東日本大震災から10回目となる「3.11」を約1カ月後に控えた今年2月13日夜、福島県沖を震源とする最大震度6強の地震が発生、東北から関東地方にかけての広い範囲に被害をもたらした。
負傷者150人超。常磐自動車道では相馬―新地インターチェンジ間で斜面が崩壊し、東北新幹線の高架橋や電柱なども大きなダメージを受けた。強い揺れの割に死者が出なかったのが不幸中の幸いというしかないが、政府の地震調査委員会は少なくとも今後10年、大規模な“東日本大震災の余震”が発生する状況が続くと発表しており、とても安心できるような状況ではない。地震発生で騒然とする中、ある国会議員の事務所に高齢の男性から強い要望の電話がかかってきた。
■伝わらない災害情報
国会議員への要望は、NHKに対するもの。「地震発生が土曜日の23時7分。直後からテレビ各社は詳しく報道を続けたが、外国人に対する情報提供はほとんどなかった。NHKですら副音声で英語放送を始めたのが23時58分頃からだった。公共放送を自認しているNHKは、せめて英語放送だけでも地震直後から行うべきだ。常に非常時に備えるのがNHKの責務だ。指導してもらいたい」との内容だった。
外国人に対する災害時の情報提供の不備が大きく注目されたのは、大阪府北部の地震(6月)が起き、台風21号(9月)が荒れ狂った2018年のこと。特に、9月の台風のときは海外からの観光客への対応が大きな問題となった。
猛烈な風に煽られたタンカーが関西国際空港と対岸を結ぶ連絡橋に衝突し通行止めとなり、約8千人が空港に取り残されたが、そのうち2千人が外国人。関西国際空港は停電となり、空港内のアナウンスもできずインターネットも使用不可となった上、鉄道も運休したため、災害情報を把握できない状態で立ち往生した外国人観光客が大騒ぎする事態となった。
現在は新型コロナウイルスの影響で観光客がほとんどいないが、日本に暮らす外国人の数は282万9,416人(出入国在留管理庁2019年12月現在)。日本に住む100人のうちおよそ2人が外国人になる計算だ。
その外国人の災害対応で、もっとも高い壁になる言葉の問題で、長く日本に住んでいる外国人はこう話す。
「漢字で書かれている『避難所』や『勧告』『緊急』といった言葉は普段、あまり使わない。辞書を引かないと意味の分からない言葉もたくさんあった」
国内の識者からも「ほかの国に比べ日本は災害に対してかなりの備えをしている。しかし、ほとんどの情報が日本語で発信されており、外国人には理解困難」といった指摘が出ている。
日本語になじみの薄い短期滞在の外国人の場合は、もっと切実だったようだ。
「宿泊していたホテルの館内放送などでは状況が分からず、スマートフォンで母国メディアのニュースをチェックした。地震の大きさなどが分かったのは数時間後。自治体などによる情報発信は理解できなかった」
ある中国人男性が頼ったのは中国版ツイッター、微博(ウェイボ)だけだったという。
■情報伝達方法の確立を
日本最大の都市である東京都の生活文化局は、災害時の外国人への情報伝達について次のように説明している。
「首都圏での大規模災害に備え、外国人にわかりやすく防災の知識を伝えていくために、視覚に訴えかけ、記憶に残りやすいアニメ画像により『防災啓発動画』を作成しています。日本語、英語、中国語、韓国語の4言語で、地震発生時に注意すること、地震の前に準備しておくもの、職場や外出先で地震に遭った場合の行動の仕方などを学ぶことができます。防災への意識を高め、災害に備えるためにご活用ください」
しかし、前述の通り、現実には大きな混乱が起きており、安倍政権が力を入れて推進してきたインバウンド観光において、外国人に対する危機管理対策が全くお粗末だったことが露呈した形だ。
日本列島が、地震活動の活発期にさしかかったという識者の意見もある。また、地球温暖化の影響で水害の規模も拡大している。大規模な災害が発生する可能性は確実に高まり、政府はもう想定外と言い訳することはできない。コロナ後に備える意味でも、外国人に対する災害時の情報伝達方法を確立するべきだろう。