽い減給にとどまること――などを踏まえ、公表事案に当たらないと判断した」という道警の言い訳まで紹介したことで、「複数事案の隠ぺい」という悪質性が薄れてしまっている。このあと、他の記者クラブ加盟社がほぼ同じ内容の報道をたれ流したため、道警の目論見通りに事が動く。<以下、次稿>

(中願寺純隆)

 

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